あくま
人間の見えないところでひっそりと悪魔は生活していた。
悪魔は時々こっそりと人間にいたずらしては、その困った顔や泣き顔を見て喜んでいた。
悪魔は何よりも人間の不幸が好きなのだった。
よく晴れた日、ある悪魔は思った。
毎日休むことなく人間にいたずらをしているが、最近何か面白くない。
男の子が大切にしていたミニカーを壊してみても、おじいさんの前に石を置いて転ばせてみても、女の子のお気に入りの人形を隠してみても気分がすっきりしない。
少し前まではみんなの困る顔や泣く顔を見るのが何よりも楽しく、大好きだったはずなのに。
悪魔はしばらく自分がこれからどうしたらいいのかを考えた。
しかし、いくら考えても答えは出ず、少しの間いたずらするのをやめて人間を観察してみることにした。
無くなったものが見つかったとき人間は笑った。
壊れたものが直ったとき人間は笑った。
出来ないことが出来るようになったとき人間は笑った。
怪我や病気が治ったとき人間は笑った。
悪魔は人々の笑顔を見ているうちにもっともっと色んな人の笑顔が見たいと思うようになった。
昔は大嫌いだった人間の笑顔を、今は見たいと思うようになった。
前まで人間の困った顔や泣き顔を見てドキドキしたように、悪魔は人間の笑顔を見てドキドキするようになった。
それから悪魔は男の子のミニカーを直してあげたり、転びそうなおじいさんを助けてあげたり、女の子の人形を見つけやすい場所に置いてやったりした。
時には病気や怪我も治してあげた。自分の出来ることは何でもしてあげた。
悪魔が何かするたびに、人々は笑った。
悪魔はもっともっともっと人間の笑顔を見たくて色々と良いことをした。
そうしているうちに、悪魔は仲間から裏切り者だと罵られ、ついに仲間から羽をむしられてしまった。
悪魔は地上に落ちた。
悪魔は道を歩いた。今まで見下していた人間を見上げながら歩き続けた。
人間に悪魔の姿は見えない。なので悪魔は何回も人間に踏み潰されそうになった。
頑張って悪魔はずっと歩き続けた。
自分の居場所を探して。
でも、羽をなくしては元居た場所には帰れない。仲間ももう受け入れてはくれないし、人間とも共存出来ない。
悪魔はそれでも歩き続けた。
どこかに自分の居場所があると信じて。
やがて、悪魔の体はボロボロになった。それでも悪魔は歩き続けた。
歩いて、歩いて、歩き疲れ、悪魔は立ち止まり空を見上げた。空は真っ青だった。
何も考えずに空を眺めていたら、悪魔の視界に一人の女の子が飛び込んできた。
綺麗な包装紙を大事そうに抱え、女の子は悪魔がこれまで見たどの人間よりも幸せそうに笑っていた。
悪魔はその笑顔を見て、幸せを感じた。
体はもうボロボロで動けないのに、仲間もいなくなってしまったのに、悪魔は心の底から幸せを感じた。
そして、心優しき悪魔は、よく晴れた日、静かに眠るように死んだ。
次は人を幸せにすることの出来る天使に生まれ変われるように祈りながら……
2008