50.国王陛下の口添え付き
大きな天候の崩れはあったが王妃殿下が予定通りに王宮に戻り、その翌日には遠征に出ていたポーリーンも帰って来たらしい。父の執務室から拝借した官報にはそのどちらも滞りなく無事終了したことが書かれていた。
そうして王弟殿下から聞いた通り、オブライエン侯爵領の鉱山についてと、産出した両陛下の色のこぶし大の宝石が王妃殿下へと贈られたとある。王妃殿下はこの贈られた国王陛下と王妃殿下の色の宝石をいくつかに割り、今年の夏行われる予定の国王主催剣術大会の副賞として下賜する旨を発表したそうだ。
王弟殿下の言うところの『曰くつき』の宝石だ。何とも言えない気持ちで王妃殿下が持ち続けるよりも、王家の象徴として誰かの胸を飾る方が宝石にとっても幸せだろう。国王陛下のお心は量り知れないが。
グローリアたちはと言えば二学期も終わり春休みに入った。大人たちの社交も続いているが、来週には因縁の春の茶会が控えている。
「今年は絶対にアメジストは身に付けませんわ」
グローリアが珍しく不機嫌を隠さずにむっつりと言った。その様子を眺めながら「あらまぁ」と困ったように笑うと、モニカが膨れたグローリアの頬を指で押した。ぷすぅ、っとグローリアの尖らせた唇から空気が漏れる。
「どうしたの、グローリア。そんな顔をして珍しい」
今日は春休みに入って最初のいつものお茶会だ。首をかしげるモニカの横で、イーグルトンの焼き菓子をいたく気に入ったらしいベルトルトもさくさくと焼き菓子をかじりながらきょとんとした顔でグローリアを見つめている。今日の茶会はイーグルトン公爵家の主催だ。
昨年の春の茶会ではうっかりとアメジストを身に着けたせいで、誰かに紫翡翠を身に付けさせられたらしい王弟殿下とトラブルを起こしてしまった。今年こそは目立つまいと思ったのだが、今度は別の方向から面倒ごとがやって来た。先ほどのアメジストはただの八つ当たりだ。
「釣書で部屋が埋まったそうです」
「は?」
代わりに説明してくれたドロシアに、モニカが目を丸くしている。「そういう時期かー」とベルトルトは目を細めて紅茶をすすり、フォルカーは静かに微笑んでいる。
「部屋ではありませんわ。ティーテーブルが使えなくなった程度です」
「わたくしの婚約が間違いのないところまで来たことで矛先がグローリアに絞られたのね」
モニカは気の毒そうにグローリアを見つめ、サリーも心配そうに眉を下げている。
「今年からは西の海洋伯の御令嬢も茶会の参加資格を得るお年ですので少しは分散されるかと思っていたのですけれど」
ため息を吐いたグローリアに、ベルトルトが「意外だなぁ」と首を傾げた。
「その程度のことでグローリア嬢が動じるとは思えないんだけどね。何かあったの?」
「そうですね、グローリア様ですから端から蹴っていったところで誰も咎めないでしょう……お怒りになる理由が何か?」
おかわりをカップに注いだメイドにありがとうと微笑むと、フォルカーも言った。
「国王陛下の口添え付きが一件混じりましたのよ」
「あー……それはまた………」
眉間にしわを寄せてグローリアが答えると、ベルトルトもまた気の毒そうにグローリアを見た。仲良く眉を下げる若草と金の瞳に、グローリアは更に唇を尖らせた。
国王の口添え付きとなれば手紙で素敵なご縁をお祈り申し上げるだけでは断れない。一度は必ず会わねばならないだろう。貴族令嬢の義務とはいえ、よりによって春の茶会での見合いを打診されてはグローリアとしても眉を顰めるしかない。なぜ他家に見せつけるように全く知らない令息と見合いをせねばならないのか。
「そういえば、お相手はどこの御令息なのでしょう?」
恐る恐るといった風情でサリーが言った。怒っているわけでは無いのだがどうにも気に食わないのはグローリア宛に届いたそのお相手からの手紙のせいだろう。
「件の御令嬢の兄君でウィルミントン海洋伯家のご長男ですわ。順当にいけば未来の海洋伯ですわね」
「あら珍しいわね、海洋伯家が茶会に出るのね?」
「ええ、妹君の初参加に着いていらっしゃるそうですわ。そのついでにわたくしとの見合いを、と」
「妹さんにはその間に王弟殿下と見合いってところかな?」
「そうなると思いますわ。今の貴族家で家格の釣り合う未婚女性となるとそう多くはございませんもの」
グローリアに王弟殿下以外の令息をあてがうとなれば王弟殿下にも国内外問わずグローリアと同等、もしくはそれに準ずる令嬢を探さねばならない。現状、公爵家に婚約者の無い令嬢はグローリア以外に居ないため侯爵家の上位、国境伯家、辺境伯家、海洋伯家からの選出となる。
「で、機嫌が悪い理由は?」
「………ご覧になります?」
よくぞ聞いてくれたとばかりにグローリアは忍ばせていた一通の手紙を取り出した。
誤字修正いたしました。
いつもありがとうございます!!
自分ではなかなか見つけられないので本当に助かっております…!




