夢見る
三題噺もどき―よんひゃくよんじゅうはち。
雨の音が、聞こえる。
ほんの少し暗い部屋。
電気はつけた方がいいんだろうけど、そこまででもない。
だからつけずに、暗いままの部屋の中にいる。
「……」
『――♪』
回転する椅子の上に座って。
机の上に筆記用具を広げて。
絵をかいたり、本を読んだり。
「……『――♪』
まだ少し、机の位置が高くて、椅子を最大の高さまで上げている。
それでも、絵をかいたりするのには、机に張り付くような形になって。
姿勢が悪いといつも言われるけれど、机が高いのだから仕方ない。
「…『――♪』
広げた筆記用具の中から、消しゴムを探し出す。
あった。
かいたものをけして、書き直して。
『――んー』
今度は引き出しの中にいれていた、色えんぴつをさがして。
色をぬってみる。
これは……はだ色。ピンク。むらさき。
『――♪』
ついついたのしくなって。
さいきん覚えたばかりの、流行りの曲をうたってみる。
それにつられて、足も動く。
『――♪』
床につかないほどの高さにある足は。
ぶらぶらと揺れる。
それに合わせて。
ちゃりちゃり。
『――♪』
ぶんぶんと、そのままの気分をあらわすように。
それにあわせて、ちゃりちゃり。
足がゆれるたび、ちゃりちゃり。
こんこん―
ちゃりん―。
『――!!はぁい』
扉がノックされた音に。
はたと顔を上げ、返事をする。
ようやく、待ちに待ったあれがきたらしい。
『――』
返事だけを返し、机からは動かない。
かってに扉は開くから。
その先に居るのは、ぼんやりとした誰とも分からない人影。
『カルピス!!』
何かを言いながら部屋の中に入ってきたその人物は。
机の上に、コップを置き、また何かを言っている。
中身は、大好物のカルピスだ。
『あ……ごめんなさい』
それをさっそく飲もうと手を伸ばしたが。
何かを咎められ、しゅんと、小さくなる。
おおかた、先程の音がうるさいと言われたのだろう。
『――うん!ありがとう』
くしゃりと、頭を撫でられ、一気に顔が明るくなる。
次から気を付けないさいね、とでも言われたのだろうか。
それから。
『――うん。わかった』
あれとあれをしておいてと。
あれとあれをやらないといけないと。
あれとあれとあれとあれ。
『――はぁい』
一から十まで、ありとあらゆること。
やるべきことと、すすむべきこと。
全てをしじされ、疑うこともなく受け入れる。
『――』
ぱたんと閉じられた扉。
また、ぼんやりと暗い部屋に戻る。
ほんの少しの、虚無に襲われる。
それも経った一瞬。
『――♪』
この状況に、疑問を持つこともしない。
電気もついていない暗い部屋で。
足枷をつけられたままで。
与えられた食事だけを食べて。
指示されたことだけをして。
『――♪』
それでも確かに。
この少女は幸せなのだ。
それでも確かに。
縛られている方が、楽で幸せで。
――――」
確かにそうなのだけど。
そんな事実はないし。
今見たものは夢以外のナニモノでもないのだけど。
「……」
なんて夢を……見ているんだか。
嫌な気分がしないから、更に嫌だ。
もうそれは、止めたのに。
人に依存するのはやめたのに。
「……」
そんなこと。
夢見たくもないのに。
お題:足枷・筆記用具・カルピス