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ある王宮の日常とささやかな非日常について(シリーズまとめ版)  作者: あいの あお
第六章 アマリリス令嬢の恋と友情、ぬいぐるみについて

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64.メイウェザーの心


 グローリアは思わず王妃殿下とハリエットの顔を交互に見て胸の前でぱちりと手の平を合わせて頷いた。


「わたくしもぜひグローリアとお呼びくださいませ、ハリエット様。メイウェザー伯爵家のお血筋は様々なものに人生をお掛けになると聞いておりましたが……人にお掛けになることも良くあるのですね」


 グローリアがにっこりと笑うと、王妃殿下はハリエットと目を見合わせ何度か瞬くと照れくさそうにグローリアに微笑んだ。


「良くあるわけでは無いそうよ。とある方から、メイウェザーの心を手に入れれば最大の味方になるけれど思いを受け止め切れなければ皆が不幸になる、と忠告されたくらいにはね」

「どうしましょう、素敵、と申し上げてもよろしいでしょうか?」


 グローリアは合わせていた手の指を組み大きく息を吸った。つまり、王妃殿下はハリエットの心を得て、ハリエットの心は王妃殿下に受け入れられたのだろう。何物にも代えがたい特別なつながりにグローリアの心臓がどきどきと早鐘を打った。


「あら、ありがとう。ハリエットはメイウェザーだけど、どうしようもなくお人好しのメイウェザーだからこそ私でも何とかなっているのよ」


 私ではなくうちの侍女が凄いのよ!と嬉しそうに笑う王妃殿下に、ハリエットもまた優しい視線を送っている。素敵な主従にグローリアの胸が熱くなった。

 そういえば王弟殿下とベンジャミンもどこか普通の主従とは違う繋がりを感じる。ベンジャミンもやはりメイウェザーなのかもしれない。そして王弟殿下もまた、メイウェザーの心を受け止めた稀有な者なのかもしれないと、グローリアの目元が少しだけ熱くなった。


「あらいけない、話が脱線してしまったわね」


 ふふふ、と口元に手を当て目元を朱に染めて笑う王妃殿下はすでにふたりの子を産んでいるとは思えぬほどに愛らしい。第二子であるクリスティーナ王女にはたまに呼ばれてお会いすることもあるが、その容姿は陛下の色をした小さな王妃殿下だ。将来は王妃殿下のように美しくも愛らしい女性になるのだろうと、会いに行けばいつも飛びついてくる御年六歳のクリスティーナ王女の小さな手を思い出してグローリアの頬も自然と緩んだ。

 そういえば二か月後にはクリスティーナ王女は七歳になる。何を贈ろうかと、グローリアの心が更に浮き立った。


「そうそう。ベンジャミンの祖母、マイラさんね」


 照れを隠すようにひとつ咳払いすると、王妃殿下は表情を微笑に整えて小さく頷いた。


「実はマイラさんはね、ハリエットほどでの赤では無いけれど、ほんの少しだけ茶色を混ぜたような見事な赤の髪だったのよ。ベンジャミンの髪より少し明るいくらいね。だから本当は見落とすはずなんて無かったのよ。港町だったこともあって珍しい髪色だから攫われて売られたんじゃないか……って、話だったの」

「それは……」


 珍しい髪や瞳の色の人を奴隷や愛玩用として売り買いする文化がある国もあると聞く。当然、この国では人身売買など禁止されているし、万が一行われれば関係した者全てが厳罰に処される。

 それでもなお、この国でも人身の密売が取り締まり切れていない。潰しても潰してもどこかから湧いて出るのだと、父が苦々しい顔で兄たちと話していたのを小耳に挟んだことがある。


「もちろん王宮もその線でも調査したけれど何の手がかりも掴めなくてね。さすがに次期当主がずっと領地を離れたままにはできないし、何より学園にも通わなくてはいけなかったから十五の年で一度領地に戻ったのよ」


 基本的には王侯貴族は皆、どこかの学園に通う。ほとんどの高位貴族は王都にある学園に通うが、東西南北、各地にも学園がありそれぞれに特色がある。特色に合わせて通う学園を決める家も多いが、メイウェザーは家と言うより個人の主義が通されるので通う先は常にバラバラらしいと聞く。


「それから五十数年、先代メイウェザー伯は探し続けたの。現在のメイウェザー伯爵に……つまりハリエットのお父様ね、爵位を譲ってからは更に各地を巡ってまで探し続けたわ。ひとりで馬に乗って、六十を越えた前伯爵がよ」

「壮絶、ですわね」


 グローリアは眉を下げた。メイウェザーは放浪とも言える旅をすることがあるとは良く聞くが、まさかこのような旅とは思わない。他のメイウェザーの人たちもまた、同じように何かを探して彷徨っているのだろうか。初めてグローリアはメイウェザーの血を本当に呪いかもしれないと思った。


「ええ、まさしくだわ。でもね、実はとても近くでマイラさんは生きていたのよ」

「近くで、ですか?」

「ええ。実は同じ時期に港町に旅行に行っていた子爵家があるのよ……調べれば分かることだから言ってしまうけれど、現在のスピアーズ男爵家ね」


 爵位に相応しい品位を保てなくなった時、何か大きな過ちを犯したとき。王命であれ自己申告であれ爵位が下がることがある。まさしくスピアーズ家はそれに当たるのだろう。グローリアが貴族名鑑をめくるようになった頃にはすでに男爵家であったと記憶しているが。


「降爵……」

「そうよ。当時のスピアーズ子爵夫人は娘を亡くされたばかりで、おひとりで傷心旅行中だったのよ。たまたまよちよちとひとり歩く小さな女の子に亡くなった娘さんの面影を見て、そのまま連れ帰ってしまったそうなの」

「なんてことを………」


 ちらりと母を見ると、母はお茶を飲みつつ静かに目を伏せていた。母もまた、詳しい事情を知る者のひとりなのだろう。


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