94,お前に授けよう。
〈滅却絡繰り〉を装備。
これで、倒すだけで復活のない滅却となる。
冒険者ギルドは良いものを作った(そして妹のセーラが盗み、おれのアイテムに入れたのだったな)。
「勇者少女。足場をいただけるか?」
勇者少女が肩をすくめて、『見えない刃』を放つ。斜め上方へ。
『斬撃効果』をなくすことで、この刃に乗っかっていくことができる。
なんといっても偽【豪腕卿】は、50メートルクラスの巨人なものだから。
こうして高みへと飛んでから、〈魔滅の大槌〉と〈双蛾の斧〉の二刀流、《覇魔弾》。
一撃必殺の、破壊力をこめた振り下ろし攻撃。
対する偽【豪腕卿】は、塔のような剣でガード。
「むざむざ食らうと思ったか、そんな単調な大技を!」
「失敬な」
というわけで、《時間跳躍ディレイ》。
敵のガードが終わるまで跳躍し、無防備となった偽【豪腕卿】の頭部に叩きこんだ。
どうと倒れる偽【豪腕卿】。巨人ゆえに地響きが起きる。
こっちはくるりと回転して着地。
瀕死の偽【豪腕卿】だが、余裕の笑みを浮かべている。さて?
「無駄なことだ。俺様は、アリサさまの加護により、何度となく復活するのだからな!」
「え、なに、アリサだって?」
サリア様の残滓で創られた存在。分かりやすい名前。そして、『世界を滅ぼす者が来る』と、忠告してくれたのに?
いや、あの忠告自体が、自身を犯人候補から逸らすための作戦だったのかもしれん。ミスリードというやつだ。
だとすると、バカな部下のせいで、せっかくの作戦も台無しということか。
まぁ、偽【豪腕卿】が死に際にアリサの名を出すことも、ミスリードさせたろう作戦のうち、ということもあるが。
いや、そこまで入り組んではないな。
ところでこの偽【豪腕卿】は、これから滅却されることを知らんので、説明してやろう。
「偽【豪腕卿】。この凶悪なる〈滅却絡繰り〉の説明をしてやろう」
というわけで、懇切丁寧に説明してやった。
だんだんと偽【豪腕卿】の顔に理解の色。やがて絶望した調子で言う。
「ま、まさか……では復活はないというのか? 完全に消滅するだと? アリサさまのご加護はどうなる? いや俺様は信じんぞ!!」
本物の【豪腕卿】が復活しなかったのは、〈サリアの大樹〉を奪われたからだが。
〈滅却絡繰り〉は、無条件で発動できる。よくよく考えなくても、もっとも恐ろしいアイテム。
「まぁ信じなくてもいいんだけど。じゃ、トドメをさすね」
仕留める一撃。
偽【豪腕卿】が跡形もなく消え去る。復活のない消滅だ。
勇者少女がふいに言った。
「あー、分かったわ」
「なにが?」
「冒険者ギルドが、ソルトを『特異点魔物』にして討伐クエストを出したのに、〈滅却絡繰り〉を出さなかった理由。それは単純な話で、これ以上、あなたに〈滅却絡繰り〉を奪われるリスクを避けたかったからよ」
「ふーむ」
冒険者ギルドといえば、おれの古巣である〈暴力墓〉の推奨レベルに細工し、初心者たちを死地に送っていたんだったな。
あれは、【消滅卿】と組んでいるんだとばかり思っていたが、どうも違うのではないか、と思えてきた。
仮にアリサ側と組んでいたのならば。
最終的には、アリサが【消滅卿】に弱体アプデ入れたのも、うなずける。
「もっと早くするべきだったことを、するか」
「なにするの?」
と勇者少女。
「冒険者ギルドのギルマスに会いにいく。穏便な話し合いのために」
「拷問するのね、OK」
いや、ちゃんと人の話を聞け。




