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4 高校生活と共通一次

最後の高校生活は大して楽しくも楽しくなくも過ぎていく。

そんな中、10月のクレーターまで見える透き通ったほぼ満月の金曜日に電話が掛かってきた。家の外の庭で空を見てい た私は母に、

「信実、電話~」と呼ばれた。

電話の主はクラスの男の子だった。彼は同じクラスの柳と名乗って「あさっての日曜日何処かへ行かない?」 突然言った。

「行かない」と答えた。それで電話は終わった。翌日土曜日。当時の土曜日は学校は午前中、活動していた。 私は柳って誰だと思ってクラス名簿を見た。二人いた。しかし二人とも関わったことがない。と言うか私はクラスの男と は中学になってから殆ど関わったことがない女子生徒だった。

二人の柳は私に学校で全く話し掛けようとしない。これでは電話の主が、どちらかわからない。そのまま次の週末になった。 また金曜日の夜、柳君から電話があった。今度はフルネームを一応訊いておいた。彼からの電話の内容は同じ。今度は、

「試験勉強があるから行かない」と答えた。

「じゃ期末試験の後に行こう?」と言ってきた。

「ちがう。大学入学試験の後考えてみる」と答えた。

私のような愛想の悪い女とデートしてもつまらないだけなのにと思った。

翌日土曜日、クラスの男子に人気のあるルイに柳君のことを相談した。(クラスに二人いるので電話をしてくる方は柳 Aとしておく) ルイは柳Aから私のことを尋ねられていた。ルイは男友達が多いからそんな気がしていた。そしてルイは 柳Aが私の誕生日を訊いたので教えたよと言った。私の誕生日は8月でもう過ぎていた。何か良かったと思った。プレゼ ントをもらわなくて済む。ややこしいことに関わりたくなかった。話の流れ上、柳Aの誕生日も訊いた。ルイは何故か知 っていた。

「9月11日」と言った。もう過ぎていた。 9月11日か・・・兄の誕生日だ。いやな予感がした。

それは少し前に教室でこんなことがあったからかも知れない。私が昼休みに一人で教室にうしろの戸から入ると真ん中 で輪になって話していた男女七人くらいのクラスメイトが一斉に私の顔をみてからザワザワとバラバラに散って行った。 その中に柳Aはいなかった気がする。クラスでも目立つ活発な人達だったと思う。

怖い仮説が頭に浮かんだ。 まず柳Aはおとなしい→女の子をデートに誘うタイプではない・・・私は男に人気がない→つまらない受験生のクラスの一部 は何か刺激が欲しい→柳Aと兄は誕生日が同じ・・冴えない柳Aに、これ又冴えない私をデートに誘わせて私の反応を見て楽 しみたい→柳Aに私をデートに誘うよう脅す→つまりクラスの一部は兄の逮捕のことを知っていると結論付けてしまった。 顔のいい兄はよく目立ち中学で有名だったのに加え、兄と私は別の高校なのに兄の噂は時々私の耳にも入っていた。高校 の友達からもかっこいい兄に会わせてとせがまれたこともあったので、兄の誕生日を知っている人がいても不思議ではない。それに、逮捕以来、些細なことでも兄に関係するのではと過敏に反応していたと思う。

また金曜日の夜、柳Aから電話があった。もう面倒なので、

「クラスの子みんなでボーリングでも行こうか」と答えた。

強がりな私は人に動揺している姿を見せたくない。みんなの前で平然としていたかった気持ちからそう言ってしまった。

私はルイと相談してクラスの女子の全員に声をかけた。柳Aが男子を集めることになった。 クラスボーリングの日、11月に入ったばかりなのにどっ寒い日曜日の朝、私は真っ黒の無地のぶっ厚いトレーナーを着 て出かけた。先輩に会う時と気合いの入れ方が服装にでてしまう。ほかの女の子はボーリングをするというのにピンクハウス擬きのワンピースやらを着てアクセサリーを身につけて、みんなおしゃれをしていた。

結局クラスの四分の一位集まり10人でボーリングをした。私は毎月ある模試の成績が伸びなくなってしまい、かなり 焦っていた。こんな所でスペアを出してハイタッチしている場合ではないのにと来たことを後悔していた。

ふと二つ向こうのレーンを見ると同じクラスの世良君が違うクラスの男友達とボーリングをしている。目が合って彼は私 たちの所に歩いてきた。私たち10人がクラス会をしているのを知って驚いていた。理系クラスで男子は多いから、男子全員に声を掛けなかったのだろう。たしか世良君は大学受験をしないと聞いたことあった。彼はのんきにボーリングをいつ もしているようで別の世界の住人みたいだった。そして私は一緒にボーリングをしている人とも違う世界にいるようで 居心地が悪かった。三ゲームして解散した。

11月末、模試の帰りの出来事。模試が終わり、電車に乗って最寄りの駅で降りて帰ろうと一人歩いていると、夏休みに 大学を案内してもらった先輩の姿があった。彼も同じ電車に乗っていて同じ駅で降りたようだ。目が合い近づいた。そし て二人で並んで駅前通りの本屋に入るまで5分くらい話しながら歩いた。今度こそ二人きりの初デート。そう感じてるのは、いつも私だけなのだろうけれど、本当に一緒にいるとやさしい気持ちになれる人だと思った。自分の思 い、心配事を話すことができたならどんなに良かっただろうと今は思う。でも彼とは何でも話せる中では全然ない。身内の事など打ち明けられても困らせるだけ。たわいのない大学生活の話をきいて別れた。

時間は私を飛ばしてドンドン進んで行く。行きたい大学も決まらない。何になりたいか何をしたいかが考えられなかった。誰にも相談できないまま願書を出さなくてはいけない時期になった。誰にも話す気分になれなかった。頭の中 は罪という物に苦しめられているようだった。 去年は共通一次の結果後、希望大学に願書を出すことになっていたのに今年は共通一次試験前に願書をだす事とすると国の偉い人が決めた。(共通一次とは公立大学受験者が共通の問で受験するテスト。各大学が個々に行うテストを二次試験と当時よんでいた) 学生に本当に行きたい大学を受けさせたい為だそうだ。いつの時代も全ての人に適するルールは無理なこと。そのルール が自分に合わなくても、適合できる人もいる。そういう人が成功できる。

しかし、その頃の私には難しすぎた。 私の国公立大の希望条件は、受かりそうな大学、下宿できる比較的に遠い大学、女子大学の三つ。私は数学が得意なので数学に有利な点のある今はなき公立の山口女子大学に願書をだした。私立は下宿できる京都女子短大、もう一つは自宅から通学可能な大学の薬学部にした。勿論私立大は受かるつもりもないし行くつもりもない。ただテスト慣れになるし薬学大は女子が多そうだし。レベルが 高くて落ちてもはずかしくないだろうという考えで願書を出した。

共通一次は1月の第2土日の2日間、会場は夏休みに見学させてもらった三重大学、本当はこの大学を受けるはずだったのにと思うと心が沈んでしまう。

一日目の国語、理科、英語の出来はいつも通りだった。今の実力では平均点が取れれば文句は言えない。

その日の夜は一夜漬けのように世界史を勉強した。

2日目、不安の中、会場へ行った。苦手な世界史の試験が終わった。苦手な科目は自分でできたのかどうかよく分からない。

らない。とにかく全部マークシートうめた。 最後の数学のテストを受けていた。最初の簡単な計算五問はできた。次の問題で予想していた答えにならずマークシート の回答用紙に上手く入らない。いつも時間は余るのでもう一めから計算し返す。今度はもっとよくない。やり方は正しいと分かっている。何処かでイージーミスをしていることは明らか、諦めて問題を飛ばす。集中できない、終わりの 時間が迫ってくる、もう考える時間はない。マークシートの用紙に4とか3とかの数字の円にHB鉛筆で黒く 塗りつぶしてしまった。 私が待っていた終わりのチャイムが聞こえた。私は心の中でもう終わりにしたかったのだ。そして私の国公立大学の進学は消えた気がした。 次の日、起きた。新聞に一次の問題と答えが載っているので答え合わせをした。数学以外は予想より点数が高 かった。数学はやはり悪かった。国公は無理そうだ。

今日に試験を受けて次の日の月曜は普通に学校がある。この時期の受験生に休みはない。午前中は普通授業で午後からは共通一次を受けた学生のみで試験の答え合わせの確認をする。多くの今日のTV解説や新聞で、すでに答え合わせは終わっているはず。

私はお弁当を食べた後、どうしても教室にいられなくて、誰にも言わず帰ることにした。私は違う世界の住人なのだ。共通一次を受けていない学生もいるのだから私一人いなくても誰も気付かないだろう。 教室を出て階段の端っこを小走りで降り自転車を取りに行って校門を出た。少し行くと世良君がちがうクラスの女の子二人と何か語っていた。就職組の彼は昨日の試験を受けなかったようだ。 彼は私を見ると「バイバイ」と言った。

私も「バイバイ」と返した。初めて世良君と話したと思う。ふしぎなふんわりした気持ちになった。 家に帰ると誰もいなかった、二階の自分の部屋に行き取り合えず思いっきり泣いた。落ち着いたので居間に座りTVをつ けた。少しして3時のニュースになった。地方のニュースキャスターが、

「今日の8時14分山吹市つばめ線のスズメ蜂駅付近で三県立山吹高校3年の生徒が線路に入り電車に接触したため 1時間の遅れ」と聞こえてくる。ぼんやりしていた頭がクリアになってくる。同じ高校の生徒だ。よく分からないけど 大変なことになっている。事件。学校に行って確かめなくては。急いで学校に向かった。 学校は自転車で15分くらいと近い。校門を入り自転車を置いて階段の真ん中を駆け上がり教室に向かった。教室の戸を開けるとみんなが私を見て驚いた。その中の一人が、

「よかった」と抱きついてきた。私が電車に飛び込んだ生徒と思われていた。今度は私が驚いた。 結局、その日は事件の説明は生徒に何もなく早めに帰ることになった。職員室は立ち入り禁止で先生達は緊張した面持ち で何かに対応していた。

次の日、新聞で共通一次試験のできを苦に山吹高校の男子生徒線路に入り電車と接触、山吹市内の病院に搬送。軽い怪我と知った。

私も試験のでき悪かったよ。でも自殺は考えてもみなかったよ。私の悩みなんて彼の悩みに比べれば、ちっぽけなものだと思った。それとも世界にとって彼が不出来だったことは重要で私はそうではなく、どうでもよい人間だと言われてい るように感じた。





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