93,アイテムを持っておけ。
無事、偽【豪腕卿】の撃破に成功。
にしても、これだものな。偽物はどこにでもいる。
「だんだん敵の狙いが読めてきたので、ここは整理しよう」
勇者少女がすかさず言った。
「わたし、生理はまだよ」
「だれがそういうボケをしろと言った? というか、遅いんじゃないの? 知らないけど」
とにかく生理
ではなく整理する、ここまでの一連の流れを。
〈サリアの大樹〉が奪われ、〈アグー城〉の【豪腕卿】は偽物に入れ替わっていた。
「そして、われわれの前に現れた『別の宇宙からきた魔物』──いまの偽物も、この『別の宇宙からきた』輩ではないだろうか」
「不思議なことがあるのだけど。この偽物も『別の宇宙から来た』魔人ならば、わたしたちがあっさりと倒せたのはなぜ?」
「さぁ、なんでだろうな。まてよ、」
あまりやらない習慣として、自分のスキルなどを確認することがある。
いまさら新たなスキルを会得することもないし。
ところが、パッシブスキルに見たことのないものがあった。
《マルチバース対応》。
「このパッシブスキル。多元宇宙に対応している、ということか。勇者少女。お前も会得しているんじゃないか?」
「《マルチバース対応》のこと? 気づいていたけど、これってそんなに重要なスキルなの?」
「このパッシブを持っているだけで、『別の宇宙から来た』魔物または魔人を、攻撃可能ということだ。わざわざゲートを破壊する必要はない。別宇宙からの侵略に対し、こちらも進化したようだな」
ここのところ《時間跳躍ディレイ》を会得したりと、おれもまだまだ若いものには負けていないなぁ。
「ねぇ。偽物の死体はどこ?」
勇者少女の視線を追うと、確かに偽【豪腕卿】の死体が消えている。跡形もなく。
これは、何か既視感を覚えるな。
というより、よく見る光景。
「魔人や魔物は復活する」
「だけど、それは〈サリアの大樹〉の恩恵でしょ? あ、」
「そうか。だから敵はまず、〈サリアの大樹〉を奪ったのか、うげっ」
突然、塔のような大剣が振り下ろされてきた。
復活した偽【豪腕卿】の、前口上を無視した一撃、というわけだ。
「死んだの、ソルト?」
大剣によって抉られた床の残骸から、おれははい出した。
いまの一撃、確かに重かったが。
「死んでない。こっちは、防御力には定評があるんだ」
「ふーん。ちょっと前まで、雑魚冒険者の経験値稼ぎにされていたのに?」
「パリィを決められると防御力とか無効になるんだよ。しかし、」
〈サリアの大樹〉を奪われて、情報を書き換えられたのだとしたら。
もしかすると、おれはもう死んでも復活しないかもしれんな。
ふむ。それで、本物の【豪腕卿】の姿がないのか? 偽物に入れ替わられるとき、復活のない形で殺されてしまったから。
「貴様ら、どこの誰だか知らんが、生きては帰せんようだな」
と、高く聳える〈豪腕卿〉がほざく。
その塔のような大剣が、底光りしだす。
だいたいにおいて、あれはチャージしているんだろ。
「通常攻撃回数によって、スキル発動時の威力が高まる、とかじゃない?」
と分析する勇者少女。
それから、くすくすと笑いだす。
「どうしたんだ、笑って?」
「こいつこそが、慣用句の『そびえたつクソ』というやつね」
いや、それは慣用句じゃないだろ。
偽【豪腕卿】を殺しても、また復活されるのは面倒だ。
しかし、異空間収納先で、所持アイテムを見てみようじゃないか。
〈滅却絡繰り〉があるではないか。
「青いタヌキになった気分で、これを出そう。〈滅却絡繰り〉を」




