27.四人娘のお茶会
そうして今日、建国記念祭後初めての四人での茶会となる。
ベルトルトはこの婚約の話が出た直後からこちらに留学して卒業まで残ることを検討し、提案もしていたらしい。
とはいえ、ベルトルトがこちらへ留学してきても一歳年上のモニカが先に卒業してしまうため卒業後すぐにモニカを隣国へ送っても事情は大して変わらないだろうと、ベルトルトの留学は無しということで両国間では合意していた。
けれどもベルトルトは粘った。何度も隣国へと早馬を走らせ自らがこちらとの交渉に立ち、最終的には二年間の留学と自分の卒業までモニカをこの国に留めおくことへの合意を勝ち取った。そうすれば、モニカが学園を卒業した後もすぐに隣国に移ることなく、自分の卒業までは一年長くこちらで過ごせるから、と。
「中々無茶な方ですわね」
「ええ、本当に。てっきり卒業後すぐにわたくしがあちらに向かうのだと思っていたのに」
モニカは頬に手を当てて困ったように微笑んだ。その笑顔がふと、グローリアの中で王妃殿下に重なった。優しく温かい、慈愛に満ちた微笑み。ベルトルトと共に過ごしたこのひと月はきっとモニカにとって悪いものでは無かったのだろう。モニカのために頑張るというベルトルトの言葉にも嘘は無さそうだ。
ほんの少しの寂しさと共にグローリアが同級生となったモニカの婚約者を思っていると、モニカが急に爆弾を落としてきた。
「………わたくしね、お兄様のことを、ベルト様に話したのよ」
ティーカップを両手で包み、少し俯くとモニカはぽつりと言った。
「王弟殿下のことを、ですの?」
「ええ、小さなころからずっと大好きで、今も大好きで、わたくしの心はお兄様にあるのです、って」
ぴたりと、紅茶を飲もうとしていたドロシアの手が止まった。サリーも目を見開き、ちょうど口に入れてしまったマカロンを咀嚼して良いものか分からないというように口の動きすら止まっている。
王都から隣国の首都までは、馬車で片道約一ヶ月半ほどかかる。今回も様々な交渉が調ってすぐにベルトルトはこちらへ馬車を走らせたが、到着したのがようやく先月だったのだ。早馬で片道十日、無茶な話だが軍馬を乗り継ぎ騎手も変え昼夜休みなく走らせても片道三日の距離なので、ベルトルトがこの留学のためにどれほどの無理を押したのかがよく分かるというものだ。
後から聞いたことだが、何とベルトルトはやり取りが滞りなく行われるようにと父王に頼み込み、この件の全権を託された現王太子であるベルトルトの兄、第一王子に件の金鉱山にも近い国境沿いの街で待機してもらっていたらしい。国境沿いの街なら早馬で片道三日余りだ。
話に聞く早馬のやり取りが随分と早いと思っていたのだが、そういう事情であったと聞いてベルトルトの本気度を知りグローリアは少々遠い目になった。どれほどの数の名馬が疲労困憊になったことだろう。一頭も潰れていないと良いのだが。
そんなベルトルトに、モニカは好きな人がいると伝えたということだ。
「それは………その、ベルトルト様は何と?」
「そうね、心配されたわ」
「心配?」
ふふふと、モニカは何かを思い出したのか笑い、そうして優しい瞳で紅茶のカップを静かに撫でた。
「そう、とても心配されたわ。『あなたにそんなにも長く思われるなんて王弟殿下はとても素敵な人なんだろうね。離れるのは、辛くはない?』って」
サリーの喉がごくりと鳴った。どうにかマカロンは飲み込めたようだがきちんと咀嚼できたのかグローリアは心配になった。グローリアが視線をモニカから逸らさず頷きながらサリーの紅茶のソーサーにすっと触れると、サリーが気づいて紅茶をひと口飲んだ。これで大丈夫だろう。
「辛くないと言えば嘘になるけれど、とうに振られていますから、と言ったらね、『そっか……泣きたいときは、俺が側に居るよ』って、ベルト様が泣きそうな顔をなさっていたわ」
おかしな方よねぇ、とモニカがくすくすと笑った。おかしいと言いながらもその目がとても優しいことに、モニカ自身は気づいているのだろうか。
「わたくしが寂しいから行きたくないと言ったらどうするおつもりですか?って言ったらね、『連れて行かないよ。代わりに俺が口説きに来る。モニカ嬢が俺のところに来ても良いって言ってくれるまで、何回でも』ですって」
なるほど、この二年の留学期間はモニカを口説くための時間だったかとグローリアは納得した。
「ベルトルト様は少々、人間が出来過ぎていらっしゃいませんか?」
「そうでしょう?わたくし思わず聞いてしまったわ。隣国で虐げられていらっしゃるの?って」
「またそんな直接的な………」
仲良くなるにつれて分かったことだが、おっとりしているように見えてモニカはかなりはっきりしている。表面上は穏やかに微笑んでいるがしっかりと腹の中では毒を吐いているし、いざとなれば口論も辞さないし当然負けない。
間違いなく規律と公平を重んじる『王国の天秤』の一族であり、あの王妃殿下と同じ血を引いている。そんなモニカの一面を知り、グローリアはますますモニカが好きになったのだが。
「笑ってくださったわよ。モニカ嬢は見かけによらないなって」
紅茶をひと口すすると、モニカは少し口ごもり、そうして頬を薄っすらと染めるとぽそぽそと続けた。
「……公女として澄ましているよりもそうやって真っ直ぐものを言っている時の方があなたらしくて可愛いよ、ですって」
「それはそれは………」
もしやベルトルトはあの年にして女性に対してかなりの手練れなのだろうか。そんな風には見えなかったのだが。グローリアは、照れくさそうに微笑むモニカを見やりつつ少々心配になった。
誤字報告ありがとうございました!修正いたしました。
ぐぅ…ぽんこつっぷりが……申し訳ない。




