89,続・よく働いた。
冒険者を殺しても〈サリアの大樹〉で復活させてあげればいい。
さらにいえば、一度殺されたほうが良い経験となるに違いない。
あと、ボスではなくモブ敵である以上、こっちから行っても良し。
という考えは、ちょっと気分を吹っ切れさせた。
ここのところ、いろいろと気苦労が多い。たまには暴れたっていいじゃないか。
ということで、〈魔滅の大槌〉と〈双蛾の斧〉を引きずるようにして駆けながら、ダンジョンを逆走。
遭遇した冒険者パーティを片っ端から血祭にあげていく。
大丈夫。ちゃんと最寄りの町で復活できるから。
とある冒険者パーティたちは、狂鳥魔物と戦っていた。これは中ボス格。対する冒険者パーティは、レベル的には狂鳥魔物を上回っているが、慎重に攻略している。
どうやらこのパーティ、回復担当がいないようだ。それでも、みんな大好きポーションがあるが、回復担当がいるのと違い、個数制限がある。
そこで、標的の『特異点魔物』と遭遇するまでは温存していこうということなのだろう、が。
「こっちから来ましたよー」
まず邪魔な狂鳥魔物を引きずりおろして殺す。
ごめんね。こんど、好物の腐った肉をおごってあげるから。
冒険者たちがギョッとした様子で、
「なんだ、こいつどこから出、ぎゃァァっっ!!!」
会話するのもだるいので、速攻で〈魔滅の大槌〉振り下ろしで、一人目の格闘家を叩き潰す。
その仲間の死を前にしたタンク役が大盾を前にして。
「てめぇ、なにしやがる! パリィ!!」
「知らんのか、パリィの時代は終わったぞ」
《時間跳躍ディレイ》でパリィに入る前、まだ盾を構える前に戻って、脳天から叩き潰す。
それから力任せに、残り二人に向かって、〈双蛾の斧〉を投擲。
ただの武器投擲ではない。Sランクの破壊武器を、怪力パッシブスキル付与の身で投擲しているわけだ。
投擲コースにいたものは、よほど防御の体勢を整えていないと、ガードしきれない。
で、こっちは前振りもなし、準備させる余地もなしに突入したものだから、相手はほぼ無防備。
一応は軽装戦士は、長剣でガードしようとしたが。その剣身ごと、両断させてもらった。
もう一人は、シーフ。こちらは短剣をつかった素早い攻撃などが得意で、毒付与ももっていたと思うが。
まぁ防御にはからっきしだろう。
というわけでシーフは身軽に跳んで、〈双蛾の斧〉の直線コースから外れた。
「こんな直線攻撃、回避するなんて余裕だ!」
「はい残念」
《時間跳躍ディレイ》。〈双蛾の斧〉を少し戻してから、軌道を変える。
跳んだシーフに直撃するコースに。
「な、なんだ、ぶぎゃっっ……!!」
小柄な奴だったので、真っ二つというより、人肉がバラバラに吹き飛んだ。
「この死を経験にして、さらなる飛躍してください」
〈双蛾の斧〉を拾い上げて、さらに逆走。
そうやって、次から次へと冒険者たちを血祭りにあげる。
《時間跳躍ディレイ》がチートすぎたので、これまでけっこう手加減していた。
だがいまこうして、『殺しても復活させられるので大丈夫』という安心感と、殺すことが冒険者たちの成長につながる、という確信。
伸び伸びと殺せるというものだ。
こうしておれは〈トール塚〉の入口に出た。
ここまでに遭遇したのは、全7パーティ。みな四人組だったので、28人を殺したことになる。
レベル400帯の冒険者が28人、一日で死んだとしたら、冒険者ギルドとしては大損害だろう。
だがしかし、彼らはいま、最寄りの町で復活しているのだ。
「いい働きをしたものだ」
《トール塚》の奥まで戻ると、勇者少女が読書しながら待っていた。
「ねぇ、ソルト。忘れていたけど、〈サリアの大樹〉のメンテしてないけど、大丈夫?」
「メンテ?」
「メンテナンス」
「それをしとかないと問題ありか?」
「うーん。たぶんいまだと、復活が機能していないと思う。だからメンテは、早めにね」
「………え、復活しないのか?」
「復活しない。いまはね。だからメンテを早めに……どうしたの、頭かかえちゃって」
「……………………あ、ヤバい。やっちゃった」




