5 7月22日(水) 4日目
朝、目覚めた。日本での自分の部屋よりも、ここは居心地がいいと言うよりも私にとって部屋の広さ、シンプルな家具、配置、全てが完璧だった。
ベッドから降り、洗面台で顔を洗い着替えをした。少数のお気に入りの服ばかり持参したので選ぶのが楽。上下の組み合わせも殆どの服がいい感じにマッチするように持ってきたためだ。白のブラウスに紺のジーンズを手にして着た。白のブラウスは丸襟に小さなレースが控えめに付いている。ジーンズは、この紺の一枚だけ。
ロビーに集合してカフェテリアで昨日と同じように朝食後、英語の授業を受けた。
今日のプリントは18歳のアメリカの女の子が自分のGOALについて書いたものだった。彼女は幼い頃から、好奇心旺盛で書くことの好きな子だった。そして今はジャーナリストになるため大学で勉強している。彼女にとってGOALは、いろんな人と話をしてその人達のことを広い範囲で人々に知らせることだと書かれていた。Wanda先生が自分にとってのGOALを話すように言った。私は考え込んでしまった。何をしたいか考えられないまま大学に入り、目的もなく猛勉強している自分が情けなくなってしまい自分の発表の番になって黙っているとWanda先生が、
「I am losing my way.」と私の代わりに言った。自分に関することを訊かれると、いつも家族のことを思い出す。そして何も言えなくなる。忘れたいことは忘れられないと誰かが言っていた。そのとおりだと思う。この頃の私の気分は陽になったり陰になったり、空中に浮かぶジェットコースターのように突然変化していた。そして自分でも、その自覚がまだあった。
ランチ後、サンフランシスコへ出掛けた。昨日、観光できなった場所へ行く。今日は町の中をブラブラという感じ。急な坂道、広くない道路の真ん中には、空から海へと続くケーブルカーが走り、その両脇にはセダンの車がずらりと整頓されて駐車している。そして三階立ての建物が脇を固めて長く続いている。私達13人は適度に間隔をとって歩いた。そしてショッピング街に辿り着いた。そこで地元の人らしき男の人に声を掛けられた。
「Hello! Are you a Japanese?」
「Yes」
「I had been in Japan for five years」と言ったようだ。よく見ると彼は日本人とアメリカ人のハーフのような顔立ちをしていた。一緒に写真を撮ってもらった。彼はもっと話したそうなそぶりを見せてくれたが、私は英語で会話を続ける自信がなく手を振って別れた。
交差点の角にある洋服店の中に入るとマリンブルーに水飛沫が一面に広がっているメンズシャツが目に付いた。手に取り眺めていると信さんが近づいてきて、こう言った。
「誰のシャツを選んでいるの?」
「お兄ちゃんへのお土産」と、とっさに答えた。
「信実ちゃんのお兄ちゃんは大きいの?」
「ううん。大きくない」
「僕くらい?」
「もっと小さいよ」と答えた。私達兄弟は二人とも背の高い父に似ず小柄。信さんは一緒にきている人達の中では一番背が高く体つきもガッチリして頑丈そう。
「店の外にディスカウントされた同じシャツがあるよ」
と歩き出したので、私は彼について店先にでた。そのシャツのサイズはアメリカンサイズで2Lだった。でも値段は半分以下で売られているしきれい。爽やかな柄と安さに負けて買ってしまった。店の人に茶色の紙で包んでもらった2Lのシャツを抱えて歩いた。この爽やかな2Lサイズのシャツは兄には大きすぎるし似合わないと思えた。先輩に似合いそうだと、ふと思った。
アメリカにきて初めて彼を思い出してしまった。きっと、まだ日本の私の部屋に借りたノートを返さずに置いてあるせい。ノートを返しに行くことができるなら、このシャツを渡せることができるなら、それより私が今、先輩のそばいるならどんなにいいだろうと思い始めてしまった。なんかさみしい。
しばらく歩いていると小さなお店に日本製のウォークマンが昨日、龍馬さんと信さんが安いと言って買った値段より、さらに安く売られていた。蜜と顔を見合わせて、
「欲しいね」と言い合った。
すると信さんが店の人に交渉して、さらに安く私達は買うことができた。値段交渉の場面を初めてみた。旅の恥はかき捨てかなと思った。信さんに、
「ありがとう。日本に帰ったら澪ちゃん家の鰻をご馳走しなきゃ」と軽く言った。彼は少し照れ喜んでいるようだった。
その後、街の中をパーキングに向けて歩き、夕方近くになり、大学に戻りカフェテリアで夕食をとった。
ドームでは今日もみんなは信さんの部屋に集まっているようだった。私は、自分の部屋で過すことにした。一日の中でかなりの時間、独りいる時間を必要とするタイプなのだ。その行動が私には普通のことであり、好きなのだと思う。自分の部屋に籠もって日記をつけ明日の服は何にしようかなどと考えていた。そして明日はヨセミテ国立公園へ行く。早朝出発なので早めにベッドに入った。




