99,二周目の〈紫ガ城〉。
十日後。
おれは〈紫ガ城〉に戻っていた。
ラスボスとして。
正直なところ、いまさらラスボスと言われても……幹部たちは皆殺しにあったし。
いや【碁怒卿】だけは無事で、いまは〈紫ガ城〉の中ボスをしている。【碁怒卿】のダンジョンといえば、ケイティとレベル上げしているときに世話になったものだ。
十日前──。
前ギルマスは、セーラの指令によって、衆人環視のもと自害。
まぁ、『別の宇宙の魔人たち』に冒険者たちを売り渡していたような奴だから、別に同情の余地はないが。
しかし、なにも『ステーキナイフで首を両断』とか命じんでもいいのにな。両断するまで30分はかかった。
セーラ、そのドSぶりは揺るがない、か。
ギルドマスターに就任したセーラは、ササラとして、冒険者ギルドの改革に乗り出した。ギルド内の元ギルマス派閥を追放することが目的。
もちろん連中は大人しく追放されはしなかった。が、これについてはセーラにしては、表立っては血は流れなかった。表立っては……
セーラも、少しは政治というゲームプレイが気に入ったようだ、ということだな。
こうして冒険者ギルド内を整理すると、つづいて右腕となる副ギルマスを選定。
これがミシェルだったのは、驚きだったような、そうでもなかったような。
ところでセーラがギルマスになったことで、冒険者ギルドは魔人の手に堕ちたわけだ。
サリア様が健在だったら、許さなかっただろうな。
と言っても、肝心のギルドが堕落していた上に、『別の宇宙の魔人』たちに〈サリアの大樹〉を奪われている現状だ。
サリア様には大目に見てもらうしかない。
で、この間、お兄ちゃんもぼーとしていたわけではない。
勇者少女を連れて、各幹部ダンジョンをまわっては、なり代わった偽ボスたちを駆逐する日々。
〈滅却絡繰り〉を使うことで、跡形もなく消すことができる。復活はなしだ。
ただし〈サリアの大樹〉を握られている以上、こちらもまた復活はなし。
気軽に死ねないわけだ。別に、これまで気軽に死んでいたわけでもないが。
こうして情勢は固まった。
そして、おれは〈紫ガ城〉に戻り、一応はラスボスということになった。
「ボスに戻れるのはいいが、『ラス』がつくのは嫌だなぁ。無駄に責任重大だし」
と、一応は文句を言っておいたが。
まんざらでもないでしょう、と勇者少女には言われたが。
そんな勇者少女は、一応は冒険者の身分であるが、いまは〈紫ガ城〉の『ボスより強いモブ敵』枠。
いいなぁ。気楽なポジションで。
そして、おれたちは待っている……
何を待っているかといえば、アリサが率いる『別の宇宙から侵攻してくる魔人』たち。
向こうが、こちらの世界に侵攻しているのには、何かしら理由があるのだろう。
その理由によって、後には引けないはず。
そしてセーラの手腕によって、連中は追いつけられた情勢となった。
この劣勢を覆すためには、大きな逆転の一手が必要となる。
それは何かといえば、こちらの世界のラスボスを撃破すること。
では、そのラスボスとは誰か?
おれですね。
「まてよ。これって、ただの囮じゃないか?」
玉座に腰かけたまま──しかし座り心地が悪い──勇者少女に言った。
勇者少女は「えっ」という顔で。
「いまさら気づいたの?」
「いや、ずっと前から気づいていたが──なんとなく、言ってみたかった」
ところで新生〈紫ガ城〉の入口を守る、いわば門番の役として、首無し騎士のアーグ。
あいつ、大丈夫だろうか。




