これが僕の最適解
この世に産まれ落ちた人は皆、例外はあれど誰もが働いている。職の種類は千差万別。選択肢なんて無限にあるだろう。
もちろん、良い職に就きたければ相応の努力は必要だし、時には才能だって重要視される。何の努力も無しに稼ぐ事は出来ないとは言わないけれど、それでも持つ者と持たざる者、それぞれの収入は目に見えて違うものだ。
僕の場合、両親共に貧しい家庭環境だったから、幼少の頃は裕福とは縁遠い生活を送っていた。当然そんな貧しい両親にコネなんてものがある筈もなく、稼ぎたければ自分で何かしらの職を探さなければならなかった。
基本的には誰だってそうしてる。当然だ。
でも僕は、正直やりたい事とか、なってみたいものとか、就いてみたい職なんてものもなく、ただ漠然と「不自由なく暮らせれば何でもいいや〜」と楽観的な考えで日々を過ごしてる。
努力? 嫌だね面倒くさい。でも安定した収入を確保できなければ、そもそもそんな生活は望めないのも事実。だからって努力するのは僕の主義に反する。
僕はこの世で一番ってくらい努力が嫌いだけど、幸いにも才能には恵まれていた。特別頭が良いとか、商才に恵まれてるとか、他者を惹き付ける魅力があるとか、そういうものは一切無いけれど、魔力だけには恵まれていたのだ。
生まれ持った膨大な魔力と、ほぼ感覚で扱える魔力の操作。どちらも僕が努力して得たものではなく、正しく元々備わっていた力。最高だね。
これはもう、神様がこれを使ってだらけなさいと言っているようなものだ。そうに違いない。
だから僕は考えたわけだ。この力を利用して、楽しながら手っ取り早く大金を稼ぐにはどうしたらいいのか?
魔力を前提とした職業は限られるし、それに「頑張って魔力で儲けるぞ!」ってのも論外。如何にしてダラダラしながら稼ぐかが重要なポイントだ。
そういう意味じゃ普通の職には就けない。僕が良くても周りが「真面目にやれー」だの、「やる気があるのかー」だのキャンキャンうるさいからね。
となれば戦闘を主とする職業。例えば冒険者や傭兵辺りなら1人でもこなせる職だが……これも論外だ。どれもこれもダラダラと稼ぐには縁遠い職だろう。
依頼主の指示であれをしろこれをしろってのが嫌い。僕は僕の意思でダラダラ稼ぎたいのだから黙ってろってね。
仮にそれで稼げたとしても名が売れてしまっては意味が無い。その後の生活を立場やら何やらで邪魔されるなんて真っ平ごめんである。
そうして色々悩みながら行き着いた僕の答え。それは──。
「ふあぁ……あ〜あ」
薄暗い洞窟の中、大きな岩に背を預けたまま僕は大きな欠伸をした。気を抜いてしまえば直ぐに眠りに落ちそうなほど、瞼は重い。
持参したランプ。その光を頼りに読書をし始めて1時間弱といったところか。僕の周りは静寂とは程遠く、1時間前と変わらず騒がしい。
「グガァァァァァッ!!!」
「オ゛ォォオオォォォォッ!!!」
本をしまって軽く伸びをしながら前を向けば、鋭い牙を剥き出しに僕へと襲い掛かってくる人ならざる者達が視界に飛び込んできた。
同時に、そいつ等の足元に無数に散らばっているキラキラとした赤い宝石も。
「おー、だいぶ貯まってる。今回は当たりだなー」
誰に話しかけるでもなく呟いた言葉は、響き渡る咆哮やら断末魔にかき消されてしまった。
「ギャンッ!?」
「わー痛そ」
また一匹。僕にその牙を突き立てようと跳びかかってきた狼のような何かが魔力の刃で串刺しにされる。
貫かれた体は瞬く間に霧となって消え、コロンと赤い宝石だけがその場に残った。これでまた一つ。
僕はこうして座っているだけで、どんどんそれが量産されていく。
楽して儲けるにはどうしたらいいか? 幼少の頃から考えに考えて、その答えがまさにこれだった。
この世界には魔素と呼ばれる人体に有害な物質が存在する。元から存在していたものなのか、はたまた誰かが意図的に世界にバラ撒いたものなのか、そんなことは僕の知ったこっちゃないけどね。
で、その魔素を元に生まれる存在ってのが居て、それが今まさに僕を食い殺そうとしているコイツ等。
獣、魔物、魔獣、人喰らい、色んな呼び方はあるけど、要は人を襲う化け物だ。
大小様々、強さも姿形もバラバラなコイツ等にも唯一共通点がある。それは、殺したら今みたいに宝石を残すこと。
魔素と魔力の塊。魔魂とも呼ばれる物で、これがまぁ一般的にはとても希少価値が高くてね。
こんなの狙わない手は無い。……でも、基本的にコイツ等が人の住む領域に発生することは非常に稀である。
居たとしても一匹二匹。群れなんてまずお目にかかれない。
じゃあ群れとしか言いようがない目の前のコイツ等は何なのか? 当然の疑問だ。
確かに普通ならありえない。でも、人が開拓していない土地や、空気の淀んだ場所、人目につかない洞窟だとかには、魔素溜まりと呼ばれる危険地帯が出来上がることがある。
普段は目に見えない魔素が、肉眼でもハッキリ分かるほどに凝固して出来た核。そこから無尽蔵に湧き出て来る獣達。
だからこその現状なのだ。そう、ここはまさに魔素溜まりの中心地点。高く売れる宝石を抱えた獲物達が、わんさか現れるパラダイス!
努力してチマチマと稼ぐことが大嫌いな僕にとって夢のような職場ってわけさ!
「ギアアァァァッ!!?」
「学ばないねぇ。はい1つ追加」
稼ぎ場所が見つかったとして、じゃあどうやってコイツ等を狩る? ははは、それこそ愚問だよ。
僕には無駄に多い魔力と、無駄に高い魔力操作技術と、無駄に強い自己防衛本能が備わっている。
魔力の流れやら性質やら、扱い方をちょちょいと変えてやるだけで……あら不思議。僕を襲う奴を自動で勝手に迎撃してくれる矛と盾の完成だ。
全方位対応。もちろん地中からの奇襲も対処済み。設定した魔力に荒事は任せて、僕はただ戦場のど真ん中でダラダラしているだけで大金が転がり込んでくる。
魔素溜まりの核が枯渇するまでひたすらにゴロゴロダラダラのーんびり待つだけの簡単なお仕事。
誰にも邪魔されず、誰にも咎められない。むしろ害となる獣を処分してるから社会貢献まで出来ている上に、自宅から魔力を使用しての移動時間数分という最高の立地。
嗚呼、最っっっっ高に楽! これぞ僕が追い求めてきた職の極地! 素晴らしきかな魔力!
「おっと、そろそろ打ち止めかな」
人知れず感動を噛み締めていると、獣の猛攻が鎮まってきた。奥にある魔素核を見てみると、モヤモヤと出続けていた黒い霧を吐き出さなくなっている。うん、枯渇のサインだ。
残っている獣は一匹だけ。相も変わらず突っ込んでくるだけの分かりやすい行動にため息を一つ溢し、僕は人差し指を立てて獣に向けた。
まぁ、最後くらいはさ、しっかり働いたぞ感出したいじゃない?
「ばーん」
「ゴッ、ガ……!」
極小サイズに圧縮させた魔力の弾丸を撃ち出し、獣の頭を吹き飛ばして本日の業務は完了。
その獣を最後に、魔素核はうんともすんとも言わなくなってしまった。これでまた、半年ほどの期間を待たなければならない。
核さえ壊さなければ、魔素核は再び魔素を取り込んで活動を再開する。それを狙ってまた僕が、という永久サイクル。最高かな?
「んっ、あああぁ〜……働いた働いた〜。うん、僕偉いぞ。こんなに魔力を消費して皆の敵を駆除したんだからね。感謝してくれたまえよ」
立ち上がって大きく伸びをする。仕事終わりの何てことはないこの仕草が最高に気持ちいいのだ。頑張った感が出てて良いよね。
ま、こんなに消費してって言っても1割くらいしか魔力使ってないけど。数分もすれば回復するし。
そう考えると僕の体ってホントに規格外だよね。何かの間違いで神様が与えちゃったと言われても割と本気で信じるレベル。
……って、そんなことは置いといて。締めの役割は果たさなきゃ。
「ほーら吸い込め〜」
読んでいた本を懐にしまい込み、代わりに取り出した小さな袋の口を開けて、散らばった宝石の方へ向ける。
すると、ゴオォォッと凄まじい吸引力を発揮して次々と宝石達が袋の中へ吸い込まれていく。
ザッと見ただけでも宝石の数は数千。しかしどれだけ吸っても袋の大きさや重さは変わらない。何故って? そういう魔導具なのだよこれは。
いくら大量に宝石を稼げたからって、汗水たらして運搬作業なんて絶対嫌だもの。それこそ僕の主義に反する。
反面、これがあればほぼ無尽蔵に宝石をしまえるし持ち運びも簡単。まさに僕の為に存在している魔導具だと言っても過言じゃないね。大枚叩いて購入した甲斐があるってもんだ。
袋の口より大きな物はしまえないのが玉に瑕なんだけど……ま、どうせ宝石しか持ち運ばないから関係ないけどさ。
「ほい終了。本日も大量大量♪」
吸い込み終えてしっかりと袋の口を閉じて懐へ。心なしか胸が暖かくなった気がする。
仕事中の歩数0。魔力消費1割。予定より多めの収穫。うんうん、上々の結果でほくほくだよ。これでまた僕の自堕落生活の夢に1歩……いや10歩は近付いた。
やる事も終えたので、あとは隠蔽工作。魔力を岩肌に擬態させて魔素核を覆い隠し、更には洞窟の入り口もしっかり隠す。
万が一にも他の誰かに嗅ぎ付けられる訳にはいかないからね。この辺りは流石に妥協しない。
もしバレたら……まぁ、見つけちゃった相手が悪いってことで少々お話することにはなるだろう。何事も穏便に穏便に、ふふふ。
「これでよしっ」
魔力を足に纏わせ、滑るようにスルスルと洞窟内を進み、無事に外へ。魔素核を隠した時と同様のやり方で入り口を隠し、半年に一度のお仕事完了である。
……あぁいやゴメン、まだ終わってないや。
「くふ、くふふふ……さぁて、待ちに待った換金ターイム!」
宝石をしっかりお金に替えて初めて終わり。そして一番楽しい時間でもある。
今日はいつもより多く集まったし、どれくらいの値段になるかな。最低でも億は確実として、上手くいけばもっと多かったり……あー楽しみ。
ニヤニヤと口元が歪むのを抑えられないまま歩みを進める。目指すは僕が生まれ育った街、アレットだ。




