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ある王宮の日常とささやかな非日常について(シリーズまとめ版)  作者: あいの あお
第六章 アマリリス令嬢の恋と友情、ぬいぐるみについて

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34.一日遅れの祝祭の贈り物 2


「サリーの贈り物の後では少々出しづらいのですが…」


 グローリアも渡さねばと思っていたところ、ドロシアが足元に置いていた小さな革張りのトランクを膝の上で開いた。


「来年から当家が新しく扱うことになったガラス製のつけペンです。従来のものとはガラスの成分の配合を変えて割れにくくしてありますよ」


 そう言ってドロシアはひとりひとりにベルベットの黒い細長い箱を手渡した。開いてみれば見事な装飾のガラス製の繊細なペン。柄には薄い紫を螺旋に流し込んだように色がついている。ちらりと見ると、全員少しずつ違う形に、その柄の色もそれぞれの色だ。ひとりひとりに合わせて作ってくれたのだろう。


「よろしいの?発売前の…もしかして、受注生産では無くて?」


 よく見ると蓋の裏に通し番号が入っている。グローリアの番号は一番だ。一の前のゼロの数は二つ。生産数は多くて三桁ということか。


「少し製法が特殊ですのでこちらのロットについてはあまり数を作る予定は無いのですが、同じ成分の一般販売用のガラスペンも作りますのでそちらの宣伝用と捉えていただければ」


 そう言ってにっこりと、ドロシアは商人としての笑顔を浮かべた。結われた髪の隙間からちらりと覗く耳が赤い。照れ隠しをするときにもドロシアがこの笑顔を浮かべることを、グローリアはすでに知っていた。


「あらまぁ、ありがとう!!これもまた見事ね…。どうしましょう、わたくしの用意したもの、大丈夫かしら」

「モニカもご用意を?」

「もちろんよ。あなたもでしょう?」


 ふふふ、とモニカが満面の笑みでグローリアに笑った。


「考えることは皆同じですわね」


 モニカが控えていた侍女に合図している。グローリアも、案内の騎士に運んでもらった籠から焼き菓子と小さな贈り物の入った袋をひとつひとつ取り出した。


「わたくしはこれよ」


 ぱらり、とモニカが差し出したのは三枚の封筒。それをグローリア、ドロシア、サリーと渡していく。


「こんな心の籠った贈り物の後に出すのはちょっと……悩ましいのだけれどね」


 渡された封筒を開くと出てきたのは一枚の招待状。日付は何も書かれていないが、その場所はビアトリス劇場。ティンバーレイク公爵家が誇る、規模で言えば王家所有の王立劇場をしのぐ王都一の劇場、そのボックス席だった。


「何人でも、いつでも、好きな演目の時に行ってちょうだい。最優先で予約が取れるようにしてあるわ」

「ぼぼぼ、ボックス席ですか!?ビアトリクス劇場の!?」


 歌劇が大好きなサリーが震える手で封筒を掲げ、悲鳴のような声を上げた。王都一の劇場だ、その演目も豪華だが出演者も当然超一流。特に人気の演目ともなればどれほどのお金を詰んでも一般席すら手に入れられないこともある。その、ボックス席。さすがのグローリアとて簡単には手に入らないチケットだ。


「これは、もったいなくて使えません……」


 あまり動じることのないドロシアも目を丸くしている。いくら商人気質のドロシアでも値千金とはいえ売ることはしないだろうが、価値が分かるゆえに使えないというのもよく分かる。


「使ってちょうだい。あなたたちの贈り物に籠った心の方がずっとずっと得難いわ」


 モニカがにこにことまたサシェと黒い箱を撫でる。後ろで受け取ろうと控えていた侍女がすっと一礼して下がっていった。口々に礼を言うグローリアたちに、モニカは照れくさそうに、けれど満足そうに、若草の瞳を細めて花が開くように笑った。


「それでは、わたくしはこちらを」


 そう言ってグローリアは焼き菓子の詰め合わせをそれぞれに手渡した。よく見ると、個包装になった焼き菓子に紛れて小さな袋が入っている。


「あら!焼き菓子ね!!イーグルトン公爵家の焼き菓子は本当に美味しいのよ……」


 モニカが頬に手を当てて「特にあのほろっとしたクッキーが好きよ!」とふわふわと笑っている。もちろんそのクッキーも入っているし、実は新作も一つ忍ばせている。


「あの、この小さな封筒は何でしょう?」


 最初に気が付いたのはサリーだった。もしかしたら家に帰るまで誰も気が付かないのでは?と思っていたので少々意外だったが、グローリアはにっこりと笑った。


「あら、見つかってしまいましたわ」


 グローリアがふふふと口元に手を当てて笑う。サリーが見た目よりも少し重さのある封筒を開き恐る恐るといった感じでひっくり返すと、中から金属のプレートがころりと出てきた。そのプレートはモニカの招待状と似たような効力がある。ただし、その効力は一年だ。


「そちらは次兄の経営するパティスリーの特別顧客会員証ですわ。そちらをお持ちの方には来年一年間、毎月季節のお菓子が届きますの。ぜひご賞味くださいませ」


 次兄は、甘いものを好むグローリアへの愛をこじらせついには昨年学園を卒業するとほぼ同時にグローリア好みの菓子を作るためだけの菓子店を作ってしまったのだ。


「あら、モン・ジジじゃない。去年できたパティスリーよね?包みも可愛いしひとつひとつが小さいから色々食べられて良いのよね……ってあれ、アンセルム様のお店だったのね……」

「モン・ジジ、『私のジジ』って……ジジって、『グローリア』の愛称だよな?」

「グローリア様へのお兄様の溺愛は有名なのですよ」


 完全にグローリアのための店なのだが、意外と人気が出たことでティールームの営業も始まっている。そもそもが次兄によるグローリアのためだけの店のため人気が出た後もあまり数を作らず、今では王都で最も予約の取れないパティスリーとティールームとなってしまった。


「ティールームもそちらのプレートで優先席と特別メニューをご用意できますので、よろしければご利用くださいませ」


 グローリアが説明している間にも「あ、これ美味い…」と早速焼き菓子を食べ始めたベルトルトが「今は止めておきなさい」とモニカに呆れられ、しょんぼりと肩を落とした。そうしてベルトルトは照れたように笑い、フォルカーと視線を合わせると頷き合った。


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