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ある王宮の日常とささやかな非日常について(シリーズまとめ版)  作者: あいの あお
第六章 アマリリス令嬢の恋と友情、ぬいぐるみについて

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73.夫婦の会話


 すでに三度目。見慣れた通路をベンジャミンとゆっくりと進んでいく。こうしてベンジャミンにエスコートされることにも随分と慣れてしまった。今ならば乱れた髪をしっかりと結われても嫌な気持ちにはならないかもしれない。


 そんなことを考えつつ他愛のない話をしていると、今日もあっさりと王弟殿下の執務室前へとたどり着いた。


「ジェシー、レオは?」


 扉の前に控えていたジェサイアにベンジャミンが声を掛けた。ジェサイアは今日も無表情のままひと言も発せずただこくりと、首をひとつ縦に振った。


「呼び出しておいて忘れるような獅子では無かったようです。それでは入りましょうか」


 とんとんとん、と扉を軽く三回叩くと、ベンジャミンは「お連れしましたよ」とだけ声を掛けて返事を待つことなくがちゃりと王弟執務室の扉を開けた。


「来たな、グローリア」


 扉をくぐると今日も王弟殿下は開口一番そう言った。基本、まともな挨拶は期待してはいけないということをグローリアは学んでいる。


「ごきげんよう、殿下」


 軽くカーテシーをすると、ベンジャミンがまたグローリアの手をするりと取った。


「グローリア様、どうぞこちらへ」


 そのまま応接セットへと導かれ、定位置となったソファへと腰を落ち着ける。


「ありがとうございますベンジャミン様」


 グローリアが礼を言うと、ベンジャミンはお茶をお持ちしますね、と微笑んだ。


「お、名前で呼ぶようになったのか?」


 執務机から立ち上がりぐーっと腕を上げて背を伸ばすと、王弟殿下もグローリアの前にどかりとまた乱暴に座った。


「先ほどお許しいただきましたのよ。ね、ベンジャミン様」

「ええ、グローリア様」


 グローリアが見上げると、その通りとばかりにベンジャミンがグローリアを軽く覗き込み頷いた。そうしてちらりと王弟殿下に視線をやると、ベンジャミンはすっと、更に目を細めてにっと笑った。


「よろしければオルムステッド様とスタンリー子爵もどうぞグローリアとお呼びくださいませね」


 今日は珍しく執務室にスタンリー子爵がいる。スタンリー子爵はアンソニー・オブライエン。王命で結婚したポーリーンの旦那様だ。


「ジェサイアと」


 ほんの少しだけ口角を上げ、ジェサイアが名乗った。グローリアも名で呼んでいいということなのだろう。これからはきっとグローリアのことも名で呼んでくれるはずだ。イーグルトン公女とすら呼ばれた覚えが今だに無いのだが。


「ありがとうございます、グローリア様!僕のことはどうぞアニーって呼んでください!駄目ならアンソニーで!」


 ぱっと、嬉しそうに笑ったアンソニーが愛称で呼んで欲しいと綺麗な濃い青の瞳をきらきらと輝かせた。ほんの少しだけウィルミントン令嬢よりも濃い青だ。あちらは凛々しかったが、こちらはずいぶんと愛らしい。ずっと年上のはずなのに何だかまるで子犬のようだ。


「ありがとうございます、ジェサイア様、アニー様」


 せっかくのポーリーンの旦那様からの提案だ。断るのも残念な気がして、グローリアは愛称で呼ばせてもらうことに決めた。


「はい!!あの、グローリア様は今日は騎士団には……?」


 にこにこと笑っていたアンソニーの表情がふっと、少し悲しそうなものに変わった。騎士団にはポーリーンがいる。やはりまだポーリーンとはうまくいっていないのだろうか。


「ちょうど友人と今日伺う予定だったのですが、こちらにお呼ばれしましたのでわたくしの名前で焼き菓子を友人に託しましたのよ」

「あー……レオ様のせいですか」


 アンソニーはぐっと眉を寄せ半目になってちらりと王弟殿下を見た。声もオクターブひとつ下がった気がする。


「おい、アニー言い方」


 むっと唇を尖らせた王弟殿下にアンソニーは更に目を細めると、ぱっとまた子犬のようなきらきらとした瞳でグローリアを振り向いた。


「あの、グローリア様、良かったらお時間のある時に鍛錬場に顔を出してあげてくれませんか?」

「え?何かございまして?」


 胸の前で腕を組み懇願するように眉を下げたアンソニーに、グローリアは何かあったのかと少し身を乗り出した。


「はい、あの、ポーリーンさんが、最近グローリア様のお顔が見えないって寂しがっていたので……」

「まぁ!ポール卿が?」

「はい。ポーリーンさん、公爵家の甘いお菓子もしょっぱいお菓子も大好きだって言ってたんですけど、やっぱりグローリア様のお顔が見えるのが一番嬉しいと思うので……」


 しょんぼりと肩を下げて言うアンソニーに、申し訳ないがグローリアはほっとした。ポーリーンとの間に会話があるということだ。

 グローリアたちが春休みの間にポーリーンは騎士の寮からスタンリー子爵邸へ移ったと小耳に挟んでいた。王命で夫婦になった以上そう簡単には離婚すらできない。どうせなら幸せであって欲しいと、グローリアもずっと気にはなっていたのだ。


「分かりましたわ。来週はわたくし、必ず鍛錬場に参りますわね」

「ありがとうございます!土曜日ですよね?」

「ええ、いつも通り土曜日に伺いますわ。焼き菓子も持って」

「はい!ポーリーンさんにも伝えますね!!きっととても喜びます!!」

「こちらこそありがとうございます。わたくしもそう仰っていただけてとても嬉しいですわ、アニー様」


 こうして今日話したことをポーリーンに伝えることもできるのなら、きっと子爵邸では悪いようにはなっていないのだろう。直接聞けるほどアンソニーともポーリーンとも深い繋がりは無いが、端々にうかがい知れるアンソニーの嬉しそうな様子にグローリアはポーリーンも幸せであることを祈った。


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