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ある王宮の日常とささやかな非日常について(シリーズまとめ版)  作者: あいの あお
第六章 アマリリス令嬢の恋と友情、ぬいぐるみについて

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28.全て、真に


 とはいえ、人は見かけによらないことはグローリア自身が良く知っている。女性慣れしているということだけでモニカのためにと国同士の取り決めを一王子が覆しにかかることはしないだろうが、それすら織り込み済みであったならばどうしたものか。全く太刀打ちできる気がしない。


 頬の赤味を誤魔化すように片手を頬に当ててティーカップに口を付けたモニカが、カップをソーサーに戻すと少し瞳を陰らせた。


「わたくしね、こんなに熱烈に口説いていただける理由が全く思いつかないのよ」

「思いつかなくて逆に不安、ですのね?」


 確かに、今まで全く関りが無かったのに婚約が決まったとたんにこれでは何かあるのではないかと不安になるのも致し方ないだろう。聞いているだけのグローリアですらたった今、女性慣れを疑ったくらいだ。

 グローリアが小さく首を傾げると、モニカは少し考えるように視線を揺らし、それから頷いた。


「そうね、そうなのかもしれない。いっそただの政略だ、慣れ合うつもりはないと言われた方がよほど心安らかにいられた気がしてならないわ」


 頬に手を当てて悩まし気に首をかしげるモニカに、グローリアはむっつりとした顔で言った。


「そんな男の元へモニカをお嫁に差し上げるつもりはございませんわよ」


 きゅっと眉根にしわを寄せたグローリアに「あらまぁ」とモニカが嬉しそうに微笑み、そうしてゆるゆるとどこか諦めたように首を横に振った。


「わたくしはグローリアのように飛び抜けて美しくも無いし、王妃殿下のように国内外に響き渡るほど賢くも無いわ。公女という地位はあるけれどそれだけ。モニカというひとりの人間に、それほどの価値と魅力があるとはどうしても思えないのよ……」

「モニカ、怒りますわよ」


 少し寂しそうに微笑むモニカに、グローリアは更に眉間のしわを増やして半目になった。


「わたくしがどうしてあれほどの侮辱にあって尚もあなたを信じたとお思いですの?なぜサリーが怪我を負ってもあなたを責めなかったと?なぜドロシアが家に被害が出てもあなたと友であることを望んだと?それは全て、モニカが公女だからではなくモニカだからですわ」


 グローリアはあの春の茶会の日、モニカがしてくれたのと同じように頬を膨らませ唇を尖らせた。


「モニカだからわたくしたちはここに居るのです。わたくしたちの大切な友人を貶めるなど、たとえモニカでも許せませんわ」


 怒ったように言ったグローリアの言葉にドロシアが口角を上げて静かに頷き、サリーが「その通りです!」とにっこりと微笑んだ。


「私は根っからの商人ですのでこれでも人を見る目は厳しいつもりですよ、モニカ様。損得を抜いて共にいたいと思える方たちに出会えるのはとても貴重で、何物にも代えがたいものでございます」

「私、モニカ様のお優しい笑顔が大好きです!おっとりしていらっしゃるのに少し…はっきりしていらっしゃるところも、とっても!!」


 口々に言うドロシアとサリーに微笑みと共に頷きモニカに向き直ると、グローリアはきゅっと目を細めて挑むようににやりと笑った。


「良いではありませんの、裏に何があろうとも。全てまことに変えてしまえば噓などどこにもなくなりますわ」

「全て、真に?」

「ええ。今のベルトルト様のお言葉に打算や裏があったとしても、これからそのお言葉通りモニカに夢中になっていただけばよろしいのです。―――わたくしが保証しますわ、モニカ。モニカには、その魅力が十二分にありますもの」


 ぱちくりと、モニカが若草の瞳を瞬かせた。ドロシアが「モニカ様の魅力のご説明はご入用ですか?」とぱんっと胸の前で両手を合わせて商人らしくにっこりと笑い、「私も!モニカ様の素敵なところ、沢山、沢山言えますよ!!」と、サリーもにこにこと両頬にえくぼを浮かべて笑った。


「あらまぁ…ふふふ、わたくしにはこんなにも強力な味方がいたのね」

「今更ですわ」


 微笑むモニカの目元が朱に染まった。すっと人差し指でその目元を拭うと、モニカはにっこりと、グローリアの大好きな花のほころぶような笑顔を見せてくれた。


「そうね、わたくし、この二年でベルト様を虜にして見せるわ!!」


 ぐっとこぶしを握ったモニカに、「その意気ですモニカ様!!」とサリーも両のこぶしをぐっと握った。「作戦を考えませんと」と頷くドロシアに、「まずは敵を知らなくてはね」とグローリアも笑った。


 ひとしきりわいわいと騒いでいたが、ホールクロックの鐘が時を告げたことで皆の会話がぴたりと止まった。名残惜しいがそろそろ解散の時間だろう。

 誰もが口を開かず互いの顔を見合わせていると、モニカが困ったように微笑み息をひとつ吐くと、静かに、けれどはっきりと言った。


「この二年で、わたくし、きっとベルト様を好きになるわ。―――――お兄様より、きっと」


 まるで誓うようなモニカの囁きに、頬を流れたひと粒の雫に。この日の茶会は急遽延長され初のお泊り会になることが決まったのだ。


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