第二章 1 スーツケースと飛行機
私が半年以上楽しみに待ちわびていたアメリカ旅行への出発日7月19日。朝食、身支度を済ませ水色のノースリーブス ブラウスにベージュのジャケット、紺のジィーンズを着た。そして黒白のスニーカーを履いた。ブラウスの襟に同色のリ ボンをつけた。
父の車で空港まで1時間ほどかかる。集合時間午前8時の15分前に着いた。 集合場所で蜜を最初に見つけた。隣にいるのが、きっと妹さんとその友達なのだろう。そして千歳みどりさん。彼女に は4ヶ月ぶりに会う。高校生の時とそれ程変わりなく、おっとりしていた。私を見て嬉しそうに近づいてきてくれた。そ してニック肉桂先生と奥さん、お寺の男の人がいた。近くに男の人が二人いた。一緒に行く人達だろう。そして今、こちらに歩いてくるスレンダーな女の人は私と同じ小学校の1年先輩の仙人藍さん。あの頃は、ぽっちゃりしていたような覚 えがあるが面影が残っており、すぐわかった。藍さんの隣にいる女の子は藍さんの妹のようだ。彼女の記憶は私には ない。妹がいたことさえ知らなかった。12人、みんな揃った。
最初に私が気付いたのは私のスーツケースはとても小さくて古いことだった。藍さんの紫のスーツケースは私の三倍は ありピカピカ光っている。蜜と蜜の妹のものも私の二倍はあるし、ニック肉桂先生の奥さんは二つ持っている。どちらも 私のよりも大きい。他の人達のスーツケースも大きく新しくみえる。私のスーツケースはグリコのオマケのおもちゃのよ うだった。みんなは何をスーツケースに入れてきたのだろう。私は快適に過すことが出来るようにアメリカでの3週間の イベントをイメージして自分では完璧に荷造りしたつもりなのに、こんなに荷物が少なくて大丈夫かなと思った。
ニック肉桂先生が、 「さぁ揃ったね。始まるよ」と大声で言った。そして、みんなで軽く挨拶してから、ニック肉桂先生の指示に従い手続き 等を済ませゲートをくぐり機内に向った。
10時05分名古屋から、まず韓国へ行く。2時間ほどのフライト。飛行機を乗り換えるために一度、韓国の金浦国際空港 に飛んだ。ニック肉桂先生は韓国には徴兵制度がありパイロットは訓練されているから世界一腕がいいと言うが、きっと 韓国機の方が安いのだと思った。
空港外には出られず免税店を見たり喫茶店で食べたりして3時間ほど時間をつぶした。
韓国の免税店で蜜とお揃いのミンクのイヤリングを買った。女の子はお揃いが好き。私はあまりアクセサリーをしないけ れど、イヤリングをなぜか集めている。柔らかいミンクの毛がぼんぼんのように丸く付いていて揺れると可愛い。5ドル。それから喫茶店で昼御飯を食べた。私はサンドイッチとオレンジジュースを頼んだ。少し硬いパンの中に生の人参、トマト、タマネギ、キュウリのピクルスが挟んであった。ニック肉桂先生が食べているオムライスには派手な黄色のたくわんが付いていた。みんなで笑ってしまった。
午後3時40分、韓国の金浦空港からロサンゼルス空港行きの飛行機の中に入った。ニック肉桂先生から席の場所を聞き、席を探して座った。機内の席は縦に3列あり両脇が3シートで真ん中の列が5シート。私の席は真ん中の列の端っこだ った。座っているとニック肉桂先生の奥さんが何か騒いでいて私の近くにきた。そして、
「信実ちゃん席代わって」と頼んだ。
涼さんの席は窓側。窓側なら外が見られるので、もちろん「いいですよ」と言い、私の隣だった蜜も一緒に右端の列に移った。ニック肉桂先生と奥さんが並んで私と蜜の席に座った。 蜜が窓側で私が真ん中に座った。途中で外がよく見える窓側に代わってくれると蜜が言ってくれた。隣には、溌剌とした中年の丸っこい男の人が座っていた。奥さんはその人の隣が嫌だったみたいだ。彼は陽気な性格で私達はすぐ打ち解けた。彼は鳥取の米子市出身でロサンゼルスからアトランタへ行き、そこで絨毯の 買付けの仕事をしているそうだ。アメリカへはなんと33回目だと言う。今回の旅行では仕事を終えてからカナダへ行き 鮭釣りが楽しみだと言った。
私も自己紹介をした。また英語の発音を教えてもらった。RとLの舌の場所の違いやFとB違いも彼は楽しんで教えてく れた。他にも摂氏と華氏の使い方も教えてくれた。アメリカでは華氏が使われることが多く考えてみれば当たり前だけど 摂氏が一度上がると華氏も一度上がるわけではないことも教えて貰えて私には大発見だった。
私がロサンゼルスにも滞在すると話すと是非行って欲しいという水晶のお店の話を始めた。スペイン人が経営する水晶 専門店は何から何まで例えば売られているアクセサリー、器、置物だけでなく、レジスター、トイレの中まで全て水晶で 成り立っている素敵な空間だそうだ。そしてシンデレラが履いたと言われている水晶の靴があるそうだ。その靴はピッタ リ合う女性を待っているそうだ。私も試したいなぁと思った。
飛行機内はアルコールがフリーつまり無料飲み放題。無論18歳の私は飲まない。彼はブラッディ・メマリーを注文した 。ウオッカをベースとするトマトジュースを用いたカクテルで16世紀のイングランド女王メアリー1世が即位後300人にも 及ぶプロテスタントを処刑したことから血まみれメアリーと呼ばれているそうだ。彼の所にの色で粘性もありそうだ。トマトジュースが好きな私もいつか飲んでみたいと思っ た。
長時間座るのに疲れトイレに行こうと席を立った。そこでJames Millerと言う21歳のアメリカ人と会話をした。度の強いメガネレンズでさらに大きく見える目を持つ彼もまた陽気な人だった。彼は中国の西安に6週間留学して韓国を1週間観光し、アメリカに帰ると言った。 彼は漢字が好きだと言い、私の名前の漢字を訊いてきた。私は一斤染信実と書いた。すると彼は一斤染と言うプラモデル の会社を知っていると片言の日本語のような英語で言った。私の聞いたことない会社名。外国で有名な会社が日本でも有名な会社がとは限らないと思った。それとも彼はブラモデルオタクだったのかもしれない。 もっと話したかったのにトイレ前で話していた私達はアテンダントに注意されてしまい席に戻った。その様子を見ていた 同じ旅行のグループの男の人がケラケラ笑っていた。彼は誰だろう? それから席に戻り、まだ先は長いので寝ようとした。
私達を乗せた飛行機は日付変更線を越え過去にタイムスリップした。何も変わる訳ではないのに私は外交的な性格、活 発でお喋りな自分に戻っくいく気がした。見る物全てが段々カラフルに色が付いて行く予感がした。 ロサンゼルスには午前10時に着いた。入国手続きをした。その後ニック肉桂先生がなくすと大変なことになると言い、みんなのパスポートを預かった。
空港内で軽食をとる。生まれて初めて歩くカーペットに乗ってカフェまで移動した。私はチーズケーキ、蜜はバナナク ルミケーキを食べた。明るい蜜と行動をいつも共にできて私は嬉しいけれど、みどりさんは知らない人の中、大丈夫かな と見ると藍さんと笑顔で話していたので安心した。
空港内はとても広くて今度はバスで移動して違う建物に入りオークランド行きの飛行機に乗る。背の低い私はバスの椅子 が高くて足が付かず宙ぶらりんだった。




