82,靭性撃破。
「『異なる宇宙』から来たというのならば、あんたでも殺せないわけだね?」
と、ミシェル。
小手先はやめて、ここは単刀直入に煽ってみることにしたわけだ。
だが単刀直入すぎたのか、簡単に狙いを見抜かれた。
ササラはくすりと笑い。
「あたしに『特異点魔物』を撃破させようって? 利用されるのは気にいらないなぁ」
「しかし、そちらも今は『冒険者』のはず。仲間がピンチなのだから、助けるべきでは?」
〈風の帝〉は、とりあえず問題はない。『特異点魔物』に攻撃がきかないと見るや、ひとまず様子をうかがいつつ、回避に徹している。
風をまとっての回避は、どうやら自動で行われているようで、パッシブスキルのひとつだろう。
一方、アガは少々、問題がある。
こちらも突撃攻撃をいったん封じているが、なにぶん回避ではなく防御型。
防御というのは、少しでもダメージを受ければ、それが蓄積されることは避けようがない。
『特異点魔物』も、そこまで強力な攻撃はないようだが。
いや、これもまた温存しているだけかもしれない。
(……『特異点魔物』という括りで、〈蟻塚〉と〈トール塚〉。しかし【破壊卿】は『別の宇宙』から来たわけではないので、これは同じ『特異点魔物』でも、まったく種類が異なるのか)
「ふーん。ところで狂戦士バンザイというのは、誰なの?」
【破壊卿】ことソルトのことを考えていると、いきなりササラにそう尋ねられた。
この【虐殺娘】、こちらの考えでも読めるのだろうか。
この魔人の場合、ないとはいいきれない。
いや、さすがに考えが読めるのならば、そもそも聞く必要はない。
ミシェルは、マナエネルギーによるドラゴンを操縦しながら、『特異点魔物』と距離を取りつつ、後ろに座っているササラに言う。
「いま、その話をするのか?」
ササラはくすくすと笑いながら、からかうように言う。
「あたしは、べつに『いま、その話』をしてもいい気分だし」
「わたしが、なぜ狂戦士の正体を知っていると思う?」
「そもそも、ここで『正体』と言っている時点で、狂戦士の正体は隠しておかないと、と思っていることが丸わかりよね。そして『隠して』おきたいということは、まずもって正体を知っているからこその発想」
「……えーと、なんだって?」
ササラが後ろから、ミシェルの肩に腕を回す。締め付けてきたわけではなく、友達に気安く肩をまわすような感じで。
「とにかく、取引といきましょう。こっちも、あの『特異点魔物』は目障り。ただし、殺すのは、あんたたちが全滅してからでもいいわけ。協力プレイが欲しかったら、あんたの知っていることをぜんぶ話しなさい」
「……殺さないと誓うなら、教えてもいい」
「狂戦士を殺さない、ということ?」
「違う。あんたが、私を殺さないという保証が欲しい」
「ふーん。約束する。サリアたんにかけて」
ソルトと違って、セーラの闇女神サリアに対する尊敬の念は、ほとんどない。
というより、マイナスではないか。
すっかり軽んじている。
「どうせなら、あんたの兄にかけて欲しいものだ」
「……ま、いいわ。兄貴にかけて」
「その人だ」
「は?」
「狂戦士バンザイは、ソルト。あんたの兄が、モブ敵に扮している姿」
「……兄貴は何をしたいわけ? というか、そのモンスター名、どうにかならなかったの?」
命名者が勇者少女だと話したら、いろいろと血を見る確率が高まりそうだ。
「……私の国では、バンザイとは『高貴な魔王』を意味、する、ような」
「本当に? まぁいいけど」
と、ササラが疑わしそうに言う。
ミシェルは飛行中のドラゴンを180度回転させる。天と地が逆さになった状態で、これまでよりも『特異点魔物』に肉薄する。
「約束を守ってもらうぞ!」
ここでササラが飛び降りて『特異点魔物』を撃破するものとばかり期待したが。
「なぜ飛び降りない?」
「あのね。あたしがいくらチート鬼畜強いといっても、この世界の理の中で、という制約があるの。あの『特異点魔物』は、異なる世界の理に守られている。から、あたしの攻撃もきかない感じ」
「撃破不可能ということか?」
ササラがあくびして、面倒そうに言う。
「そうじゃないわよ。手順があるの。『特異点魔物』がどこから来たと思っているの? 無から生まれたわけでも、あんたのお母さんでもないわけよ。
異なる宇宙とつながったゲートがある。そのゲートを破壊することで、『特異点魔物』の守護状態を解除する。
まぁ簡単に言うと、靭性撃破状態にして、無防備にする感じ」
ミシェルはうなずいた。
「つまり、パリィする感じだな」
「うーん。そうなの?」




