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ある王宮の日常とささやかな非日常について(シリーズまとめ版)  作者: あいの あお
第六章 アマリリス令嬢の恋と友情、ぬいぐるみについて

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45.こちらとあちら


 何を言えば良いのか分からず目を泳がせたグローリアに、王弟殿下は苦笑して肩を竦めた。


「まぁ、俺の方にもちょっとした予定外があってな……。そちらの対処に追われてアニーの動きを見逃した……てのはまぁ、言い訳だな。それもまたアニーの策略だったって可能性も無きにしも非ずなんだがなぁ……」

「だからと言って御璽が簡単に押されるものなのでしょうか…?」


 素朴な疑問を漏らしたグローリアに、王弟殿下はため息を吐いた。


「いや、押さねえよ?それに押させねえよ?どっちが提案したにしろどっちかが止めろよと普通は思う」

「まぁ……そうですわよね」


 グローリアは少し安心した。グローリアの常識の方がおかしいのかと思ってしまうほどの秘書官の活躍だ。悪い意味で。


「まぁあれだ。結婚はしたがポール卿が全くもってアニーと関わろうとしない。今は遠征中ってのもあるが……王宮に居ても逃げ回ってるし寮から邸宅に引っ越す気配も無い。アニーを処罰をするのは簡単なんだが、その事実がアニーには一番の罰だからな……。せっかくうまくいってたんだからもうちょっと我慢できなかったかね……」


 最後の方はほぼ独り言だった。グローリアも、ポーリーンの変化を目の当たりにしたひとりだからこそよく分かる。


「ポール卿も憎からず思っていらっしゃるご様子でしたわ。このようなことをされれば淡い恋心など粉々でしょうけれど」

「そうだな、ポール卿はどう見ても馬鹿まじめで奥手だからな。進むのはもどかしいくらいの鈍足だっただろうが間違いなく少しずつ心は開いていた。アニーは無理やり結婚するんじゃなく問題を解決してやってもう大丈夫だと安心させてやるべきだった。待てなかったアニーのミスだ。自業自得だな」


 ついでに分かっていたはずなのに抑えてやれなかった俺のミスだ、と王弟殿下はまたため息を吐き肩を落とした。


「……損な性格ですわね」


 グローリアは言われたことをそのまま返してやった。こくりと、少し冷めた紅茶を口に含みちらりと視線を向けるとと、王弟殿下は「知ってるよ」と困ったように笑った。


「でだ、グローリア」

「はい、なんでございましょう」


 紅茶の替えを用意するかと視線で問うベンジャミンにこれで良いと首を振り、グローリアは王弟殿下に視線を向けた。


「残念だが、お前は今後めでたくこっち側だぞ」


 組んだ長い脚に頬杖をつき、王弟殿下は面白くなさそうな顔でグローリアを見ている。大変お行後は良くないが、気だるげなその様子は目に毒になりそうなほど非常に王弟殿下には良く似合っている。


「そうですか」

「俺はせめて社交界デビューまでは逃がしてやろうと思ってたんだぞ」

「いずれ巻き込まれるのなら早々に巻き込まれておく方が心構えができて良いものですわ」


 淡々と答えるグローリアに王弟殿下は「そうかよ」と呆れたように笑い、「だがな」と眉を下げ濃紫の瞳を細めた。


「お前にとって大切な者たちに秘密が増えるぞ。少しでも知れば嫌でも巻き込むからな。……いや、知らせずとも側に置く時点で巻き込んでる」

「覚悟はしておりますわ」

「どうだかな。本当の意味で巻き込んだ時……背負うものの重さと大きさは、頭で考えて分かるようなもんじゃない」


 王弟殿下の濃紫の瞳が陰る。王弟殿下の言葉が重く響くのは、過ごした時間と覚悟の種類の差だろうか。王弟殿下の痛みを堪えるような笑みに、グローリアの胸が軋む。

 確かにグローリアは覚悟をしている。いざとなれば大切な者たちの手を離さねばならないことも分かっている。それと同時に、グローリアの今できる覚悟では恐らく足りないであろうこともグローリアなりに理解はしている。


「それでも、背負わないという選択肢はございませんのよ」


 だからと言っていつまでも守られるままではいられない。グローリアは公女だ。守る側の人間なのだ。知れば苦しむことも増えるだろう。けれど、知らねば守れるものも守れない。


「だからまだ、子供でいて欲しいんだがなぁ………」


 頼むから守られてくれよと、王弟殿下は笑った。


「あのな、グローリア。守る者があれば人は強くも弱くもなる。お前がいるからこそ、強くなれるやつらもいる。お前を守りたい大人連中の我儘も、頼むから汲んでやってくれよな」 

「……善処は致しますわ。保証は致しませんけど」

「ったく、相変わらずの減らず口だなぁ」


 苦笑いの王弟殿下の長い腕がテーブル越しに伸びてきてグローリアの頭をぐしゃりと乱暴に撫でた。またもあっさりと触られたことに目を丸くし、グローリアはきっ、と王弟殿下を睨みつけた。


「淑女に気軽に触り過ぎなのです、殿下は!」


 頭を後ろに下げてその手を避けると、グローリアは乱された髪を手櫛で軽く整えた。毛先をゆるく巻いて髪留めでハーフアップにしただけだったのでそこまで乱れてはいないはずだ。


「おうおう、大した淑女だな。婚約も秒読みと噂される男の執務室に堂々とひとりで訪れて髪が乱れて出てくるわけだ。俺は十四も年下の未成年に手を出した鬼畜な変態の名を欲しいままだな」

「なっ!乱したのは殿下でございましょう!!」


 とんでもない言い草にグローリアの顔が熱くなった。不調法で不埒者。どこまでが本物なのかグローリアにはさっぱりと分からない。唇を噛みしめて手櫛で荒く髪を撫でつけていると、ベンジャミンがすっとグローリアの足元に跪いた。


「少々、御髪を失礼してもよろしいですか?」


 櫛を手ににこりと笑うベンジャミンに、身内でもない男性に触れられることに抵抗が無いわけでは無いが背に腹は代えられないとグローリアは、しぶしぶ「許すわ」と頷いた。

 ぱちりと髪留めが外される感触がして数度櫛が通される。そうしてあっという間にまたぱちりと髪留めが留められ、いかがでしょう?とベンジャミンから手鏡を渡された。何事も無かったように………いや、むしろここへ来た時よりも美しく髪が整っている気がする。グローリアは手鏡を返しつつ何とも言えない気持ちで頷いた。


「ありがとう……器用ですのね?」

「いえ、慣れておりますので」

「そう、慣れて………」


 にこりと笑うベンジャミンにグローリアもにこりと、作った笑顔を張り付けた。


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