8 7月25日(土) 7 日目
今日は早朝から夜遅くまで外出予定。夜は寒くなりそうなので、ベージュのTシャツ、毛糸の黒いカーディガン、ロングスカートを選んだ。スカートは大学の近くのお店で買ったピンク地に小さな花が散りばめてあるリバティプリントのお気に入り。毛糸の黒いカーディガンは私のリクエストで菰野屋の叔母さんが入学祝いに編んでくれた品で前にボタンだとカーディガンになり後ろ前反対に着て後ボタンにするとセーターに見える2WAY。とても着心地がいい。
行き先はレイク、タホ、リノ。4時間を越えるドライブ旅行。
今日から普通車とワゴン車の二台になった。信さんがアメリカで運転できるようになったからだ。車には詳しくない私でも、淡い紺色のトヨタのカローラだとわかる。日本製でも左ハンドル。ニック先生が、
「信実ちゃん、信さんの隣に乗り」と言った。昨夜のニック先生との会話もあり、迷っていると、藍さんが何やら怒りだした。 「私も国際免許を取ったから、カローラに乗りたい」と何か説得力のありそうなことを言い出した。彼女はわかりやすい。信さんの事が好きでたまらない感じ。私は、
「こっちのワゴン車の助手席に座ってもいいですか?」と許可を得てニック先生の隣に座った。信さんと藍さんと涼さんの恋のもめ事に関わるのはごめんだと思った。そして内心ホッとしている。信さんの隣では緊張して吐きそうだ。
カリフォルニア州とネバダ州にまたがるタホまでの道からは地平線まで見える砂漠が果てしなく続いて見えた。私はずっと外の景色を見ていた。視力0.1の近眼の私は目が良くなったように感じた。そして、すぐ後にわかることだが実際かなり良くなっていた。私は中学から、かなり近眼なのにメガネは学校で授業を受ける際に時々使うくらいだった。だから、私には見えていない物が多くあったと思う。また見たくない物も多くあったと思う。
私は左ハンドルの車の助手席に座っているので、ちょうど日本なら運転席の位置だと思い運転の真似をした。私も運転免許が欲しいなぁと思った。そして道中ニック先生の大げさな話を聞きドライブを楽しんだ。彼は、
「信実ちゃんは本当にいい子だなぁ。そして負けず嫌いだ」と言う。何を持って負けず嫌いと言うのか理解できないけれど私の態度がそう言わせているのだろう。自由なアメリカにいることで気分がハイになっている。もう少し大人しくしていようと思った。
レイク、タホに着いた。タホはこの地に先住するワショー族の言葉で大きな水(湖)だそうだ。本当に大きい。船に乗ったり、カヌーをしたり様々なアクティビティができるけれど、時間がなくレイクの周りを歩き、池の中心に向かっている橋を渡るだけだった。実際には橋ではない。途中で途切れているので、引き返さなくてはならない。でも先端まで来ると磯のにおいがすれば海の真ん中に立っているよう。次はリノへ向かうためそれぞれまた同じ車に乗った。
リノはカジノで栄えた街。同じ州のラスベガスよりも規模は小さいけれど、初めてカジノの街をみた私にはラスベガスのように感じた。車を近くのパーキングに停め、少し歩いてカジノの建物にみんなで入った。
まずニック先生の指示に従いみんなコインを手に入れた。1Fのフロアにずらりと同じスロットが何台も並んであったのでコインを入れてレバーを引いた。すると大きな音がして1つずつ止まった。3つとも王冠のマークになったと思うと、今度はさらに大きな音が出て同時にコインが100枚くらい出てきてしまった。Beginner’s luck100枚はここで全部使い果たそうと思い近くにいた、中学生の英ちゃん、紅ちゃん、澪ちゃんに適当に掴んであげた。私はカジノの奥へと進んだ。
奥は仕切りのない部屋になっていて日本のゲームセンターよりも派手な様々な機械が置いてあった。やり方もよくわからず手当たり次第やってみた。やはりビギナーズラックだったようでコインを全部なくした。そこで中を散策していた。ニック先生に会った。
「藍ちゃんに用があるのだけど見当たらないんだ。捜してくれる」と言った。
「OKAY」と言って、さらに奥の方へ行きかけると、「彼女は馬鹿だから単純な物をしているよ。あっちを見てきて」と言う。私はその言葉に驚きと何か違和感を持ちながら言われた方を捜すと確かに藍さんは単純なゲームを夢中でやっていた。彼女を英語教室の先生として雇っているのはニック先生なのに、どんなつもりで藍さんを馬鹿と言ったのだろうと彼が恐くなった。
帰る時間になり同じ車に乗り出発した。途中で美味しくて有名な中華料理店幸華楼で夕食をする。幸華楼に着いた。信さんは初めての左ハンドル、アメリカでの運転にもすぐ適応したようで、とても楽しそうだった。
店の人に案内され中央に置いてある大きな黒光りの円卓を囲んで座った。メニュー表が一人ずつ配られた。メニューは英語と中国語で書かれてあった。一人一品注文して、みんなで分けることになった。メニューを見てもよくわからないので他の人がどのページの料理を頼んだかを確かめ誰もスープのページから頼まなかったので乾燥イチジクのスープを注文した。体と心の不調を治す力があるスープらしい。色んな料理が出てきた。餃子、麻婆豆腐、酢豚、青椒肉絲などに似ているものもあるけれど、名前が違っていて何が出てくるのか、お楽しみの楽しい食事になった。同じような料理も重なり、美味しい料理もあれば外れ料理あったけれど、全体として美味しかった。 食事を楽しみ、お皿が片付けられるとフォーチュンクッキーが入った籠が出てきた。クッキーに紙が挟まっていて、その紙にその人の未来を示す言葉が書かれているそうだ。今ではAKB48のヒット曲のおかげで、知っている人も多いけれど私はその時、初めてみた。回ってきた籠から一つクッキーを取った。紙を開くと(someone likes you)と書かれていた。ニック先生が、
「藍さんなんて書いてあった?」と訊いた。
「(you will win a beauty contest)」と答えた。他の子も「(you will be the richest person)」「(you can go abroad)」とそれぞれ口に出して読んだ。「(someone likes you)」と涼さんが言った。私と同じだ。私は黙っていた。ただの占いの言葉だけれど、だれかわからない人に好かれるのは気味が悪いと思った。クッキーは硬くて小麦粉の味がした。
店の外に出て広場のベンチに座っていると信さんが、「服反対でない?」と声を掛けてきた。私が黒の2WAYのカーディガンを後ろボタンにしてセーターのように着ていたからだ。「どっちでもいいのよ」と答えた。彼は不可解な表情で私の服を見直した。私は彼に、「どうして保育園の先生になりたいの? 子供が好きなの?」と訊いた。彼は、
「子供はかわいいけどね」とだけ言った。答えになっていないなぁと思ったけれど、保育園経営の家に生まれた彼には彼の事情がありそうなので、それ以上は訊かなかった。そして今度は彼が、「信実ちゃんは薬が好きなの?」と訊いた。薬が好きで薬剤師になろうとする人なんているのかなぁと思ったけれど、「嫌いかな。だから薬を飲まなくても済むように自然治癒とか予防ワクチンに興味があるかな」と答えた。「しっかりしてるな」と言われてしまった。よく考えもせず答えたが自然治癒に興味があるというのは本当。私は昔、結果的に縫わなくてはならない程の切り傷をした時も友達が気付くまで何もしなかった事がある。我慢強いのか? 痛みに
強いのか? 鈍感なのか? 自然に任せることがよくある。いつも時が解決してくれるのだ。しかし本当は薬学部に入って後悔の気持ちが強くなってきているのに、その事は言えなかった。私にも私の事情がある。
美味しい料理でお腹もいっぱいで満足し、午後11時少し前にドームに着いた。




