6 7月23日(木) 5 日目
今日はヨセミテ国立公園へ出掛ける。そこは氷河が岩山を削って生まれた渓谷で絶壁や滝などの観光スポットがある。
熊、鹿など野生動物、鳥にも出会える。セコイアの巨木がそびえ立ちスケールの大きいアメリカの大自然を堪能できる場だと予習してきた。
私は白いブラウスにお気に入りの白黒の大きなチッェクのスカートを身につけて、髪は縛らずカチューシャをして少しおしゃれをした。朝早いので大学のカフェテリアはまだ開いていない。今日は全て外食。
集合場所に行った。ワンボックス車の前に信さんが立っていた。信さんの服に驚く。昨日、私がサンフランシスコで買ったマリンブルーと水飛沫のシャツにそっくりの服を着ている。彼のシャツはスカイブルーに真っ白の雲が一面に浮かんでいる。青に白も同じでシャツの形も極似。彼も気付いているだろう。違う。彼は昨日、自分が日本から持ってきたシャツと似ているなぁと思いサンフランシスコの店に置いてあるシャツを見ていた。そして私が偶然、同じ柄のシャツを手にとって見ていたので勧めた。そして今日は故意にそのシャツを着て私の反応を伺っている。困ってしまう。何も言えない。そのシャツが彼によく似合っていたせいだ。そして彼もシャツのことを話題にしなかった。
間もなく全員集まり、ニック先生の運転で出掛けた。4時間ほどのドライブ。昨日、買ったウォークマンで英語で話されているラジオを聴きながら、外を眺めて過した。ラジオの音は殆ど何を言っているのかわからない所が心地よい。ここはアメリカ、アメリカなんだぁと再確認できる。
ヨセミテ国立公園に着いた。パーキングに車を停め散策する。
私は旅行前に得た知識を思い出して丁度、信さんがビデオを構えていたのでカメラを意識しながらリポーターになったかのように、歩きながらヨセミテ公園の説明を始めた。
「ここ、ヨセミテの見所の滝がもうすぐ見えますね。なんとナイアガラの滝よりも長いんです」と説明してから滝を見た。確かに長いかも知れないが、細くて本物を見てもナイアガラの滝の写真にも比べものにならない淋しい滝だったが気にしないことにする。ここで私のリポーターごっこは終わった。他の女の子らがカメラに映ろうと信さんを囲んでしまったためだ。
どんどん宝物を探すかのように進んでいった。正面にハーフドームが見えた。言葉が見つからないくらい綺麗だった。Breathtakingと言う言葉がぴったり。少し離れた所にある半円の存在感のある岩は私の方にグイッと近づいてくるようだった。岩の形が平和の象徴の白い鳩に似ているそうだ。
眺めていると人は自然のほんの僅かな一部に過ぎないと思えた。
ここはヨセミテ国立公園での一番の写真撮影スポット。ハーフドームをバックに順番に写真を一人ずつ撮ることになった。
私の番になり、龍馬さんに自分のカメラを渡し石に斜めに座って撮ってもらった。
「いいねえ。お見合い写真になる」と言われた。お見合いなんてする日が来るのだろうかと思った。家族のことを調べられそうで私はしないと思った。
「ありがとう。今度は龍馬さんを撮ってあげる」と言うと、
「僕はいいよ。やめておく」と言ったので隣にいた信さんをみて、
「どう?」と言うと私がいた場所へ走った。
そして私がカメラを構えると両手をVの字にして右足を高く上げてポーズをとった。私は写真を撮った。他の女の子達も彼を撮ったようだった。アイドルのブロマイドのような、いい写真になりそうだけれど、この大自然を電気ドリルでゴリゴリと削り込むような気分になってしまった。龍馬さんが写真を撮られるのを拒んだ意味がわかる気がした。たとえ写真を撮るだけでも、自然を脅迫するかのような行為はいけないと言われた気がした。
その後、龍馬さんと同じ高校だったことを思い出して山吹高校のことを彼に話してみた。七つも年上だから共通の知っている先生もいないだろうと思い、山吹高校の生徒なら誰でも利用したことのある風変わりな宿泊施設グリーンゲイブルズの話をした。風変わりというのは、その建物の位置で校庭の、ど真ん中にあったグリーンゲイブルズの南側が主にラグビー部が使い、北側を野球部が使っていたと思う。北側だけの校庭の時その端にグリーンゲイブルズが建てられ、校庭を拡張する話
が持ち上がり建物を壊さずにラグビー場を作ったので南校庭と北校庭の真ん中に位置したそうだ。そして名前の通り小説、赤毛のアンの家のように緑と白色の素敵な建物だった。そんな建物を彼は知らないと言い私の話を曖昧に聞き頷いていたので、もう山吹高校の話をするのをやめた。
結局、信さんとは服について最後まで何も話さなかった。でも私は青と白のシャツを着た彼を目でずっと追っていたと思う。先輩の6年後のように感じながら・・・
少しの自由行動の買い物後、集合時間になったので、私は車に戻りみんなを待った。しかし時間を過ぎてもみんなが来る気配がなかった。車内には一番後ろの席に龍馬さんと信さんが並んで座っていて、私はそのすぐ前の席に腰掛けた。すると龍馬さんが、こんなことをつぶやいた。
「遅いなぁ。みんな勝手な行動ばかり信実ちゃんが一番いいなぁ」
信さんは「うん」と頷いていた。殆ど誰もが初めての海外旅行で刺激が多すぎて自分が何処に立って何をしているのか見失っているだけなのに随分な言い方だなと思った。私も見失っている。
でも、なんとなく映画「フォレスト・ガンプ」の中のジェニーがピッピーの仲間とバスで移動するシーンのように感じられて楽しい気分もした。その映画の中で私が最も好きなシーン。
帰りの車中は疲れて一つの斑な石の塊のように、みんな静かだった。私は蜜とみどりさんの間に座っていた。二人が私にもたれて寝てしまった。龍馬さんの先ほどのつぶやきが思い出された。
私も疲れているのに二人の頭の重みがバランス悪く私の肩にのり痛かった。
夜9時過ぎに大学のドームに着いたときは、もう誰とも話したくない気分になった。龍馬さんが、私の様子が不機嫌だったので心配そうに見ているのに気付いた。でもその場を去り、自分の部屋へ行った。寝支度をして寝ようとした。疲れているはずなのに、中々眠れない。そんな時は、ちょうど1年前の高校3年の夏休みを思い出して涙が溢れて止まらない。そして久しぶりに泣きながら寝てしまった。




