81,異種。
『特異点魔物』といっても、見た目はほかの魔物と変わらない。
魔物も形態によって種類があり、これは蟲型だろう。
全身を装甲で包み、小山ほどの大きさがある蟲ではあるが。そこは魔物というところか。
「討伐を開始する」と〈風の帝〉。
相手がでかい分、パーティ側に連携はさほど求められていない。
せいぜい同士討ちしない程度で。
甲夜が風属性攻撃スキルのコンボを放つ。周囲を巻き込まないようにの配慮か、攻撃範囲は狭い。だがそれは、どんな防御も貫く攻撃。
そのはずだが、『特異点魔物』には損傷を与えていない。
ただこの手の中ボス格の魔物は、ダメージを受けているのか、視認では分からないこともあるが。
「たいしたことねぇな、〈帝〉さんもよ!」
と、アガが突進。
《ギガント・バッシュ》。
突撃系スキルは、極めると強い。しかし、ようは捨て身タックルなので、その道を極める者は少ないが。
(冒険者レベルを上げていく途中で、ステ振りが面倒になったのではないだろうな、アガ)
と、ミシェルは地味に疑う。
とにかく《ギガント・バッシュ》ならば、アガ自身にもダメージは避けられない。
その分、その突破力は高く、敵の『特異点魔物』がどれほど防御力特化だろうと、少なからずのダメージは与えるはず。
ところがダメージを受けたのはアガだけで、『特異点魔物』は微塵も損傷していない。
ここまでくると、何かしらの条件をクリアしないとダメージを与えられないのでは、と疑いたくなる。
ササラならば、何か情報があるかもしれない。
ミシェルが尋ねようとしたが、その前に向こうから、疑問を口にされた。
「あなた、ドラゴンは?」
「え?」
「ドラゴンライダーなのに、ドラゴンがいないようだけれど?」
「……」
いまさら、というより、このタイミングで尋ねてくるとは。
はじめは嫌がらせかと思ったが、どうもこれに限っては、悪意はないようだ。
「……私が育てていたガウ種のドラゴンは、ある高難易度ダンジョン攻略中に殺されてしまった。それ以来、次のドラゴンを見つける気にならなくて」
「それだと、あなたはもうドラゴンライダーではないのでは?」
「いいや。余計な心配は無用」
ドラゴンライダーのジョブスキルで、マナのエネルギーをドラゴン形態にする。理想をいえば、ちゃんとしたドラゴンを育てるべきなのだろうか。
とにかくジョブスキルで造ったマナドラゴンに騎竜すると、後ろにササラが飛び乗ってくる。
「近くから見せてちょうだい。あの『特異点魔物』には、何か秘密があるわよ」
指示に従い、いったん急上昇してから、急降下。
蟲型の『特異点魔物』の近くを横切る。
「何か分かったか?」
「ふーん。あの気持ち悪い蟲は、おそらく──異種ね」
「異種?」
「あたしたちとは違うものよ。違うところから生まれた──まぁ、人間からしたら、ほかの魔物との違いは、判別できないでしょうけど」
確かに、この『特異点魔物』に、ほかの魔物ととくに変わったところは見られない。
戦いかたからしても──いまのところ言えるのは、上位冒険者の攻撃でもダメージを与えられない、ということくらいか。
しかし、それならなぜ、この魔物が『特異点魔物』であると、冒険者ギルドは知ることができたのだろうか。
「ところで、その異種というものが何か、教えてくれるのか?」
「まぁ、あんたは一時的ながら、あたしのパーティメンバーのようだから。特別に教えてあげてもいいわよ。といっても、あんたの脳みそで理解できるか疑問だけれど」
「あんたたちとは、異なる存在、という話だったが?」
「簡単にいうと、『別の宇宙から来た魔物』というところかしらね。ふーん。なぜ紛れ混んでいるのかしら?」
「どうすれば倒せるんだ?」
ササラはくすくすと笑う。
「倒せないわよ。この世界の冒険者の攻撃では、ダメージは与えられない。闇女神の許可がでていないもの。サリアのことではないわよ。別の宇宙の闇女神のことね。お分かり?」
「……」
すると、セーラならば倒せるのか?
それともセーラでも倒せないのか?
それを試させるのは、話のもっていきかたが重要な気がする。
と、ミシェルはマナドラゴンを操りながら思った。




