85,vs特異点魔物。
「ミシェルと合流して、〈冒険者の老後を心配する会〉の会議といくか」
勇者少女が顔をしかめる。
「〈冒険者の未来を憂う会〉ね。そこは大事」
勇者少女連れて、〈蟻塚〉に空間転移する。
〈トール塚〉のほうは──べつにおれはモブ敵だし、しばし消えていても問題はないだろう。
ところで、よそのダンジョンに移動するときは、そこのボスにまず断りを入れるのが礼儀というものだ。
ただいまの〈蟻塚〉のボスが誰なのか、よく分からない。
にしても、いま魔人たちのかじ取りをしているのは、誰なのか。
妹が【廃都卿】を消滅させてから、誰がトップにいるのかよく分からんな。
〈蟻塚〉の中間層に転移したところ、巨大な蟲型魔物と、冒険者二人の戦闘現場に居合わせた。
まてよ。一人は〈風の帝〉か。ほれぼれする風属性攻撃の数々。
しかし敵の蟲型魔物はダメージを受けていない。よほど防御特化のスキル持ちか、単にもとから『硬い』のか。
そうか。これが『特異点魔物』というものか。
「しかし、見た目はよくいる蟲型魔物だな。おれはあまり好きじゃない」
「わたし、好きよ。ああいう節足タイプ」
「そうなのか。ムカデとか大丈夫な感じか」
「ムカデが嫌いなの? じゃ、エビも嫌いなのね」
「エビは好きだが……美味いだろ」
勇者少女がふしぎそうに言う。
「なんでエビは食べることができて、ムカデはダメなのよ?? 形態的にいって、親戚みたいなものじゃないのよ。エビが陸を歩いていたら、ムカデでしょうが」
なに怖いことを言っているんだ。
怖いことを……怖い。
「………………………こんなところで、そんな論議をしている場合じゃない。『特異点魔物』の定義は不明だが、とにかく偶然にも、その戦闘場面に出くわした。ひとまず、おれたちは、通りすがりの冒険者のフリをしよう」
【破壊卿】でも狂戦士バンザイでもなく、冒険者ソルトとして。
勇者少女はうなずいた。
「いいわよ。で、あの気持ち悪い蟲を殺してもいいのよね、わたしは」
「好きにしろ」
「そこ! わたしが助けてあげる!」
勇者少女が参戦。
〈風の帝〉と、そのパーティ仲間のグラディエーターが、疲れた様子で勇者少女を見やった。
実力を一目で見抜いたのか、参戦を拒否はしない。
ただ期待も感じられなかったが。
あのグラディエーターも、相当な実力者。
さらに〈風の帝〉。おそらく〈帝〉の中では、〈雷の帝〉につぐ高火力。
この二人の猛攻を受けて、なぜ損傷を与えられないのか。
「勇者少女が加われば、さすがに状況も変わる、か?」
勇者少女が、デバフ欲張りセット付の『見えない刃』で、連続攻撃を仕掛ける。
が、『特異点魔物』にはダメージもなし、デバフ付与もなし。
しばし眺めていたが、これはさすがにおかしい。
これまで魔人幹部たちを殺しまくった勇者少女の『見えない刃』。
いまだに、どういうスキルなのか、おれも分からん。
このほぼほぼチートスキル攻撃でさえ、この巨大な蟲型魔物にはダメージを与えられないとは。
「どうも、『ダメージを一切受けない』という前提条件が成り立っているらしい。だから『特異点魔物』か? おれの時間跳躍ディレイもズルいなぁ、と自分で思ってはいたが。それどころではないな、これは」
しかし、なんらかの攻略法はあるはずだ。
「……はぁ?」
下層側から、ドラゴンが飛翔してきた。
本物ではなく、マナエネルギーで創られたドラゴンだ。
騎乗しているのは、ミシェル。
ミシェルもこちらに気付いたようで、急降下してきた。なにやら焦っている様子で。
「ササラを見たかい、ソルト?」
「……誰だ、それ」
「おたくの妹だよ!」
…………そんな妹、いたっけ?




