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もう一人の僕

 道中も魔力を使ってスイスイと移動していくと、森を抜けた先にある都市、アレットに到着。

 大仰にグルリと壁に囲まれてるアレットの入口の門には、今日も今日とて大勢の商人やらが行列を成していた。


 数年ほど前からアレットが魔導具都市として認知され始めて以来、毎日この有り様だ。誰も彼もがアレット産の魔導具を求めてここに来る。


 まぁ無理もないね。他と比べれば魔導具の生産量、質、値段。どれを取っても他の都市じゃ敵わないのだから。

 もちろん、アレットがここまで潤ったのも誰あろう僕のおかげ。毎回大量の魔魂を仕入れてくる僕が居るからこその現状だ。


 生産量が多いのは言わずもがな。魔魂自体が無傷だから当然質も良く、大量に仕入れてくるのが僕のみだから人件費もかからない、それ故の低価格。


 素晴らしい。これ以上の社会貢献があるだろうか。いや無いね。

 獣の被害も減る、魔魂で魔導具の流通が潤い、人々の生活の助けにもなる。あれ? 僕ってひょっとして英雄なのでは? いやいや、そんな柄じゃない。

 あくまでも名を上げないまま自堕落な生活を送るのが僕の夢なのだから。


 そう、僕は(・・)名を上げない。


 「さってと。変、身!」


 人目につかない木陰でそんなバカみたいなことを宣いながら魔力を練り上げる。それを全身に纏わせて性質を変えれば──。


 「ヴォイド参上!」


 変質させた魔力は服となり、髪となり、仮面となり、あっという間に別人へと変身完了だ。魔力操作に秀でた僕だからこそ出来る芸当。これにどれだけ助けられたことやら。


 万が一にもミスはないだろうけど、一応グルリと自分の姿を再確認してみる。


 少しだけ高級感漂う茶色の外套。特に特徴も無い白い長ズボンに黒いブーツ。伸ばされた黒髪。そして顔を覆う仮面に手を触れて問題ないことを確信した。


 普段の僕は白い髪だし長髪でもない。仮面で顔を隠しているのは素顔を知られないため……ではなく、仮面を剥がされた場面を想定して、隠された顔こそが素顔であると相手に信じ込ませるための二重フェイク。

 仮面の姿も下の顔も、どちらも僕ではないのだ。これで身元がバレる恐れもない。


 たとえ何かしらの罪に問われても、ヴォイドに罪をなすりつけて本来の僕は何食わぬ顔で過ごす事ができる。


 ヴォイドとして稼げるだけ稼ぎ、ヤバくなったらとんずらし、あとは本当の姿で悠々自適なダラダラ生活を送る。それが僕が導き出した最適解。


 ふふ、ふははは……完璧だ。


 「〜♪ 〜〜♪ おっといかんいかん」


 順調に進み過ぎてることに緩んでいた表情を引き締める。今の僕はヴォイドだ。ボロが出ないように演じねば。


 木陰から移動を開始して、そのまま真っ直ぐに行列の最後尾へ。少しだけ身を乗り出して前を見てみれば、ちょうどアレットの衛兵が身元確認の為に1人1人チェックをし始めていた。


 ふふ、これはいつもの流れだな。とりあえず待ってよう。


 「ザルマネラ? 随分と遠くから来たんだな。目的は?」


 「へ、へぇ、そりゃもちろんアレットの魔導具を仕入れる為でして」


 「アレットへの滞在歴は?」


 「こ、今回が初でさぁ。何分遠いもんで、そう気軽に来れるもんでもありやせんし」


 「普段扱ってる商品は?」


 「主にザルマネラ産の果物を扱ってまさぁ。ここでは手に入らない貴重な物も多いですぜ?」


 「……まぁ、いいだろう。問題は起こすなよ?」


 「お、恩に着やすっ」


 「次の者。入国許可証を見せろ」


 魔導具を安価で仕入れられる。当然、そうなれば良からぬ考えを持つ者達も現れるのが必然。そういった奴を振るいにかけるために、こうして何重にも確認作業を行う。


 ここに居る人達全員、この国に入国してからアレットに到着するまでに気が滅入るほどの検査をしてきたはずだ。うんうん、かわいそうに。


 そうやって他人事みたいに考えながら、今か今かと自分の番を待ってしばらく。ようやく僕の元へ衛兵が来た。


 「次。入国許可証」


 「私はこの国の者だ。アレット生まれのアレット育ちで──」


 「証明書はあるのか?」


 「いや、普段は持ち歩いていない」


 「ならば入れる訳にはいかん。……まぁ一応名前は聞いておこう」


 「ヴォイドだ」


 「ヴォイド、か。悪いが、たとえアレット育ちが本当だとしても、証明書の無い者をおいそれと入れられんのだ」


 あれ? 何やら雲行きが怪しい。いつもならヴォイドの名前を聞いた瞬間、みんな面白い反応をしてくれるのにな。


 んー、困った。まさか証明書を持ち歩いていないツケがここで回ってくるとは。どうせいつものように通してくれる流れになるからって、家の棚にしまいっぱなしなんだよねぇ。

 でもアレットに帰らない選択肢はありえないし……うん、仕方ない。隙を見て壁を越えよう。


 「とにかく、正式な手続きをしたいなら夜になってから──」


 「こんっっっのバカタレがぁぁぁぁ!!!」


 「ぎゃあ!?」


 人知れず侵入作戦を考えていたら、突然の怒鳴り声。そして、目の前の衛兵が盛大に吹っ飛んだ。痛そう。


 そんな衛兵の代わりと言わんばかりに僕の前に立ったのは、僕にとっては見慣れた衛兵の1人だった。相変わらずの立派なお髭である。ちなみに名前は知らない。


 「申し訳ありませんヴォイド様! 何分あのバカは新人でして、まだヴォイド様のことをよく理解しておらぬのです!

 どうか! 私の顔に免じて許してはもらえないでしょうか!」


 「いや、構わない。いつものことだからな」


 「ありがとうございます!

 ……と言うか、毎度の事ながら列に並ばずとも、ヴォイド様なら直接門にお越しくださればお通ししますので」


 うん、顔パスできるのは知ってるよ。それだけアレットじゃヴォイドの名は凄まじいものだからね。

 でも、それだと周りに悪い印象を抱かせかねないじゃない? 出来るだけ目に見える敵は作りたくない主義なんだよね僕。問題が多いと稼ぎづらくなるしさ。


 「私も商人と似たようなものだからな、特別扱いはどうも好かないのだ」


 「ヴォイド様がそれで良くとも、私達はヴォイド様を一般扱いには出来ぬのです。分かってください」


 「……そこまで言われるのなら、お言葉に甘えさせてもらおう」


 アレット側から招いてくれる形ならば角は立たない。ほら、周りの商人達の目にも、俺を疎ましく思っている感じは見受けられない。せいぜい「アイツすげー人なのか」くらいにしか思われてないだろう。

 ふふ、謙虚な姿勢こそが良い印象を抱かせるコツなのだ。


 「それと、彼。あまり乱暴にはしないでやってくれ。知らなかっただけなのだからな」


 もちろん、吹っ飛ばされた衛兵へのフォローも忘れない。


 「相変わらず何と器の大きい方なのだっ……!

 しかし心配無用! 新人とは言え柔な鍛え方はしておりませぬ故!」


 「そうか。なら安心だな」


 「では改めてヴォイド様、こちらへ。アレットまで護衛させて頂きます」


 「ああ、頼む」


 ふふふ、イレギュラーはあったけど結果的に良い感じになったね。


 「ところでヴォイド様、アレットに来られたということはつまり……?」


 「貴方の想像通りだ。それも、今回はいつもより大量に仕入れてきた」


 「おおっ! これでまたアレットが栄えますなぁ! はっはっはっはっ!」


 そんな感じで衛兵と会話を楽しみながら、順調にアレットの門へと近づいて行く。


 話をしながらも僕の意識は行列へ。どこにでも居る商人が大多数を占めているけど、中には家畜を連れてる人や美術品を運んでいる人も見受けられる。


 ん? あれは何だろう? 檻っぽいものに布を被せてて中は見えないけど……あれも家畜かな?


 「あれは何を運んでいるんだ?」


 「……ああ、あれですか。ありゃ奴隷ですよ」


 「奴隷?」


 ほほう、これはまた穏やかじゃない物を運んでいるようで。噂には聞いてたけど本当に居るんだなー、奴隷商人って。

 周りに居る連中は見るからに悪ですよって顔ぶればかりだ。面倒くさそうだし関わらないでおくのが吉か。


 「アレットへの通行許可は出したのか?」


 「私としては許可などもってのほか、なのですがね。悲しいことに世間じゃ奴隷商売も認められているので何も言えぬのです」


 「なるほど」


 これが持つ者と持たざる者の差か。僕も魔力に恵まれていなければ、或いは同じ奴隷になっていたかもしれない。

 奴隷になる人の多くは金に困った身内に売り飛ばされるのが大半だと聞くし、僕の両親も同じ選択をした可能性は十分にあるだろう。


 「うわっ!? おいお前! しっかり固定しとけって言っただろ!」


 「す、すんません!」


 あり得たかもしれない未来に思いを馳せていると、不意に突風が吹き抜けた。

 どうやら固定が甘かったらしく、檻を覆い隠していた布が風によってめくれ上がったらしい。


 (……ふぅん? 魔人か)


 中身が顕になり、檻の中に閉じ込められている魔人を数人ほど確認できた。女性と男性、歳は……全員10代〜20代ってところかな。


 魔人とは、読んで字の如く魔の人。もっと噛み砕いて説明するなら、魔素の濃い地域で生まれ育った人が、生まれ持った魔力やら何やらが魔素の影響を受けて突然変異してしまった人達の総称だ。

 赤い痣と、一本の角が生えているのが特徴的だね。


 「……」


 ふと、檻の中で膝を抱えて縮こまっていた少女と目が合った。

 しっかりと手入れしていれば美しかっただろう銀髪に整った容姿。魔人にさえなっていなければ、世界でも指折りの美少女になっていたかもしれない。

 いや今の姿も相当だけどね。でも世間は魔人ってだけで毛嫌いしてしまうから容姿なんて二の次だ。


 見た目はあの可愛さだし、たぶん行き着く先は金持ちの慰み者か、良くて娼婦かな。かわいそうに。


 まぁ同情はしても助けはしないけど。変に助け出して奴隷商人共に目を付けられたら、ヴォイドとしての活動がしづらくなる。


 ……それにしても。


 (何もかもを諦めた目。反抗しようとする気概すら見えないし……なるほど、徹底的に絶望させられてる訳か)


 僕を見る目に光は無く、助けを求めるでもなくただボーッと眺めるだけ。おとなしいもんだ。


 商品が反抗的だと商売にもならないだろうし、その辺りはキッチリ教育済みみたい。


 「奴隷商売は盛んに行われているのか?」


 「ここらじゃあまり見ないですな。しかし、世界各国いたる所で横行しておるのが現状です」


 「奴等がここに来たのも……まぁ、魔導具との物々交換、或いは単純に資金調達の為と言った所か。

 どちらにせよアレットで妙な真似をされては魔導具の評判に傷が付く可能性もある。それとなく監視しておいてもらえるか?」


 「承知しました」


 面倒事に巻き込まれて魔導具の評判が下がるようなことがあれば、魔魂の買取額にも影響が出かねないからね。それこそ死活問題だ。

 アレットがダメになったなら他の都市。それも以前から考えてるけど、いちいち住処を移動するのも億劫だもんなぁ。


 未然に防げるならそれに越したことはないってね。


 「ん……? こっ、これはヴォイド様! お帰りなさいませ!」


 気付けば既に門の間近。門番をしていた顔見知りの衛兵が僕を見つけるやいなや、即座に姿勢を正して敬礼した。


 うんうん、これこそ見慣れた光景。


 「どうも。通っても?」


 「もちろんですっ、はい!」


 「ヴォイド様、アレット内でも警護をお付けしますかな?」


 「いや、必要ない。歩き慣れているし、何より自分の身は自分で守れる。貴方達は本来の職務を全うしてくれ」


 「はっ!」


 「ではヴォイド様、お気を付けて」


 お楽しみタイムは僕だけの物だ。誰かと一緒なんてごめんだね。という本音は心の奥底にしまって、衛兵達と別れた。



 アレットの街並みをザッと見渡してみて、改めて実感する発展具合。そこかしこに魔導具を利用して作られた建築物やら何やらがある光景は、世界広しと言えどここだけだろうね。

 たった数年でここまで急成長するのだから、やっぱり魔導具……いや、魔魂のポテンシャルは凄まじい。


 綺麗に舗装された道や、夜道を照らす街灯。手入れの行き届いた花壇と豪華な噴水。


 王都でもないのにこの造り込みなのだから、どれだけアレットが潤っているのかは一目瞭然である。


 「あっ、こんにちはヴォイド様!」


 「こんにちは」


 「キャー! ヴォイド様格好いいー!」


 「光栄だお嬢さん」


 「ヴォイド様! うちの品見てってくださいよ!」


 「急用でな。後で寄らせてもらおう」


 「ヴォイドさま〜! あそんで〜!」


 「すまない、また今度だ」


 うーん、ちょっとアレットを歩くだけでこの有様。道行く人ほぼ全員と言っていいくらい僕に話しかけたり関心を向けてきてる。


 これまで積み重ねてきた信頼の成せる技。ふふふ、もっと感謝してくれてもいいのだよ? 皆が美味しい物を食べれたり懐が潤ってたりしてるのも僕のおかげと言っても過言じゃないのだからね。


 ……ま、ちょっと目立ち過ぎ感は否めないけど。どちらかと言えば僕は静かな方が好きだし。



 「おやヴォイド様、ごきげんよう」


 「ああ。変わりないようだな、店主殿」


 皆に揉みくちゃにされそうになるのを無駄に神がかった動きでスルリスルリと回避しながら進むことしばらく。大通りから少し外れた道の途中、とある店の前で掃き掃除を行っていた初老の男性と挨拶を交わした。


 この人の名前はロアル。本人曰く歳は優に2000を越えているエルフである。おば様方からの人気が凄いと専らの評判だ。


 「ヴォイド様が来られたということは、前回からもう半年ですか。いやはや私の感覚ではつい先週のように感じてしまいます」


 「エルフの感覚は理解できないな」


 「ははは、そうでしょうとも。まだ開店前ですがどうぞ中へ」


 「もちろんだとも」


 その為にここに来たんだからね。そりゃあ入らせてもらうさ。


 ロアルに案内される形で店の中へ入ると、半年前と変わらない古ぼけた香りが鼻孔をくすぐる。

 店内中に配置された棚には所狭しと用途不明の物がズラリと並び、中には剣や鎧、本といった見慣れた物まで何でもござれ。


 パッと見ではただの骨董屋にしか見えないけど、何を隠そうロアルの店は魔導具専門店なのだ。ここにある全ての物が何かしらの魔導具らしい。いやぁ圧巻だよね。


 「随分と品物が増えたな」


 「ヴォイド様から仕入れた魔魂は質の良い物ばかりですからね。年甲斐も無くついつい捗ってしまいました。

 売れ筋も非常に好調。どれも一級品故に値段も相当に張りますが、価値の分かるお客様はこぞって買って行かれます。いつも以上に稼がせてもらっていますよ」


 「フッ、流石の手腕だな。確かに一級品揃い……特に、これは良い」


 それっぽい事を言いながら棚に置かれていた透明な玉を手に取ってみる。もちろん用途なんて分からない。

 でも棚に置かれてるってことはロアル特製の魔導具なのは間違いないからね。これもヴォイドを演じる上での演出さ。


 「ふふ、ご冗談を。それは単なる飾りですよヴォイド様」


 やべ、違ったっぽい。紛らわしい所に置かないでほしいもんだよまったく。うーん、このままだとマズいぞ。

 「さてはコイツ分かってねぇな?」的な事を思われでもしたら、足下を見られて換金額に影響が出るかもしれない。それは僕にとって死活問題だ。絶対に回避しなければ。


 「何を言っている店主殿。これが本当に飾りに見えるのか?」


 「……? 見えるも何も、本当に飾り──」


 「本当にそう思うのか? こんなにも上質な……えーっと、あっ、そうそう。んんっ、こんなにも上質な土台が単なる飾りだと?」


 「土台……ほほう、そういう事ですか」


 あ、何か勝手に解釈してくれたっぽい。さぁ、どういう事か説明してもらおうか。


 「確かに加工の余地はありますね。それにサイズも手頃……しかし強度は最低。であれば壊れる事を前提として考えれば……? ふむ、ふむふむ、これはこれはっ、非常にイイ!」


 テキトーに思いついた事を言ったらこれである。思えば僕の周りには僕の言葉を勝手に超解釈して都合の良い方へ持っていってくれる優秀な人ばかりだ。

 ロアルもまたそのうちの1人。僕は魔魂集めなら誰よりも優れてる自信はあるけど、そこから生み出される魔導具の細かい事情やら仕組みやらは毛ほども知らないからね。いやー助かる。


 「どうやら答えに行き着いたらしいな」


 「まったく貴方には(かな)いませんね。直ぐ目の届く所に最適な材料があったにも関わらず気付けないとは。

 魔導具専門職の身としてお恥ずかしい限り」


 「恥じることはない。貴方は十分過ぎる程の成果を出している」


 「勿体無いお言葉です。よろしければそちらの土台、ヴォイド様用に加工してお譲り致しますよ?」


 「ほう? いくらだ?」


 「ははは、お代は結構。新しい可能性を見出させてもらえたお礼と思ってください。なに、タダだからと手は抜きません。

 ヴォイド様に相応しい魔導具を造り上げてみせましょう」


 えっ、ホントに? これはラッキーだ。口から出まかせなのに魔導具まで無料なんて、僕ってツイてるなー。


 「それは楽しみだ。……さて、新しい魔導具も魅力的ではあるが、そろそろ本題に入るとしよう」


 「畏まりました。ではさっそく見せていただけますか? 今回の成果とやらを」


 キリッと職人の顔に変わったロアルに僕も口元を綻ばせ、懐から魔魂がパンパンに詰まった袋を取り出した。

 それをカウンターの上に置いてあげれば、直ぐにロアルが手を伸ばしてくる。


 冷静そうに見えても内心では興奮してるのが丸分かりだなー。


 「おぉ、これはまた高純度な魔魂。傷一つ無い上にこれだけの数……!」


 「ふっ」


 やっぱり分かる人には分かるよね。素人が見た程度じゃ魔魂それぞれの違いなんて分からないだろうし。

 かく言う僕も初めの頃はどれも同じに見えていた。何度かロアルの店に足を運んでようやくって感じ。


 もちろん最初はボロを出さないように知ったかぶりを貫いたさ。ロアルってば勝手に良い方向に解釈してくれるもんだから凄く助かったよ。


 「ザッと見ただけでも最高品質の物が20以上! いやはや今回は大収穫ですね。いつもながらこれだけの物をいったいどこで?」


 「それは企業秘密だ。人の口に戸は立てられないと言うだろう? 情報というのは何時どこで漏れるか分からないものだ」


 「なるほど、ヴォイド様らしいことです」


 「査定にはどれくらいかかりそうだ?」


 「いつもより多いですからね。大体1時間程でしょうか。よければそこら辺をぶらりとして来てはどうです?」


 うーん、1時間。いつもの倍以上はかかるのか。このまま突っ立って待ってるのも手持ち無沙汰で落ち着かないし、かと言って使い道の分からない魔導具を眺めて待つのも退屈だ。

 ロアルは査定をする時は真剣になるから、雑談も望めない。うん、答えは一つだね。


 「そうさせてもらおう。ちょうど小腹も空いてきた頃だ」


 「あ、でしたら大通りに新しく出来た二ポーン食堂をオススメしますよ。アレットでは珍しい料理を提供していて味も良い。何より安くて大衆に人気でしてね」


 「ほう? 二ポーンとは何処の言葉だろうな」


 「さて、私でもそこまでは。ただ噂によれば二ポーン食堂の先代様が遥か東の国の料理だと言っていたとか。

 人づてに聞いた情報ですから信憑性には欠けますけどね」


 東? ここから東と言えば高濃度の魔素に飲み込まれた死大陸(・・・)かな?

 でもあそこはまず生命が住めるような場所じゃないし、大陸の周りはグルリと巨大な岩山に囲まれてるから人の出入りも困難。仮に誰かが住んでたとしてもあそこの料理って考えるだけで何かやだなー。病気になりそう。


 そもそも魔素から生まれた獣しか居ないって話も聞いたことがある。つまり、獣の肉を使った料理? ……うげぇ。あいつらの肉を貪るほど僕も落ちちゃいないんだけどなー。


 「得体が知れないな。だが興味もある。まぁ物は試しに行ってみるとしよう」


 「きっと気に入ると思いますよ。ではまた1時間後にお待ちしております」


 「ああ。査定額にも期待しておくとしよう」


 「そこは保証致しましょう」


 よし、言質取った。これで低かったら大義名分の元に抗議してやる。いくらロアル相手でもこればかりは容赦しないからね。


 「ふふ。……さて」


 最後に微笑みを浮かべてロアルは仕事モードへと移行してしまった。こうなってしまったら最後、終わるまでは意地でも反応を示さない。

 じゃ、僕も時間潰しの為にその二ポーン食堂とやらに行ってみようかな。お腹が空いてるのは事実だし。



 店から出て、目的地へ向かおうと足を踏み出して直ぐに留まった。


 (うーん……このまま大通りに出たらまた民衆に群がられるよね。ゆっくり食事したいし……仕方ない)


 ヴォイドの姿のままでは気軽に散歩も出来やしない。ということで、辺り一帯に魔力を張り巡らせて誰もこちらを見ていないことを確認し、僕は直ぐに元の姿へと戻った。


 うん、一安心。これで今の僕はヴォイド様ではなくアレットの一市民、ナナカ・ロート君だ。


 「ん〜、やっぱり自分の姿が一番落ち着く〜」


 稼ぐ為とはいえヴォイドに成り切るのはなかなかに疲れるのだ。まず喋り方がねぇ……もうちょっと砕けたキャラ付けにすればよかったかも。


 ま、今のキャラが根付いちゃった以上は貫くしかないけどさ。


 「さっ、ご飯ご飯〜♪」


 切り替えは大事。ってことで、僕は足早に大通りの方へと歩みを進めた。

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