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夢への前進

 人混みを抜けて路地裏へ。再びヴォイドの姿になった僕は、ロアルの店へと戻って来ていた。

 内心ルンルン気分で店の扉を開けて中へと入ると、不意に複数の視線を感じた。


 店の中には若い男女のグループ。もしかしなくてもお客さんらしい。ま、とっくに営業時間は迎えてるから居て当たり前か。

 ロアルの魔導具店は知る人ぞ知る名店だもんね。


 だからこそ訪れる客は大体顔馴染みの人が多い訳だけど、この人達は見ない顔だ。うーん、格好からして冒険者か傭兵?


 「おいざけんなジジィ! 何でこれがそんなバカみてぇな値段すんだよ! おかしいだろ!」


 「そう言われましても。照明代わりとなる魔導具でも、他と比べれば違いは歴然。まず照らせる範囲がまったく違っており」


 「んなのどうでもいいんだよ! ただ洞窟を照らすだけの魔導具が10万メアなんざ、ぼったくりもいいとこだろうが!」


 「ですから何度も言っているように、他の照明用魔導具とは性能がですね」


 んー? 何やら揉めている様子。見るからにガラの悪い男が1人、魔導具を片手にロアルを問い詰めている。

 単なるクレーム、のようにも見えるけど、他のメンバー達が邪魔が入らないように壁を作り、周りを警戒している時点でだいぶ怪しい。というかあからさまに僕を警戒してるから確信犯だなこれ。


 まったく今日はどうなってるんだ。一番楽しい日の筈が、行く先々でトラブルが待ち受けてるの何なの。


 ……とは言え、このまま見過ごすのは論外だ。ロアルに万が一のことでもあれば、その被害は僕にも降りかかるからね。貴重な資金源を潰される訳にはいかないのだよ。


 (って訳で)


 魔力を足に集中。トンッと軽く床を蹴り、僕は男女の壁に出来た隙間を一瞬ですり抜けて、店のカウンターへ腕を組みながら腰を預けた。

 誰も見えなかっただろう。ロアルに食ってかかっていた男でさえ、直ぐ隣に陣取った僕に気付いてすらいないのだから。フッ、決まった。


 「トラブルか? 店主殿」


 「だからっ……あ? うおお!? な、何だお前! どっから現れた!?」


 「おお、助かりましたヴォイド様」


 良いリアクションだ。君は冒険者や傭兵よりもそういった芸の方が向いてると思うよ。知らんけど。

 それと僕の名を聞いた瞬間、後ろで待機してた男女の顔が真っ青になったけど……ははーん? (コイツ)はともかく、こっちは僕の事を知ってるのか。


 にしても、ロアルはロアルで言葉とは裏腹に焦った様子は微塵も感じられない。流石はアレット一番の魔導具専門店店主。肝の太さは僕に迫る勢いだ。


 「店主殿には普段から世話になっている。良ければ力を貸すが?」


 「お願いします。私の方からどう言っても聞き入れてくださらないので」


 「いいだろう」


 「おい! 俺達を無視してんじゃねーよ!」


 「物事には順序というものがある。……それで、君が騒いでいた理由はその手に持っている魔導具か?」


 さっきの話から察するに、暗闇を照らす為の魔導具だよね。見た目は普通のランプにしか見えないけど、これが10万メアか。うーん高い。正直男の気持ちも分かるよ。

 魔力で暗闇を照らす事ができる僕にとっては無用の長物だから余計にそう感じてしまう。


 「ああ、そうさ! ただの照明にしかならねぇ魔導具が10万だぞ!? これがぼったくり以外の何だってんだ!」


 わーお正論。うん、僕もその意見には賛同だ。でもロアルを助けなきゃいけない手前、この人達に加勢したらそれこそ意味がないからなー。


 こうなったら力ずくで……いや、それをしたら後々因縁つけられてもっと面倒くさいことになるか。


 (仕方ない、いつもの手でいこう。頼んだよロアル)


 心の中でロアルに実質丸投げして、とりあえずは探りから入れようかな。


 「一つ聞こう。その魔導具についての説明を最後まで聞いたのか?」


 「はんっ、聞くまでもねぇだろ! どっからどう見ても単なる照明用魔導具! 用途なんざガキでも分かるくらいだ!

 多少性能が良くても結局は照明! 10万なんて馬鹿げた額だろうが!」


 よし、第一段階クリア。しかも一番やりやすいルートだ。ありがたいねまったく。


 男の言葉を聞き届けて、僕はその場で俯いた。右手は額に添え、軽〜く(かぶり)を振ってみせる。オマケに大きなため息付きだ。


 「はぁ〜……やれやれ。店主殿に意見する前に、まずは自分の鑑定眼を鍛えるべきだな。

 店主殿は私が全幅の信頼を置く魔導具の専門家だ。そんな男が、この値段でただの照明魔導具を売りつけるとでも思うのか?」


 「んだとコラッ! つかテメェ誰だよ!」


 「ヴォイドだ。アレットではそこそこ名を知られているのだが……どうやらその様子では知らないらしいな」


 「はっ、知らねぇな!」


 「そうか。まぁそれもいいだろう。

 さて店主殿、口を挟まないよう私が見張っておくから、この男に今一度説明してやってくれないか?」


 「えぇ、分かりました」


 よし、完璧。それなりに付き合いは長いから、ロアルはぼったくるような男じゃないと理解してる。

 そんな彼が照明しか能のない魔導具を高額で売りつけるとは考え難い。十中八九他の機能もある筈だ。


 とは言っても僕もその機能が何なのかサッパリ分からない。適当に言ったところで当たる確率は低いしあまりにリスキーだ。下手をすればロアルからの信用を失ってしまう。

 てわけで、ああしてこうしてと自然な流れでロアルに説明を求めた訳だけど、我ながら完璧過ぎる誘導だね。ふふふ。


 「確かにこれは照明用魔導具です。しかし、その他に非常に有用な機能も備わっており――」


 「うるせぇ! あれこれ言って結局俺等から金を巻き上げる気だろうが! しっかりと値下げしてもらわねぇとなジジィ!」


 露骨に説明を中断させに来た。やっぱり確信犯だなこれ。

 傍観はありえない。見張るって言っちゃったし、この蛮行を許して味を占められても困るからね。


 瞬時に魔力を練り上げて1本のナイフを創り出す。それを男の首筋に向けて振るい、皮一枚のところで止めてみせた。


 「まだ説明の途中だ、静粛に願おう。それとも、全てを話されてはマズイ理由でもあるのかな?」


 「う、ぐ……!」


 「よろしい」


 「ヴォイド様。店を血で汚されてはたまったものではありませんので、出来れば穏便に」


 「承知した。では次に邪魔をしたなら股間を蹴り上げるとしよう」


 凄みを効かせて言い放ってあげれば、男達が一斉に股を隠した。賢い判断だ。でも魔力マシマシな僕の蹴りは防御の上からでも蹴り潰すから意味ないよー。


 「こほん、では続きを。えー、こちらの魔導具は照明の他に、希少な鉱石や宝石等を探知し照らし出す機能も備わっています。

 銅から銀、金はもちろんミスリルまで。たとえ壁の中に埋まっていようとも、ある程度の深さにある鉱石であれば探知が可能なのです。

 他魔導具に比べると消費魔力は多いものの、それを補って余りある性能かと。これ一つで一財産築けるのですから、むしろ10万メアは破格と言っていいでしょう。

 世界中の鉱山で使われている探知用魔導具の完全上位互換型。これ以上の値下げは赤字もいいところです」


 ロアルの説明を静かに聞き届けようとしていたけど、内容を聞いてそれどころじゃなくなってしまった。


 え、ホントに破格じゃん。100万取ったって文句は言われないよ? むしろ他の魔導具店にこれがあったら、値段なんてつけられないレベルだと思う。

 鉱石やら宝石ってのは、基本的に汗水流してヒーヒー言いながら掘り出すものだ。しかも掘った先にあるとは限らず、成果無しなんてこともザラにあるとか。僕的やりたくない仕事トップ10にも入ってる程だよ。


 そんな博打要素も含んだ重労働が、これ一つでひっくり返る。買わないなら僕が買うけど?


 「さて、これを聞いてもまだぼったくりと仰りますか? 

 見たところ貴方達は低ランクの冒険者。装備も禄に整えられていないのを見るに、あまり成功しているとは言い難い。

 そしてこれは私の推測に過ぎませんが、貴方達はこれが何なのか理解した上で難癖を付けてきたのでは? 今の自分達では到底出せない額だからとあくまでも照明用魔導具として扱い、満足に説明も聞かないままにクレームを入れる。そうして圧を掛ければ私が折れるとでも思ったのでしょうね……この老いぼれも甘く見られたものだ」


 おお、流石はロアル。僕とまったく同じ答えに辿り着いたみたいだ。まぁ伊達に魔導具専門店やってないだろうし、最初から気付いてたんだろうね。

 僕が居なくても案外すんなり解決してたかもだ。


 「っ……クソがっ。テメェ! 夜道には気を付けることだな!」


 ロアルのド正論に敵わないと判断するや否や今度の矛先は僕へと向いた。

 さて、どう泣かしてあげようか。そんなことを思っていた矢先、ずっとあわあわしながら待機していた仲間が男を押さえ込んでしまった。


 「てぇな! 何すんだテメェ等!」


 「バカッ、流石に相手が悪い……!」


 「というか何でアンタはヴォイドを知らないのよ!? アレットで喧嘩売っちゃいけない相手ダントツ1位でしょうが!」


 「ああ!? なに情けねぇこと言ってんだゴラァッ!」


 「むしろ情けないことしてたのは俺達の方だから! ……え、えーっと、その、申し訳ありませんでしたヴォイド様!」


 「コイツには私達から……い、いえ! 今後は私達もこんな事はしませんので、どうかお慈悲を!」


 「……次は無いと思え。もしまたこの店で問題を起こせば、後は分かるな?」


 「「し、失礼しましたーーっ!!!」」


 「あっ、おい! まだ話は終わってねぇって! 離せテメェ等ぁぁぁぁぁぁっ!!」


 僕が何かをするまでもなく、男は引き摺られて行ってしまった。ま、面倒事が勝手に去ってくれた訳だから良しとしよう。


 「はぁ……冒険者もガラが悪くなったというか質が落ちたというか。払う物を払えばキッチリ仕事をしてくれる傭兵達の方が何倍もマシですね」


 「ふむ。私はアレットの冒険者ギルドとは懇意にさせてもらっているが、そこまで悪い噂は聞かないな」


 「ええ。それなりにアレットで場数を踏んでいる冒険者はマトモな人が多いでしょう。彼等が言っていたように、この街にはヴォイド様がいらっしゃいますからね。

 ヴォイド様の存在自体が抑止力になっている証です。まぁ、一部例外も居ますが」


 たぶんその例外ってのはウェインとその取り巻き辺りの事だろうなー。所謂、反ヴォイド派ってところだろう。


 「問題は、冒険者になりたての新人や外から来た流れ者です。ここ数年でアレットの知名度は爆発的に広まりましたからね。皆それにあやかろうとしているのでしょう。

 おそらく彼を止めていた2人はアレット出身。暴れていた彼はよそ者で、この街でパーティを組んだといったところでしょうか。

 アレットで1日も過ごせばヴォイド様を知るには十分。にも関わらず彼が知らなかったのは、相当に抜けているのか、はたまた……」


 え、そんなに有名なの僕? 流石に1日って……うーん、ダメだ否定しきれないや。ククルゥも僕はアレットのトップだなんて妙な発言をしてたもんな〜。


 ま、どっちだっていいか。今はそんなことよりも大事な用事を済ませなければだ。


 「まぁ、冒険者についてはまた追々でもいいだろう。それで店主、査定の方は終わっているのか?」


 「もちろんですとも」


 それを聞いて胸を撫で下ろした。これでさっきの奴等に邪魔されて終わってませんとかだったら、探し出して半殺しの刑にしてたところだよ。


 「いやはや、正直なところ興奮冷めやらぬ状態でして。今回は過去一番ですよヴォイド様」


 「ほう?」


 普段物静かなロアルが鼻息を荒くしている姿は非常に珍しい。つまり、それだけ僕が持って来た魔魂が素晴らしかったのだろう。

 ニヤついてしまいそうになるのをグッと堪えて、あくまでも冷静に続きを待つ。


 「まずは数にして682個。下位の魔魂ではありますが、この数と状態の良さから査定して、4500万メアほど」


 「……ふっ、予想通りか」


 いやゴメン。全然予想通りじゃないけど思わずカッコつけちゃった。魔魂を売った中でも過去最高額は約6000万メア。下位の魔魂だけでその記録に迫る勢いで内心興奮しまくりだよ。


 残るは中位と上位の魔魂。数では下位に劣るものの、こっちは質が物を言う。まず間違いなく、この時点で6000万メアは越える……! ふひひ。


 せっかく我慢してたニヤつきが出そうになり、思いっきり脇腹を抓って我慢した。


 「次に中位の魔魂。数は263。こちらも同じく最高の状態の物ばかり。査定額は3500万メアですね」


 越えた! 過去の最高額をアッサリと!

 ダメだ、ニヤついてしまう。慌てて口元を隠したけど見られてないよね?


 「上位の魔魂の数は73。2つほど傷のある物はありましたが、それ以外は相変わらず最高の状態。6000万メアを付けさせていただきました」


 よしっ、よしよしよしっ! 億を軽く越えた! 最低でも億は越えると予想してたとはいえ、ここまで大きく更新してくれるなんて! ふ、ふふふふふふっ! マズい笑いが止まらない……!


 夢の実現まで10歩どころか100歩は進んだ気分だね。


 早速受け取ろうと懐から1枚のカードを取り出す。例に漏れずこれもまた魔導具の一つだ。

 ほぼ全世界に普及していると言っていいこれは、簡単に言えば通貨を貯めておける超便利アイテムである。


 今回のようにまとまり過ぎた金を実物で持ち歩くのは面倒くさ過ぎるから、かなり早い段階でこれは開発された。

 使用者本人の魔力を登録してるから、他人が不正利用しようとしてもバッチリ防ぐ。仮に盗まれても何の痛手にもならない。


 店で使用して金額が増減する度に専用の銀行に諸々の情報が自動で送られるため、万が一紛失しても貯めた金が無くなることはないし再発行も容易。素晴しい発明だと思うね。


 「ふふ、焦らないでくださいヴォイド様。まだ鑑定品は残っていますから」


 ここでロアルから思わぬ一言が。何とまだ魔魂が残っているという。しかも分かりやすく自信に満ちたロアルの顔……これは期待してもいいよね?


 「最高品質の物が下位魔魂で12、中位魔魂で6、上位魔魂で25。合計して1億8000万メアとなります。さらに!」


 (最高品質の物だけで1億越えだって!? ま、待て待て、前回とあまりに違う展開だっ。しかもまだ続きそう!)


 「今回の査定品の中で最も大きく、最も状態が良く、最も希少なこちらの魔浄魂! これ1つで8億メアとなります!」


 「っっ!!!? ゲホッ! ゴホッ!」


 予想の遥か上どころか、予想すらし得ない査定額が飛び出してきて思わずむせてしまった。


 ロアルが目を輝かせながら掲げている魔魂……いや、魔浄魂とやらは他の物に比べても大きく、かつ素人目でもハッキリ分かる透明感。


 とんだサプライズである。魔魂を回収する際、禄に確認しなかったシワ寄せがここに来るとは予想外過ぎるよ。


 「全て合計して、今回は11億2000万メアとなります。いやはや、これほど興奮してしまう査定は人生初ですよ。

 貴重な経験をさせていただきありがとうございますヴォイド様」


 いやいや、お礼を言いたいのはこっちなんだけどさ。予想外過ぎる収入にカードを持つ手がプルプルだよ。

 あれだけヴォイドの姿で平静を保ち続けてきたこの僕が、明確に動揺してしまっている。恐るべしロアル。


 「こ、今回は少々張り切り過ぎてしまったからな」


 「今からこれを魔導具へと進化させるのが楽しみで仕方ありませんよ。しばらくは不眠不休での作業……いやぁ楽しみだ」


 まさかこの数を全て不眠不休で加工する気だろうか。エルフってすごーい。伊達に長命種じゃないってことか〜。


 ロアルの変態――ごほんっ、職人魂に上書きされたせいか、カードを持つ手の震えも落ち着いてきた。さて、今度こそ。


 「では店主、よろしく頼む」


 「えぇ、もちろんですとも。ではこちらに」


 そう言って、ロアルがカウンター横に置かれたとある魔導具の前へ移動する。さぁ緊張の瞬間だ。


 「ヴォイド様、お手とカードを」


 「ああ」


 言われてカードを魔導具の挿入口へ差し込み、その上に設置された球場の部分へ片手を乗せる。

 手に込めるのは僕の魔力だ。さっきも言ったように、カードに登録された魔力でなければお金を引き出すことも貯めることもできないから、こうした本人確認は必須なんだよね。


 「そのままで。……はい、送金は滞りなく完了しました。もうよろしいですよ」


 よしと言われたからにはジッとはしていられない。直ぐにカードを引き抜いて魔力を込める。すると、カードの表面にジワリと浮かび上がったのは数字の羅列。


 言わずもがな僕の貯金額である。


 ズバリ現在の貯金額……65億7400万メア。


 (うおぉぉぉぉぉぉ!!! なんて神々しい数字だろうか! たった数年! それだけでこの金額! うっひょひょーい!)


 素晴らしい……ああなんて素晴らしい日なのだろう。生きててよかった。僕を魔力溢れる神童に産んでくれた両親に感謝。ほとんど働かずして遊んで暮らせる財産を築けた人生に乾杯。


 まだまだ目標には程遠い。でも確実に近付いている。その事実が何よりも嬉しいよ。


 「くふ……ふひひ……あ、んんっ。いや、いつもながら驚かされるな店主よ」


 「何がです?」


 「店主にとってもこの金額は安いものではないだろう? にも関わらず、ポンと払えてしまうのはハッキリ言って異常だ。

 さて、どこからこれほどの額が出てくるのやら」


 ニヤケ顔を誤魔化す為にそれらしいことを言ってみた。すると、何やらロアルが黒い笑みを浮かべながら人差し指を口の前へ。


 「ヴォイド様に秘密があるように、私にも秘密はあるのです。こればかりはお話できませんなぁ」


 「……ふっ、お互い様か。ならば詮索はしないでおこう。店主には今後も世話になるだろうからな」


 「ええ、そうしてもらえるとありがたいですね。ただ一つ言えるとすれば、ヴォイド様が懸念するような黒いものではありませんよ。

 至極真っ当な商売をして稼いだ資金です。ご安心を」


 別にロアルが裏で真っ黒いことしてようがしてまいが、ぼくに大金が転がり込んでくるなら何してたっていいんだけどね。


 ま、ここは意味深に笑って去るのが一番。

 外套を翻して颯爽と出入り口へ向かおうとしたところで、背後からロアルの引き止める声が聞こえてきた。


 「ああお待ちをヴォイド様」


 「ん?」


 「一つお尋ねしたいのですが、ヴォイド様はアレットの何処に拠点を構えておられるのですかな?」


 拠点? つまり家ってことか。ん〜、あんまり言いたくないんだよね。何せあそこは僕だけの不可侵領域であり聖域。たとえボロ屋でも絶対的なプライベート空間なのだ。

 下手に情報を洩らしてヴォイド崇拝者や反ヴォイド派の皆様に知られでもしたら、考えるだけでも鬱になりそう。


 ロアルには申し訳ないけど、こればかりは教えられないな〜。


 「大事な物が多くある場所でな。情報は洩らしたくない」


 「ああいえ、言いたくないのならそれで構いません。ただ一つヴォイド様にご紹介したい物件がありまして、もし新しく拠点を構えるのにどうかと思い引き止めたのです」


 「物件? ……ふむ、本拠点を移す気はさらさら無いが、表の拠点として新しい物件を買うのもありか」


 この先、あのボロ屋がバレないって保証も無いからな〜。ロアルの提案も一考の余地はある。でもねぇ、物件、つまり家でしょ? 絶対高いじゃない。


 「参考までに聞こう。値段は?」


 「ヴォイド様価格でオマケにオマケして、2億メアといったところですかな」


 ん、んんん〜〜……! 高いよロアルぅ。ホントにそれオマケしてる? 僕のこと騙そうとしてるんじゃないよね?

 ロアルに限ってそれは無いと思いたい。ん〜、でもなぁ……2億は痛いなぁ。


 「……」


 「ヴォイド様」


 考え込む僕に酷く穏やかな口調でロアルが話しかけてきた。チラリとそちらを見れば、それはもう凄くホワっとした笑みを浮かべるロアルの姿が。


 「貯め込むのはとても重要なこと。が、使うこともまた重要なのです。勿体無い勿体無いと渋っていては、いずれ金も埃を被りましょう。

 それに、ヴォイド様ほどのお方ならば2億程度すぐに貯め直せるでしょう。なにせ貴方は、この店一番の上客なのですから」


 「よし、買おう」


 「毎度ありがとうございます」


 ロアルって、人をその気にさせるのが上手いと思うんだ。僕って意外とチョロいのかも。

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