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ある王宮の日常とささやかな非日常について(シリーズまとめ版)  作者: あいの あお
第六章 アマリリス令嬢の恋と友情、ぬいぐるみについて

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67.グローリアの姿絵


 その後、王弟殿下に会うことは叶わず詳細が聞けぬままに三日が過ぎた。明日には新学期が始まってしまうという今日、春休み最後のいつものお茶会がウィンター伯爵家のサンルームで開催された。


「ちょっと、聞いたわよグローリア!!」


 挨拶をすませ着席すると同時にモニカがきらきらと若草の瞳を輝かせてグローリアのすぐ隣へ椅子ごとやって来た。


「モニカ、怒られますわよ」

「大丈夫よ、今日はうちじゃないもの」


 淑女が自分で椅子を運び移動するなど褒められたことではない。ティンバーレイクで茶会をする時にこれをやると必ず「んん!」とどこかから咳払いが飛んでくるのでモニカは絶対にやらないのだが。ふと、脳裏に指に付いた焼き菓子を舐め取ろうとして咳払いをされた王妃殿下が浮かび、容姿だけでなく性格まで良く似ているのだなとグローリアは感心した。


「ところでグローリア。凄かったらしいわね?」

「凄かったと申しますと?」


 春の茶会よ!!!と三割り増しの輝きでグローリアに詰め寄るモニカに、グローリアは少々仰け反った。


「縁談除けですわよ。他意はありませんわ」


 頬を染めるでもなく淡々と言い切ったグローリアに、モニカはむっつりと膨れるとちらりとドロシアとサリーを見た。


「そんな感じだった?」

「いえ、大変な目の保養でした」

「私、おふたりの姿絵が欲しかったです……」


 うっとりとため息を吐きつつさっぱりと答えになっていない答えを返したふたりにもモニカは満足したように満面の笑みで頷いた。


「そうよね!?わたくしも見たかったのに……」


 どうもふたりの回答は的外れなものではなく正解だったらしい。今年ほど茶会に出たかった年は無いわ!とモニカがまたも唇を尖らせた。


「見たかったのですか……?」


 グローリアが複雑な気持ちで首をかしげると、その気持ちごと聞き取ったのか、モニカがぱちくりと瞬きそうして困ったように笑った。


「そうね、見たかったわ。グローリアだから」

「わたくしだから、ですの?」


 モニカがちらりとベルトルトを見ると、ベルトルトが優しく微笑み頷いた。モニカも頷き返しベルトルトに手を伸ばすと、ベルトルトは破顔してその手を包むようにきゅっと握った。


「複雑で無いわけでは無いのよ?もちろん、ちょっとした嫉妬のような気持ちはあるわ。わたくしがグローリアの立場だったらお兄様は同じようにはしてくれなかったはずだもの」

「そのようなことは」

「あるのよ。確信があるの」

「モニカ………」


 モニカと王弟殿下のつながりはグローリアと王弟殿下よりもずっと長い。そして、グローリアとモニカのつながりよりもモニカと王弟殿下の方がずっとずっと長い。モニカがそう言うのなら、きっとそうなのだろう。


「複雑ではあるのだけどね、それよりもずっと『見たかった』気持ちの方が大きいのよ。わたくしが敬愛するお兄様と、わたくしの大切なグローリアが寄り添う姿………想像するだけで美しいじゃない!!!!!」


 モニカがベルトルトとつないでいない方の手でこぶしを握り締め今にも立ち上がりそうなほどに力を込めて言った。その勢いに、またもグローリアは「そ、そう」と仰け反った。


「よろしいでしょうか?」


 珍しくドロシアが手を上げ発言権を求めた。


「もちろんよドロシア。どうしたの?」

「実はあの日の茶会にはドラモンド公爵令息が参加しておられまして」

「ドラモンド公爵令息って……ニール様?」

「いえ、ローレンス様です」


 ドラモンド公爵家はイーグルトン、ティンバーレイクと並ぶ五大公爵家の一角。現在の宰相はドラモンドの現当主だ。グローリアたちよりもずっと年上のご子息がふたりいる。


「ああ、確かにローレンス様は独身でいらっしゃるけど……え、なぜ?」

「王妃殿下に召喚されたそうで」


 ローレンス・ドラモンドは芸術と花をこよなく愛する貴公子で確か王弟殿下よりも年上だ。芸術と花を愛しすぎて女性に一切興味が持てずいまだ独身と聞く。描く絵は国外でも高額で取引されるほどの腕前らしい。


「王妃殿下に?」

「はい。茶会で王弟殿下とグローリア様の寄り添うお姿に感銘を受けたローレンス様が、既に絵の制作に乗り出されたとのことです」

「まさか王妃殿下、そのためにローレンス様を?」

「その可能性が高いかと」


 つまり、絵を描かせるためにあえて呼んだのか。グローリアたちが十を数えると知っていて呼んだのか。完全に面白がっていた王妃殿下の楽しそうに煌めく若草の瞳を思い出し、グローリアは脱力した。


「さすが王妃殿下、用意周到ね!」


 よく似た若草の瞳をきらきらと輝かせてモニカがにこにこと笑っている。ちらりとつながる手の先を見ればベルトルトも嬉しそうににこにこと笑うモニカを見ている。そのふたりの様子に安心するとともに、グローリアは内心で小さくむっとした。面白くない。


「完成となった暁には当家で小型版の複写を作成させていただき、ご希望の方へ絵の販売も視野に入れているのですが……」

「良いわね!わたくし一枚買うわよ!!」


 「あらまぁ!」とはしゃぐモニカを見て「少し大きいものも特注できるの?」とベルトルトがドロシアに聞いている。「もちろん、ご用意しますよ」とにっこりと商売用の笑顔を浮かべるドロシアにグローリアは更に脱力した。


「お待ちになってモニカ、ドロシア。当事者を無視して話を進めないでくださいまし…」

「あら良いじゃない、絵くらい減るものじゃないんだし」

「減らずとも増殖するではございませんの」

「当然ね、増やすのが目的の複写ですもの」


 すでに決定事項となりつつある絵の販売に王弟殿下が反対してくれないかと思ったが、王妃殿下の発案である以上それもまた期待はできない。ベンジャミンも実害が無さそうであれば止めはしないだろう。実害はあると思うのだが、主にグローリアの縁談に。

 きらきらと輝くモニカの笑顔の前では何を言っても無駄な気もして、グローリアは小さくため息を吐いた。


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