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ある王宮の日常とささやかな非日常について(シリーズまとめ版)  作者: あいの あお
第六章 アマリリス令嬢の恋と友情、ぬいぐるみについて

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76.幸せ者


 のちに父たちが囲んでいたのはグローリア宛の釣書だったと知ったわけだが、潰されるのが家なのか人なのか…どちらにしろ穏便に済ませて欲しいものだと思いつつグローリアは何も聞かなかったことにした。


「死にませんか?」

「手加減ぐらいはしてくださると信じましょう」

「そうですね、死なれるとちょっと困りますもんね」

「まぁ!大げさですわ!」


 ベンジャミン達の大きなひそひそ話にグローリアはついつい答えてしまった。

 いくら父や兄たちがグローリアを溺愛しているとはいえ、グローリアの夫になる人に危害を加えることは無いだろう。何だかんだでグローリアが悲しむことは絶対にしないのだから。


「いや、相手によっちゃ何にも大げさじゃないと思うけどな……」

「え?」


 ぼそりと呟かれた言葉にグローリアは王弟殿下を振り向いた。


「いや、お前は愛されてるなって話だよ」


 ふっと苦く笑うと、王弟殿下はグローリアの頭をぽんと撫でた。


「はい、わたくし愛されておりますのよ。家族にも、大切な友人たちにも。とても幸せ者ですわ」


 ふふ、とグローリアが笑うと、王弟殿下もにっと笑った。


「そうだな、それだけじゃないぞ?」

「そうだと良いなと思いますわ」

「そっち、向いてみろ」

「え?」


 言われて王弟殿下の視線を追うと、王弟殿下の側近たちがグローリアを優しい目で見ていた。思わずぱちくりと目を瞬かせると、アンソニーがにっこりと笑った。


「僕、グローリア様とお話しできるようになって嬉しいです!ポーリーンさんへのお土産話もできますし!!」

「うちの体ばかり大きいだけの仔獅子の面倒を一緒に見ていただけると大変ありがたいのですが……定期的に通っていただけると大変助かります」

「はい」


 ベンジャミンが困ったように笑いちらりと王弟殿下を見て肩を竦めている。ジェサイアは少しだけ口角を上げて小さく頷いた。


「あー、まぁ素直じゃねえやつらだけどなぁ。どうだ?」


 こいつらだってお前の味方だろ?そう言って王弟殿下は笑った。もう一度彼らを振り返ると、アンソニーは「はい!」と笑い、ベンジャミンも口元に微笑みを浮かべて目を閉じ胸に手を当てて小さく頭を下げた。ジェサイアはすでに無表情に戻っていたが、はっきりと、大きくゆっくりと頷いた。


「………幸せ者だと、思いますわ殿下」

「おう、それで良い。俺もそれが良い」


 グローリアが眉を下げて振り返ると、王弟殿下は笑いながらまたグローリアの頭をぽん、と撫でた。


「ヘタレなりに頑張りましたねレオ様」

「必要な話は一個もしてませんけどね」


 側近たちの大きなひそひそ話は王弟執務室では日常会話なのだろうか。半目になりながら側近たちを見ると、ため息をついて王弟殿下が言った。


「あー、そうだったな。茶会の時の話をしないと、な」

「はい、では……きゃっ」


 グローリアが立ち上がり元の場所へ戻ろうとすると、ぐいとまた腕を引かれた。突然のことに自分を支え切れずグローリアは勢いよくぽすりとソファに崩れ落ち、王弟殿下の方へ倒れてしまった。


「申し訳ありません、殿下!」

「いい、ここにいろ。ベンジャミン」


 王弟殿下は座ったまま腕だけでひょいとグローリアを抱え上げて座り直させるとベンジャミンに目配せをした。目配せをされたベンジャミンは少し不機嫌そうに頷いた。


「はいはい、止めますからね」


 グローリアが元々座っていた場所のカップと皿を片づけつつベンジャミンが言うと、王弟殿下もまた少し不機嫌そうに言った。


「止められることにならねえよ」

「どうだか。今のもはっきり言ってアウトですよ」

「げ……まじか」


 ぎょっとしたように少し仰け反った王弟殿下を再度不機嫌そうに見やると、ベンジャミンはグローリアを振り返りにこりと笑った。


「グローリア様、こちらどうぞ」


 湯気の上がる新しいお茶のカップがすっとグローリアの前に用意された。ベンジャミンはそのままじっと、観察するようにグローリアを見つめている。


「えっと、はい?ありがとうございますベンジャミン様?」


 なぜ見られているのか分からずグローリアが首を傾げながら礼を言うと、ベンジャミンの眉がへにゃりと下がり悲しそうな顔になった。


「嫌だったら、殴って良いのですからね」

「え、殴るですの?」


 ずいぶんと物騒な言葉にグローリアが目を瞬くと、それのことです、とベンジャミンが王弟殿下を小さく顎をしゃくり視線で示した。


「ええ、無理そうならジェシーに手を振ってください。ジェシーが代わりに殴りますから」

「はい」


 ジェサイアが声を出して返事をした。合図をすればグローリアに代わり王弟殿下を殴ってくれるということか。どういう状況なのかグローリアには分からないが、不敬にはならないのだろうかと心配にはなった。


「ええと、はい、分かりましたわ?」


 分かりはしないがアンソニーもまた真剣な顔で頷いているため、グローリアはとりあえず了承することにした。


「だからしねえって。お前らも居るだろう」

「居なければなさるんですか」

「だーかーらー!」


 淡々と言葉を重ねるベンジャミンに王弟殿下が半目になっている。先ほどから何の話をしているのか分からず、グローリアは素直に聞いてみることにした。


「殿下、何をですの?」

「うん、いや、お前をいじめるなって話だよ」

「わたくし、いじめられますの?」

「しねえよ、だから………」


 王弟殿下が疲れたように脱力して背もたれに寄りかかり天を仰いだ。にこにこと笑っているベンジャミンとアンソニーを見るに、ただただじゃれ合っているのだろう。ここの主従は本当に仲が良いのねと、グローリアは微笑ましく思った。


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