39.届けたい心、受け取った心 1
「え!!私たちの名前もですか!?」
「私どもは何もしていないと思うのですが」
顔を見合わせたドロシアとサリーにモニカがぱちん!と胸の前で手を合わせた。
「あら、何を言うの。多くの貴族があなたたちの頑張りを知っていますと、そう伝えることこそ大切では無くて?」
「ではせめて、何かお手伝いを」
大切なことよと言うモニカに、働かずして名誉だけはいただけないとドロシアが首を横に振る。
「そうね、これから帰ってから焼くことになるから……ドロシア、焼いている間に包装紙の手配をお願いできるかしら?」
「もちろんです。お好みはございますか?」
「しっかり日持ちがして持ち運びがしやすいような物が良いわ。美しくても脆くては彼らには扱いづらいでしょうから」
「承知いたしました、お任せを」
顎に人差し指を当て考えながら話すモニカに、ドロシアが心得たとばかりに頷き、ポケットから手帳と携帯用のペンを出すとさらさらと何事かを書きつけていく。
「俺たちは何をしよう?お姫様方」
「では恐れ多くも王子様方にはメッセージカードをお願いしてもよろしいかしら?」
「お任せあれ。東西南北と中央、五枚だな?それとも各駐屯所で二十七枚?」
「可能であれば二十七枚ね」
「じゃあ二十七だ。面倒な礼状の量産よりずっと楽しいよ」
にっこりと笑うモニカに、ベルトルトが胸に手をあて仰々しいほどに一礼した。フォルカーはその様子に苦笑しつつも「承知しました」と頷いた。
「ふふふ、ありがとう。署名はそれぞれでしましょう。籠を飾るのはサリー、お願いできるかしら?」
「はい!!ぜひお手伝いさせてください!!」
モニカはまたひとつ頷きサリーを振り向いた。手先が器用なサリーには用意された焼き菓子とカードを贈り物として籠へと詰め飾ってもらうのだろう。せっかくの贈り物なのだ、ただの籠詰めの菓子ではなく心ごと届いて欲しい。グローリアも強くそう思う。
「では決まりね!グローリア、少し多めに焼いた後うちに来てもらうことはできる?」
「ええ、もちろんですわ。持ち寄って皆で包みましょう。急げば明日の当番だけでなく今日の夜勤の者たちにも配ることができるはずですわ」
「まずは、この差し入れを鍛錬場へ持っていきましょう。それから大急ぎで戻るわよ!」
「はい!!」
「よし、頑張ろうね!」
誰もが当然のように頷き笑い合う。第一でも第二でもない、第三騎士団の騎士たちのために。
「……ありがとうございます、皆様」
「いやね、グローリア。なぜあなたが泣きそうなのよ」
「ふふふ、なぜでしょうか」
第三騎士団の騎士の立場は弱く地位も低い。鍛錬場に見学に来る者たちのほとんどは第三騎士団に見向きもしない。グローリア自身は第三騎士団の者たちを低く見ていたつもりはないが、彼らの置かれた状況を正しく理解しているかと言えばきっと違う。
それぞれの騎士団に差があることが悪いとは思わない。それぞれに得手不得手があり、向き不向きがある。区別はせねば守る者も守れなくなる。
それでも、グローリアはやはりこういう時は思うのだ。せめて心ぐらいは同じように傾けていたいと。第一でも、第二でも、第三でも。彼らの努力と苦労を正しく知り、寄り添える自分でありたいと。
そんなグローリアの甘さすら感じる願いを、何も言わずともまるで当たり前のように共有してくれる友人たちが、グローリアはどうしようもなく嬉しかったのだ。
回廊を曲がれば騎士棟が見える。冬の短い太陽が中天をとうに過ぎ少しずつ傾いていく。淑女として許されるぎりぎりの速さで脚を動かし、グローリアたちは急ぎ、焼き菓子の相談をしつつ鍛錬場へと向かった。
「これはグローリア様、今日はまるで雪の妖精のようですね……と、っ!!!」
鍛錬場へ着くと、まるで見計らったかのようにアレクシアが鍛錬場の手前でポーリーンと話をしていた。先に大きな籠で焼き菓子を届けさせていたのでグローリアが来ることが分かっていたのかもしれない。
さすがに隣国の第三王子が同行しているとまでは思っていなかったらしく、グローリアをいつものごとく褒め微笑んだ紫光の瞳が次の瞬間、ほんの少しだけ見開かれた。
「第一騎士団所属、アレクシア・ガードナーがご挨拶申し上げます」
「第二騎士団所属、ポーリーン・ファーバーがご挨拶申し上げます」
アレクシアとポーリーンが騎士の正式な礼を取った。深く頭を下げるふたりに、ベルトルトが「先日ぶりだね」と笑い頭を上げるように言った。
「ベルトルト様、すでに面識が?」
「うん、先日の視察の際に剣舞を見せてもらったんだ。実に見事だった……今でも思い出せるよ」
「もったいないお言葉にございます」
再度恭しく礼をするアレクシアに、グローリアは一歩前に出るとフォルカーから渡された籠をそっとアレクシアに差し出した。
「アレク卿。こちら、差し入れですの。いつも通り他の籠は休憩所にお届けしてございますから、ぜひ皆様で召し上がってくださいね」
「いつもありがとうございます………グローリア様?」
艶やかに微笑み籠を受け取ったアレクシアの眉がグローリアと目が合ったとたんにぐっとひそめられた。そうしてじっとグローリアを見つめると、籠を持たない方の手がグローリアの目元へと伸びてきて、触れるか触れないかのところでぴたりと止まった。




