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20  8月6日(木)19日目

朝ホテルの部屋で、目が覚めると気持ち悪くてたまらない。昨夜ディスコで少し飲んだお酒とおかしな夢のせいだ。夢で、礼儀正しい男達が私の前に何人も(数は分からない)一列に並んで順番に事務的に私を犯していく。何が起きて

いるか分からずベッドに座っていると、蜜と藍さんがきて、

「信実、おはよう。どうしたの? 顔が真っ青だよ」と言った。

「気持ち悪い。レイプされた気がする」と答えた。

すると藍さんが真剣な顔になり、

「トイレで確かめておいで」と言った。私はトイレへ行った。特段変わりはない。ドアから出ると2人が立っていて、「どうなの?」と怒るように藍さんが言った。訳が分からず私は、「大丈夫」と答えた。2人は呆れたように顔を見合わせた。

 私はベッドに戻り座っていると、蜜と藍さんが涼さんを呼んできて同じ部屋のリビングで私の様子が変だと言っているのが聞えた。そう、確かに私は変。

ハワイにきてからベッドに入っても、ぐっすり眠れたことはない。ハワイにきてからではない。この旅行の初めの頃からよく寝ていない。でも最近は暗い夜に目を瞑って、このまま寝てしまうと次に目が覚めたときは、全ての髪の毛が真っ白になる確信のようなものがある。暗い部屋では何かが起きる。それが恐くて朝の光がカーテンの隙間から見えるのを毎日確認してから少しウトウトする。何かが、可笑しいと考えていたのと同時に信さんがどうして私の兄のことを知りたがっているのかを考えてしまう。

彼は「信実ちゃんのお兄ちゃんどうしたの?」と訊いて、

私が「どろぼう」と答えた時、その事実を知らないような顔をしていた。だとすると、兄と一緒に車部品窃盗をした人ではない。では半年前私の家に怒鳴ってきたヤクザだとしたら? 私は彼らの声しか聞いていない。その声の中に関西弁を聞いたような気がする。彼らは私の家を知っている。私の存在を知っていても不思議ではない。信さんは自分で実家はお寺で保育士になるため大学院に通っていると言っている。確かに彼をお寺で見て保育園の園長室で会っている。でも彼は平気で年齢を誤魔化してディズニーランドに大人料金を支払わず子供料金で入って遊んでいる。彼が通っていると言う大学名も紫根伯父さんから聞いていた大学とは違う。

もし彼は兄の件で私に仕返しをしようと企てこの旅行中ずっと、機会をうかがっていたとしたら・殺・さ・れ・る・

でも彼は親切で彼の勧めてくれるものは私の価値観と合う物ばかりで、私は彼と一体感のようなものを感じ始めていて彼は私と一緒にいて気持ちが次第に変化していき、復讐をやめようと思ってくれているとしたら・・・私はこれからどんな態度をとればいいのか? 

今まで私は彼にどう映っていたのか? と考えると恐くてたまらない。どうしても真実が知りたい。でも兄のことは誰にも相談できない。今までに話したのは信さんにだけ。彼だけに会いたかった。でも食事の時もウインドサーフィン体験でもディスコでも彼の姿は見ていない。明日は日本へ帰る。今日中に、どうにかして会わなくては、な・ら・な・い・彼の部屋は知っている。

掌くんと龍馬さんと同室で同じフロアの801号室のはず。

 夕食後、801号室をノックしてみた。信さんがドアを開けた。

「信実ちゃん」と言った。

挨拶のように頭を下げて部屋の中に進んだ。部屋には信さんだけのよう。三つ並んだベッドの横で信さんに私は五つの質問をすることになる。

「信さんに何処かであった気がするのだけど、呉須信?」と訊くと頭を縦に振った。呉須信というのは私が小学2年の頃、縦割り班で同じだった6年生の人でよく面倒を見てもらっていた人。でもそれ以来会ったことがない人。信さんが誰か知りたくて名前が同じなので口にしてみた。でもあれから10年経てば今の信さんのようになっているかもしれないと考えて名前が出てきた。そして信さんはそうだと言う。うれしい気持ちもあるが、こんな事があるのだろうか? 偶然? 本当は一番知りたい事、彼が兄を訪ねてきたヤクザなのかを訊くべきだったけれど、そうではないとの願いと兄の不祥事をこれ以上話せないから訊くことはできなかった。自分の思うことを口にできない癖が出てしまう。しかし、どう考えても信さんは呉須信ではないので、次はこんな質問をしてしまった。「どうして変わったの?」彼は「大人になると変わる」と答えた。

彼は大人で、私は子供と言いたいのだろうか? と思った。もう何が何だか分からない。でも次にこんな質問をしてしまう。

「私は男だった?」今度は頭を横に振った。なんて馬鹿げた質問なのだろう。支離滅裂。

次は「からかわれた?」と訊いた。青白シャツを着た彼を思い出したからだ。彼は頭を横に振った。そして「考えてはいけない」と私の頭をゆっくり撫でた。私は彼の手をとり黒のG-SHOCKの腕時計を外した。くっきり時計の跡が見えた。白い。これが本当の彼。私は黒く日焼けした彼しか知らない。本当の彼を知らない。

見つめ合いながら私は彼の手を引いて2人でベッドに倒れていった。広い暗闇に深く落ちてゆくように。

 その時、誰かが部屋に入ってきた。龍馬さんだ。信さんが、起き上がって私も立たせて、

「龍馬さんがきたから」と言った。私は「これからどうしたらいいの?」と訊いた。

彼は「みんなのことを考えて信実ちゃんの好きなようにすればいい」と答えた。そして私の部屋に戻された。

 部屋に入り信さんといたことが分かると部屋にいた蜜がとても心配そうな顔になった。

そして蜜は「信実はだれが好きなの?」と訊いた。

沈黙の時間が流れた。私はその時間の中で、信さんが今今私に言った(みんなのことを考えて)と言うのはどういうことなのだろうと一所懸命考えた。みんなとは今旅行を一緒にしている人達のことなのか? 全ての人間のことなのか? 又々無生物、環境、宇宙すべてのことも考えなくてはいけないのか? 難しすぎる。私にはできそうにない。

しかし、今、私は蜜の質問に答えなくてはいけない。でも信さんのことが好きと私に言った蜜には信さんが好きとは言えない。声が音を作らない。

蜜は部屋から出て行った。きっと藍さん、涼さんに私のことを相談しに行ったのだろう。私の望んでいたのんびりした旅とは程遠いものになってしまい悲しかった。蜜は間もなく戻ってきた。そして独り言のように、そして私に聞えるように「みんな信実が好きだったんやね」と言った。

今日、考えされられるみんながまた、出てきた。蜜の言うみんなは誰なのだろう。でもその時は、どうでも良かった。

何も頭に浮かんで欲しくないと思った。助けてください。そして、ただただ静かな所に行きたいと強く願った。

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