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95/107

95,してやられた感。

 

 冒険者ギルドのギルマスに会うならば、まずはミシェルに話をつけておくべきだろう。


 これまでミシェルは、どうやら黒幕はギルマスらしい、とまでつかんでも、具体的な行動は起こしていなかったのだし。


「そういや勇者少女は、ミシェルと同居していたんだったな」


「わたしを押し付けたんでしょ。けど安心して。仲良く暮らしているわ。あと100年はいける」


「死ぬまで面倒みてもらう算段か」


 ミシェルは王都の宿に泊まっており、会いにいくと仏頂面で迎えられた。もともと愛想が売りではないにしても、これはまさしく怒っている?


「勇者少女、何をしでかした?」


 腕組みしていた勇者少女が心外そうに言う。


「わたし? わたしじゃないでしょ。この展開、あなたでしょ?」


「おれ? おれが一体、なにをした?」


 と、このときはわりと本気で言っていた。おれは優先順位の上位にしか目がいかないところがあり、少し前まで『なんてこった』という展開も、その後に情報更新されれば忘れるところがある。

 悪気はないんだよな。


 で、ミシェルが言う。


「われわれの取り決めを忘れたのか? 【破壊卿】。貴様は魔人として、『ボスより強いモブ敵』を演じながら、冒険者たちの育成に尽力すると」


「そうだ。もちろん、おれは──あ~っ!」


 そういや半日前、冒険者たちを殺しまくったっけ。

 しかもレベル400帯の上位陣を。


 別に、これも悪気はなかった。

〈サリアの大樹〉で復活させてあげられるはずだったし。それに魔人をやっていて思ったのは、『殺される』経験も糧となる、ということ。


 ところが〈サリアの大樹〉のメンテ不足からの強奪によって、復活できなかったのだった。


 ただそのあとは、【豪腕卿】のなり代わりや、別の宇宙からの侵略、さらに首魁がアリサのようだという疑惑──からの『冒険者ギルドのギルマスはアリサと結託している』説。

 

 などなど、怒涛の半日で、まぁ忘れていた。


「落ち着いてくれ、ミシェル。ドラゴン買ってあげるから」


「そんなことで、私が納得するとでも? ……ドラゴンは売買されているのか? 犯罪臭がするな」


 さすがミシェル、真面目な性格。ドラゴンの闇売買摘発に乗り出す気満々か。

 それはほかのトラブルが全部解決してからにしてもらうとして。


 おれは怒涛の展開について話し、結論として。


「〈サリアの大樹〉を取り戻し、こちらの勇者少女──サリア様の転生者がメンテナンスすれば、死んだ冒険者たちを蘇らすことができる。ね?」


 勇者少女が肩をすくめる。


「ええ、後半部分は大丈夫」


「なんだ後半部分は、って?」


「〈サリアの大樹〉を取り戻せるかは、わたしの責任ではないということよ」


 ミシェルがこめかみをマッサージしながら、ストレスをおさえた様子で言った。


「分かった。整理すると、『別宇宙からの侵略』の首魁と思われる者と、ギルマスが結託しているかもしれない、ということだな?」


「ギルマスが、ダンジョン攻略の推奨レベルを操作し、将来性のある冒険者たちが命を落とすようにしていたのも、冒険者側の弱体化を狙っていた、というのなら筋が通る」


「しかし、即効性はないのではないか? 新米冒険者の多くは、〈暴力墓〉で命を落とした。しかし〈暴力墓〉の推奨レベルが捏造されたとき、すでにそこをクリア済みの冒険者たちは? いまのギルドの主力は、まさしくそういった者たちのはず」


 あー、まてよ。

 おれを『特異点魔物』に指定したのは、それら『主力の冒険者たち』をおれに削らせる意味もあったんじゃ?


 なんか、してやられた気がする。

 この推測を話すと、さらにミシェルのストレス値を上げそう。黙っておこう。


「とにかくギルマスが、冒険者たちの信頼を裏切っているのは事実。これまではギルドのことだからと、おれは口だししなかった。が、アリサと結託している可能性がある以上、もう黙ってはいられない」


「分かっている。私も証拠固めをして、堂々と追及しようと思っていた。しかし悠長なことは言っていられない。それで、どうする?」


「ギルマスを誘拐し、二人だけで話したい」


 勇者少女がすかさず付け足す。


「そして、拷問するようよ。わたしは見守っているわ」


「だから拷問はしないって……というか勇者少女。お前のその性格、セーラと気があいそうだな」


 いや、妹ならば、拷問を見守る側ではなく、ウキウキとする側か。

 やっぱ相性いいじゃん。


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