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ある王宮の日常とささやかな非日常について(シリーズまとめ版)  作者: あいの あお
第六章 アマリリス令嬢の恋と友情、ぬいぐるみについて

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31.フォルカー


「あの、では、モニカ様へのプロポーズの件は…?」


 サリーがおずおずという感じで小さく手を上げると、フォルカーはふっと笑って頷いた。


「あれは私も驚きましたけどね。後から聞いたら『言うべきだと思ったから』とのことですよ。ああ、思っていないことは必要な時以外言わない人なので、本気で言ってますから安心してください」


 フォルカーがにっこりとサリーに笑いかけると、サリーもほっとしたように笑った。


「では、大切にしてくださるのも、本当なのですね」

「ああなるほど、そうですよね。突然降って湧いた婚約者なのに初めからこれだけべたべたではむしろ心配なさいますよね。それはこちらの配慮が足りませんでした」


 失敗ですね、とフォルカーが困ったように笑っている。


「ベルトはどれも本気でやっています。時によってその本気の内容がころころ変わるのが玉に瑕ですが、基本、王子の割に人が良いですし思い込んだら一直線ですので………むしろ、ベルトの婚約者になってしまったモニカ様がある意味でお気の毒です」


 ちらりとモニカとベルトルトに視線をやると、フォルカーは目を細めて小さなため息とともにすっと視線を逸らした。

 ベルトルトはテーブルに頬杖をつき、モニカを覗き込むようにしてにこにこと何かを囁いている。モニカがぎょっと目を丸くして真っ赤になってベルトルトを見るが、それすらも楽しいとばかりにベルトルトはきゅっと、猫のような金の目を細めた。


「あなたも、苦労なさっているのね………」


 思わずグローリアが呟くと、フォルカーはまた困ったように笑い肩を竦めた。


「ベルトが王族らしくないのは今に始まったことではないんです。私は慣れてますけどね、まぁ…周囲からは少しやんちゃに見えるのは仕方がないかなと思います。それでも根がこれなので、兄君方からも可愛がられているのが救いと言えば救いですよね」


 そう言ってベルトルトを見るフォルカーの視線はとても優しい。フォルカー自身がベルトルトをとても大切に思っているのだろう。


「あなたは、婚約はなさっていないの?」


 もしもフォルカーに婚約者がいるのなら、いずれモニカの側近として立つ女性となるかもしれない。そのような女性がいるのならグローリアは縁を繋いでおきたいと思っている。


「そうですね、今はおりません。私はベルトが落ち着くまでは婚姻を結ぶつもりが無いのでお相手を待たせてしまうことになりますので。それに…私は混ざりものですので」

「混ざりもの、ですか?」


 あまり良い意味の無さそうな言葉に、サリーがぱちくりと目を瞬かせた。


「ええ。この髪の色、珍しいでしょう?我が国の北部にある蛮族とされる民族に多い髪色なんですよ。祖母が、そちらの出身でして」

「『太陽の民』ですね」


 それまで静かに話を聞いていたドロシアが口を開いた。


「その通りです。よくご存知でしたね。この国と違って我が国は他民族にあまり寛容ではないんです。父や兄たちは幸いこの色が出なかったんですが、私は隔世遺伝だそうで」

「俺は好きだぞ」


 ふたりだけの世界に居たはずのベルトルトがいつの間にかこちらを向いていた。真剣な顔でフォルカーを見つめている。


「そもそも同じ人間なのに色が違うだけでどうこう言うやつらの方が俺は嫌だよ。フォルカーはフォルカーだし、分かるやつには分かる。堂々としてれば良いんだよ」


 その物言いにふと、グローリアは濃紫の瞳を思い出した。容姿は全く似ていないのに、ベルトルトは『堂々としていろ』とグローリアに言ったあの人にどことなく似ているのかもしれない。


「こちらには混じり気の無い見事な赤の髪色の者もおりますわ。少なくとも我が国では髪色や瞳の色で何かを言われることはほぼ無いはずです」


 王妃殿下の隣によく控えている侍女の髪が見事な赤だ。彼女の立ち居振る舞いはグローリアから見てもとても美しく、クリスティーナ王女殿下の手本としてほんの少しだけ、グローリアは彼女を一方的な好敵手と見定めている。


「そうみたいだな。こちらの人はフォルカーの髪を綺麗だって言ってくれるから、俺も嬉しい。もしもの時はモニカとフォルカーと一緒にこちらに移住して来ればいいよね」

「また無茶なことを…」


 フォルカーが呆れたように言って笑い、誰もがそんな主従を温かい目で見つめていた。


 ずっとどこかで一線を引いていたフォルカーもまた、あの日の茶会からグローリアたちを名で呼ぶようになったのだ。


「祝祭日はティンバーレイク公爵家で過ごすことになってるから、あとはモニカとティンバーレイク公爵家次第だな」


 こてりと、ベルトルトはまるで猫が飼い主に甘えるようにモニカの方へと頭を傾けじっとモニカを見つめた。決して触れはしないが過ぎるほどに近い距離をモニカは嫌がることも無く「そうね」と視線を合わせて微笑んだ。


 翌日にはティンバーレイク公爵家から祝祭日翌日の外出許可が下り、珍しい六人での騎士の鍛錬場訪問が決定したのだった。


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