9,ディレイが気持ちいい。
出し惜しみなしでいくぞ。
というわけでさっそく《魔滅弾》。
武者タイプの冒険者がまってましたとばかり、パリィ準備に入る。
パリィされるぞ、このままではパリィされる。ディレイしないと。
まてよ。ディレイって、おまえ、そんな簡単にできることじゃないぞ、妹よ。
と、この場にはいない妹に語り掛けてみる。
これまで、こちらは何百何千と、同じタイミングで大技も通常技も使ってきたんだ。この必殺技──ちなみに、決まれば即死ダメージ決まりなので、死技と呼称されている。
なんてトリビア思考している場合か、おれは??
「雑魚め、パリィだ!!」
は?
武者タイプ冒険者が自信満々にパリィ発動。しかし、空振り。
なぜか? おれが《魔滅弾》発動に手間どったためである。脳内でいろいろと考えこんだため、動作が遅れたのだ。
すなわち、意図せぬうちに、なんとディレイ攻撃となっていた。
いつもより遅れてくる、この死技《魔滅弾》。
まぁ遅れたといっても、せいぜい数秒だ。あまり長々と遅れていたら、相手側が再度、パリィをとろうとしてくるからな。
だが今回は、まず数秒しか遅れなかったし、何よりも衝撃を与えていた。
この武者タイプの冒険者に。自信満々にパリィ決めて、こっちの体勢をくずして致命をとってやろうとしていた、この冒険者に。
「な、な、なんだ、ぶぎゃっ!!!」
最後の『ぶぎゃっ』は、こちらが《魔滅弾》で、ユニーク武器〈魔滅の大槌〉が叩き込まれたため。
冒険者の上半身が粉みじんに砕け散り、破壊の衝撃波を逃れた下半身だけがよろよろと歩く。で、ばたりと倒れる。
「……………お、おお、マジか。なんか、久しぶりに冒険者を仕留めてやったぞ」
しかも考えてみると、いまの武者タイプ冒険者は、レベル310。全盛期、パリィが現れる前だって、この高位レベルの冒険者を仕留めた回数なんて、数えるくらいだったのに。
「うーむ。気分がいい。さっそく【堕落した聖女】のメアリーに報告してこよう」
踵を返そうとしたとき、新手の冒険者がやってきた。
今回は、三人パーティを組んでいて、近接戦闘タイプ、後方支援タイプ、火力特化の魔術師タイプと、バランスの良い内容。
ただ男二人、女一人なので、なんか三角関係とかに発展したら面倒そうだがな。
三人ともおれのことを知っているようで──まったくもって意外ではないが──はじめは、微妙に驚いていた。
こんなところに【破壊卿】がいるのは、やはり驚くのだろう。
だがすぐに、先ほどの武者タイプと同じく、なんか喜びだす。
こんな会話をペチャクチャと。
「おい、【破壊卿】がいるぜ。こんなところに経験値稼ぎの雑魚ボスがいるとはな」
「いいね。おれなんて、あいつのいた〈暴力墓〉を五周はして、レベル上げしたもんだぜ」
「いちいち最下層まで行くのが怠くなって、やめちゃうのよね」
「まぁな、だがあいつ自体は稼ぎになるからな」
「おい、誰が仕留める?」
「じゃ、おれが」
「稼いだ魔水晶はパーティで分けるんだぞ」
「わかってるって」
という感じで、近接戦闘タイプの冒険者が前に出てきた。
パリィをいつでもできるように構えてから。
「おい雑魚、とっとと始めるぞ」
「……あいよ」
ディレイして、ぐちゃりと潰してやった。
残り二人の冒険者の悲鳴が轟く。
あれー、愉しいぞ、これ。