17 夫に話す
私は昔、よく喋る子供だった。その名残と隠しことはしないという考えで夫には何でも話すように心掛けている。私が話しすぎるのか夫はすぐ忘れる。幸か不幸か私が同じ話をしても、いつも初めて聞くように聞いてくれる。
山吹市から帰ってきた日の二人での夕食後、私は夫に初めて話す話を切り出した。こんな感じに話した。
「大学生の時、心療内科に通っていたし、二十歳の時は精神科に通っていたでしょ。その時、母は医師に兄の逮捕のことも言ってくれてないし、コネで就職したことも話してないのよ。それが原因なのに。話してくれなかったら治る病気も治らないと思うでしょ」
「うん」と彼は頷いた。その後アメリカ旅行の不可解な出来事も話した。もちろん、私が精神不安定で病院に通っていたことも兄の事件も旅行の話も結婚前に話してある。コネで就職したことは結婚後に話した。きっと夫は忘れているだろうが。原因は複雑で理解できていなくて話していない。それに夫は私の言動が、おかしいと思った事は一度もないと言ってくれたことがある。そうなのだ。他人から見ると奇妙に映る私の態度には、いつも正当な(少なくとも私には)理由がある。
そして彼が話し始めた。
「仕事を辞めようと思う。でも何か仕事はする。娘が大学卒業するし今までの生活をしていけば収入が減っても暮らせる。いい?」
前々から末の娘が大学を卒業したら警察官を辞めようと考えていることは聞いていた。彼は警察官に向かない。警察官舎で生活していた時、警察官、その家族との付き合いの中、そういう人達に私は数人会ってきた。正義感が強すぎたり、その逆だったり、人に流されやすかったり主張が大きすぎたり。とにかく、世の中には色んな人間がいる。色んな人に会うと自分を見失ってしまう人間も多くいる。人との関わりは難しい。
「いいよ」と私は答えた。
罪を犯しても捕まらない人が身近に、うじゃうじゃいる中、警察として他人を取り締まる意味があるのだろうか? また汚いお金で育ってきた私が人に何か言うことはできない。人の人生に関わることは恐ろしいこと。透明になりたいと強く思った。




