98,さいくはりゅうりゅう。
なんだか頭痛が痛い。
というわけで、おれたちは場所を変えることにした。
人間モードの妹、困惑しているミシェル、あくびしている勇者少女。勇者少女はもう、いつもなら寝ている時間か?
「ところで、兄貴たちはなにしにきたの? あたしを追ってきたの?」
「いや、お前がいるのは知らなかった。ここにきたのは偶然でね」
ここまでの経緯を話す。
妹はうなずいて。
「兄貴たちの読みどおり、ギルマスとアリサとかいうのはグルだったようよ。まぁ、敵の首謀者がアリサとやらだと分かったのは、兄貴情報だけど」
「つまり、ギルマスは『別の宇宙』の魔人と結託していたと。しかしどういう狙いだ。なんだか分かるようで、分からない」
「あたしは、そういう細かいことは考えないの」
ミシェルが咳払いする。
「私の推測でいいのなら、聞いてくれ。まずアリサは、こちらの冒険者の勢力を削りたかった。だが早い段階で、自分たちが出るのは避けたいことでもあったはずだ。『別の宇宙』からの侵攻を、ソルトたちに気取られたくなかったはずだからな」
ふむ。そのため、おれたちを利用することにしたわけか。
とくに〈暴力墓〉の【消滅卿】とかを。
そしてアリサ自身が、【消滅卿】をナーフし、あたかもこちらの味方のように振る舞った。
いや、さらにいえば弱体化させておくことで、なり代わるときも消しやすくなったということか。
セーラが、ミシェルを睨んでいる。
「ところで、どうしてまだ兄貴と一緒に行動しているのよ? なんなの? 兄貴にくっ付いて、最終的に何がしたいの? 兄貴とヤリたいの?」
ミシェルが口をあんぐりあけて、耳まで真っ赤になった。
「なにを言っているんだ! そんなわけがあるものか!」
勇者少女が素朴に尋ねてくる。
「なにをヤりたいの?」
はぁ。こういうところは年相応か。
「さぁな、カルタ取りとか」
「ふーーーん」
おれは咳払いした。
「あのさ。本題から逸れているぞ。セーラ、ギルマスを手中に収めたのは、さすがだな。これでアリサに対する返す刀になるからな」
「それって誤用じゃない。返す刀って、カウンターという意味じゃないわよ」と勇者少女。
「……」
このメンバー、まったく議論が進まないんだが。
ミシェルが疑わしそうな目を、セーラに向けた。
「ギルマスを洗脳し、副ギルマスになったということだな。そういう認識でいいわけだ?」
「そうね」
と、セーラが肩をすくめる。
実際は『洗脳』ではなく、脳に寄生蟲を取り付けているわけだが。寄生蟲を入れるにあたっては、皮膚を切り開いているので、これはセーラの外科手術。
想像するとグロい。
「だが、それでどうするつもりだ? ギルマスを駒として、『別宇宙からの敵』と交渉でもするのか?」
「まさか。いまのギルマスには、すぐに消えてもらうわよ」
とセーラは説明しながら、一通の封筒を取り出す。
「このなかには、遺言書がおさめられているわ。ギルマスに書かせたから、筆跡も間違いないわ。内容は、『自分に何かあったら、英雄の魂を持つ副ギルマスをギルマスに就任させる』という」
「英雄の魂……」
おれは腕組みして、
「しかし、ギルマスがそう都合よく死ぬか?」
パーティ会場のほうから複数の悲鳴が聞こえてくる。
なんだろうかと会場に戻ってみると、ギルマスが、自分で自分の首を両断しているところだった。
「…………………捻りもなにもないな」




