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ある王宮の日常とささやかな非日常について(シリーズまとめ版)  作者: あいの あお
第六章 アマリリス令嬢の恋と友情、ぬいぐるみについて

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57.狸じじい


 王弟殿下はすこぶる容姿が良い。良すぎるばかりに噂話に尾ひれがつきやすい。特に色ごとに関する話には尾ひれどころか新たな骨格や羽までつく。

 王弟殿下のお相手と目される女性を数えるだけでも両手両足の指では残念ながら足りはしない。ましてや一夜のお相手ともなれば、自称他称、老若男女、貴族神官平民、数えようにもほぼ無数だ。さすがに全てが噂や詐称だけでは無いだろうが、それでも正しく選んでいると信じたい。グローリアの精神の安定のためにも、国のためにも、だ。


「わたくし、殿下を顔だけだなどと思っておりませんので言う必要を感じませんわ」


 横向きで顔だけをこちらへ向ける黒の兎を口に入れゆっくりと咀嚼する。案の定外側は苦みのあるダークチョコレートだが、中から出てきたのはこちらもとろりと甘いミルククリームだ。苦みと甘みが程よく、これはこれで美味しい。ミントティーのすーっとした香りが鼻に抜けて甘いミルクと溶け合った。


「………そういうものか?」


 王弟殿下がグローリアを見て不思議そうに小首を傾げ、視線を俯かせると呟いた。そうして何事かを考えるように薄い唇に手を添え、濃紫の瞳をぐっと細めた。 

 絵になるな、などと視界の端に王弟殿下を捉えつつグローリアが静かにミントティーを口にしていると、思索が終わったのかすっと視線を上げ、グローリアを見た。


「ともかくグローリア。良いから寝込め。アレには会うな。必ず面倒なことになる」

「そうは申しましてもわたくし、今日こうして王宮に来てしまいましたわ」

「あー、そこはほら、王宮で食あたりを起こしたとか」

「確実に王宮侍医が当家へいらっしゃいますわよね」

「ついでに騎士団の調査まで入りかねないな」

「それこそ誤魔化しが利きませんわね」


 仮病で欠席する方法についてはモニカとも似たようなやり取りを繰り返したが、どうやっても国王陛下が絡む以上は難しいという結論に達した。モニカが「権力って本当に面倒くさいわね、もう」と憤慨していた。


「俺はお前をアレに会わせたくない」


 王弟殿下が不機嫌そうに眉をしかめるとむっつりとした顔で言った。


「わたくしも会いたくございませんわ」


 グローリアがゆるゆると首を横に振る。それを見た王弟殿下は更にきゅっと眉根を寄せ、わざとらしいくらいに嫌そうにため息を吐きつつ言った。

 

「ついでに見合いはしたくない」

「そこは……わたくしには何とも申し上げられませんが……」


 グローリアは曖昧に微笑んで目を逸らした。

 やはり名目だけではなくまともな見合いも同時に行われるようだ。そうであろうとは思っていたが、名目にしておきたい王弟殿下の気持ちは分かる。

 王弟殿下は腕を背もたれに広げて乗せぐったりと寄りかかり、だらりと体を伸ばした。


「流れで反対しとけよ、そこは。真面目か」


 あまりにも脱力したやる気の無さそうなその姿に、グローリアは思わず笑ってしまった。


「ふふ、お会いになって欲しくないと申し上げましたら、会わずにいてくださいますの?」

「多少は頑張るかもしれないぞ?」


 にやりと笑った王弟殿下に、グローリアもまた屈託のない笑顔で「あらあら」と応えた。

 そんなに簡単な問題でも無いだろう。けれど王弟殿下ならばどうとでもしてしまいそうで、グローリアはまた「ふふふ」と笑った。


「それにしてもなぁ、何でこう面倒ごとばかり持って来るかな兄上は……」


 グローリアが最後のひと粒、白の兎に手を伸ばそうとしたところで王弟殿下がはぁ、と大きなため息を吐いた。もう国王陛下について取り繕う気がさっぱりと無いらしい。

 前回の訪問ではかなりの衝撃を受けたが、思いの外グローリアは図太かったようで今回は思ったよりも衝撃が少なかった。


 げんなりとした顔で背もたれに寄りかかる王弟殿下をじっと見つめ、そんな状態でもお綺麗なのねと感心しつつグローリアは小さく口角を上げた。


「そうですわね……お互いにお会いしないことが無理なのでしたら、いっそ、振りでもいたしますか?」

「振り?」

「ええ。茶会の間だけ、あえて周囲から誤解を受けるような行動を」


 そもそも、グローリアと王弟殿下の間が良好であれば他者が割り込む隙間は無いはずだ。単に王弟殿下自身がグローリアは無いと宣言し、グローリアもまた王弟殿下に対して良い印象を持っていないように振舞っているため周囲もどう転ぶかの判断が付かずにいるだけだ。実際、つい先日までグローリアから見た王弟殿下の印象はあまり良くは無かったわけだが。


 ふーん?と少し考えるように首を傾げた王弟殿下が「あー……」と眉を下げて首の後ろを撫でた。


「嬉々として囲い込まれるのが落ちだぞ、お前」

「まさか殿下にですの?」

「いや、俺じゃねえよ。兄上と義姉上と宰相と大臣達…狸じじいどもだな」


 グローリアがぎょっと目を見開くと、違う違うと首を横に振り王弟殿下は実に嫌そうな顔をした。大臣達を『狸じじい』と呼んでしまうあたり、王弟殿下と大臣達の間にはきっとグローリアの知らない何かが色々あったのだろう。グローリアからすれば皆、気の良いおじ様、おじい様方なのだが。


「両陛下と大臣方はその……仲があまりよろしくないのかと思っておりましたが」

「俺の婚姻に関してだけは結託してる。腹が立つくらい」

「まぁ、それはそれは………」


 王弟殿下のお相手探しは王宮内が満場一致するほどに悩ましい問題だったらしい。

 その悩みの一端を担っている自覚があるグローリアはどう答えて良いものか分からず、曖昧に微笑み誤魔化すようにティーカップに口を付けた。


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