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80/107

80,有能か。

 

〈蟻塚〉の推奨レベルは420以上。


 このパーティならば、それぞれソロでも攻略できるだろう。というより、ソロのほうが手っ取り早いかもしれない。


 このパーティの欠点は、まずアガが、リーダーの〈風の帝〉に対して拒絶反応を起こしている点。

 甲夜がどうこうというより、アガはなぜか〈帝〉に反感を抱いているようだ。


 まさか自分が〈帝〉になることができないから、ではないだろう。

〈帝〉になりたいのならば、〈水の帝〉の座を求めて、もっとやる気になっているはず。


 アガにはアガの冒険者としての歴史があり、その積み重ねのどこかで、〈帝〉反感が根付いた。

 仕方ない。


 対して〈風の帝〉の甲夜も、リーダーとしては問題があった。

 そもそもリーダータイプでないことは確か。一匹狼タイプ。ただしギルドの命令には忠実なので、パーティを率いる立場には立ったと。


 とにかくリーダーをやる気がない者が率い、かつそのリーダーに反感を抱いている者がいる。

 これで、うまくいったら奇跡だ。


 だが、なぜか上手くいく。

 さくさくと、高いレベルのモブ敵を撃破しながら、アガが上機嫌で言う。


「へっ。今日は身体が軽いな。オレ一人で充分だぜ」


 アガとは離れたところで、斧槍を振るっていた甲夜が、不可解そうな顔で言う。


「この身体の軽さは、バフだろう。誰のサポートだ?」


 ミシェルはササラを見やった。

 ミシェル自身でないのならば、消去法でいけばササラしかいない。


 そのササラは、みなの視線を集めていることに気付き、恥ずかしそうに頬を染めた。


「ええ、わたしです。皆さんの高い実力には不必要かと思いましたが、それでも、わたしも何か役に立ちたく思いまして」


 説明不足と思ったようで、少したってから、ササラは遠慮深そうに続ける。


「これは《上昇志向》という、少し変わったサポートスキルです。パーティメンバーにバフ効果を付与できますが、そのバフの内容は、それぞれの上昇志向によって比例する、というものです。すなわち、より高みを目指している者は、よく強く、よく速くなることができますね」


「そうだったのか」

 と甲夜。

「感謝する、ササラ」


「いえ、感謝なんてとんでもない」


 ミシェルがぞっとしたのは、アガがササラを見る目。

 あれは惚れた目ではないか。

 確かにササラは見目麗しく、かつ遠慮深い性格で、サポーターとしても優れている。


 男が惚れてもおかしくはない。

 ササラという人間が実在するならば。


〈風の帝〉さえも、ササラの正体については、これっぽっちも疑っていないようだ。

 完璧なる偽装。ソルトもここまではうまくできなかっただろう。


 移動を再開。

 いくら敵が強敵ぞろいとはいえ、モブ敵を片付けるのは、アガと甲夜の二人に任せておけそうだ。


 そんな二人の高火力アタッカーを後ろから見守りつつ、小声でササラに尋ねる。


「……サポートスキルも持っているのか。【虐殺娘】というものは」


 ササラ、すなわちセーラが面倒そうに言う。


「この程度のバフスキルは、ね。魔人幹部は、意外と持っているわよ。ただ仲間と戦うことはないから、使いどころが少ないだけで。そしてなぜか、冒険者へのデバフ攻撃の手は少ないときている。これも、サリアが制限をもうけていたせいね~」


「《上昇志向》というスキルは、初耳だ」


「そんなスキルはないもの。あたしがかけたのは、《生命の塵》というスキルで──」


「なんだって?」


「当人の生命力を削って、ステータス強化を行うというもので──くす。そんな怒った顔はしないことね。『生命力を削る』といっても、たいしたことはないのよ。寿命が数日減る程度で。たかが数日じゃないの」


「……」


 ミシェルが何か言う前に、先を進む甲夜とアガが立ち止まる。


〈風の帝〉が警戒した様子で言う。


「気をつけろ。『特異点魔物』だ」



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