95,してやられた感。
冒険者ギルドのギルマスに会うならば、まずはミシェルに話をつけておくべきだろう。
これまでミシェルは、どうやら黒幕はギルマスらしい、とまでつかんでも、具体的な行動は起こしていなかったのだし。
「そういや勇者少女は、ミシェルと同居していたんだったな」
「わたしを押し付けたんでしょ。けど安心して。仲良く暮らしているわ。あと100年はいける」
「死ぬまで面倒みてもらう算段か」
ミシェルは王都の宿に泊まっており、会いにいくと仏頂面で迎えられた。もともと愛想が売りではないにしても、これはまさしく怒っている?
「勇者少女、何をしでかした?」
腕組みしていた勇者少女が心外そうに言う。
「わたし? わたしじゃないでしょ。この展開、あなたでしょ?」
「おれ? おれが一体、なにをした?」
と、このときはわりと本気で言っていた。おれは優先順位の上位にしか目がいかないところがあり、少し前まで『なんてこった』という展開も、その後に情報更新されれば忘れるところがある。
悪気はないんだよな。
で、ミシェルが言う。
「われわれの取り決めを忘れたのか? 【破壊卿】。貴様は魔人として、『ボスより強いモブ敵』を演じながら、冒険者たちの育成に尽力すると」
「そうだ。もちろん、おれは──あ~っ!」
そういや半日前、冒険者たちを殺しまくったっけ。
しかもレベル400帯の上位陣を。
別に、これも悪気はなかった。
〈サリアの大樹〉で復活させてあげられるはずだったし。それに魔人をやっていて思ったのは、『殺される』経験も糧となる、ということ。
ところが〈サリアの大樹〉のメンテ不足からの強奪によって、復活できなかったのだった。
ただそのあとは、【豪腕卿】のなり代わりや、別の宇宙からの侵略、さらに首魁がアリサのようだという疑惑──からの『冒険者ギルドのギルマスはアリサと結託している』説。
などなど、怒涛の半日で、まぁ忘れていた。
「落ち着いてくれ、ミシェル。ドラゴン買ってあげるから」
「そんなことで、私が納得するとでも? ……ドラゴンは売買されているのか? 犯罪臭がするな」
さすがミシェル、真面目な性格。ドラゴンの闇売買摘発に乗り出す気満々か。
それはほかのトラブルが全部解決してからにしてもらうとして。
おれは怒涛の展開について話し、結論として。
「〈サリアの大樹〉を取り戻し、こちらの勇者少女──サリア様の転生者がメンテナンスすれば、死んだ冒険者たちを蘇らすことができる。ね?」
勇者少女が肩をすくめる。
「ええ、後半部分は大丈夫」
「なんだ後半部分は、って?」
「〈サリアの大樹〉を取り戻せるかは、わたしの責任ではないということよ」
ミシェルがこめかみをマッサージしながら、ストレスをおさえた様子で言った。
「分かった。整理すると、『別宇宙からの侵略』の首魁と思われる者と、ギルマスが結託しているかもしれない、ということだな?」
「ギルマスが、ダンジョン攻略の推奨レベルを操作し、将来性のある冒険者たちが命を落とすようにしていたのも、冒険者側の弱体化を狙っていた、というのなら筋が通る」
「しかし、即効性はないのではないか? 新米冒険者の多くは、〈暴力墓〉で命を落とした。しかし〈暴力墓〉の推奨レベルが捏造されたとき、すでにそこをクリア済みの冒険者たちは? いまのギルドの主力は、まさしくそういった者たちのはず」
あー、まてよ。
おれを『特異点魔物』に指定したのは、それら『主力の冒険者たち』をおれに削らせる意味もあったんじゃ?
なんか、してやられた気がする。
この推測を話すと、さらにミシェルのストレス値を上げそう。黙っておこう。
「とにかくギルマスが、冒険者たちの信頼を裏切っているのは事実。これまではギルドのことだからと、おれは口だししなかった。が、アリサと結託している可能性がある以上、もう黙ってはいられない」
「分かっている。私も証拠固めをして、堂々と追及しようと思っていた。しかし悠長なことは言っていられない。それで、どうする?」
「ギルマスを誘拐し、二人だけで話したい」
勇者少女がすかさず付け足す。
「そして、拷問するようよ。わたしは見守っているわ」
「だから拷問はしないって……というか勇者少女。お前のその性格、セーラと気があいそうだな」
いや、妹ならば、拷問を見守る側ではなく、ウキウキとする側か。
やっぱ相性いいじゃん。




