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11 7月28日(火)10日目

今日は朝食後、遊園地グレートアメリカへ行く。

朝食の時、カフェテリアで出会った信さんは私と目を合わそうとはしなかった。無視されたのかなと感じた。昨夜、部屋に行かなかったので少し怒っているのかもしれないと感じたが、私の思い過ごしだろうと気を取り直して普通に振る舞うことを心掛けた。

今日、出掛ける遊園地グレートアメリカは絶叫マシーンがいくつもあるそうだ。私は生理中で気が進まないが、ジーンズにベージュのTシャツ、蜜と色違いの茶色のカーディガンを着て車に乗った。蜜も深緑のカーディガンを着ていた。何人か行かない人もいたので車一台で出掛けた。信さん、龍馬さん、藍さん、涼さんの姿はなく行くのは子供ばかりだった。私もやめておけば良かったなぁと思った。遊園地到着。入場券を購入し、八人一緒に行動して目に付く乗り物を手当たり次第、挑戦していった。私は横に動く絶叫ライドは好きだが縦上下に動くライドは苦手なので、パスした。まじめな掌くんが、はしゃいでいた。いい息抜きかも知れないけれど受験生くんには息抜きしすぎではと思った。しかし人事ではない。私も大学の試験は大丈夫かなと心配になってきた。日本に帰ったら、かなり身を入れて勉強しないといけないなぁと覚悟した。

遊園地はみんなでキャーキャー騒いで過し園内でランチを食べミルズカレッジに戻った。到着して車から降りるとき掌くんが、

「これ」と言い貸していた私のウォークマンを差し出したので受け取った。ドームに戻り、みんなは信さんの部屋に集まる約束をしたようだった。私は疲れたので自分の部屋に戻った。そしてウォークマンを使おうとした。その時、イヤホンの差し込み位置の色とイヤホンの先の色が異なっていることに気付いた。これは私のウォークマンではない。きっと信さんのもの?どうして? 掌くんが間違えて返したのか? それとも掌くんか?信さんのどちらかが故意にそうしたのか? 訳がわからない。

そんな時、ノックの音がして蜜が入ってきた。

「信実が一人でいるから信さんがすごく心配してるよ。大丈夫?」と言った。私にとって一人でいることは普通のことであって、どうして心配されなくてはいけないのか分からなかった。

「大丈夫。でもおかしなことがあって掌くんにウォークマンを貸したら信さんのウォークマンが返ってきて」と蜜に相談してみると、

「信実の勘違いよ。本当に大丈夫。しっかりして」と私の肩に手を置いて言った。これ以上、何も言えなかったが、私の勘違いではない。蜜には信じて貰えなかった。暫くするとニック先生と涼さんが電話を持って入ってきた。蜜から私の様子を聞いて心配なのだと言った。

「国際電話で一斤染家に掛けてお母さんに事情を説明してあるから信実ちゃんもお母さんと話すといい」と受話器を渡された。

「もしもし」と言うと受話器の向こうで泣声が聞こえた。そして、「信実ちゃん大丈夫なの?」と言いまた泣声がする。母の声ではない。伯母さん(母の姉)の声だ。そうだ。母はめったに”ちゃん”と付けて私を呼ばない。私はニック先生に受話器を返した。

「お母さんではない。母のお姉さんの声がした。入院しているじいちゃんに何かあった?」と訊いた。そして私は泣き崩れてしまう。祖父が入院している病院の医師、藍さんのお父さんから何か情報が入って祖父に何かあったのだと私は思い込んでしまう。ニック先生は受け取った受話器で数分、会話した後、電話を切った。

涼さんは困った顔になり、

「お母さんはおじいさんの病院に行っているから代わりにお姉さんが来ているのよ。でもおじいさんは大丈夫だから」と言う。

ニック先生も「今おじいさんは大丈夫と聞いたから安心しなさい」と言う。だったらどうして電話で話さなくてはならないの? どうして、電話の声は泣いていたの?

「お母さんは信実ちゃんの事が心配と言っていたよ」

と彼は言う。親なら、どんなに心配でも何もできない遠くに離れている状態なら、平常心を保つべきだと思う。私ならそうすると今、思う。私はこの時、パニック状態で自分は人に大丈夫かと心配されなくてはならない事に気付いていなかった。祖父の調子が少し悪くなったから電話で話すことになったと思っていた。電話の声も母の泣声で私の勘違い。涼さんは困って私に合わせて伯母さんがきていると言っただけだ。しかし、この小さな嘘white lieの重なりが私を段々、人のことを信じられなく

していった。white lie も黄ばむ。洗って白いシャツもしまい込み時間が経つと知らないうちに黄ばんでいるように。

「これは、わすれな草薬局特製のよく眠ることができる薬だから飲んでよく寝てね」

と涼さんは新しい薬をくれて二人は部屋から出て行った。

明日はとうとうバークレー最後の日になってしまう。ずっと、ここにいたいと思った。人には大丈夫? と心配されていても私は大丈夫。少なくとも日本にいる時よりも私は幸せと感じていた。

寝仕度をしてベッドに入った。涼さんからもらった薬も飲んだ。でも寝付けない。腕時計の針は夜中2時10分を指している。

寝るのを諦めて廊下を散歩しようと思った。ドームの中を一周して信さんの部屋の前で足を止めた。ドアノブを回す。鍵が硬く掛かっている。拒絶された気分になった。斜め向かいの自分の部屋に戻りまた薬を飲んでoverdose 今度こそ寝ようとした。そしてさっきの電話のことを考えながら知らない間に寝てしまった。

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