80,有能か。
〈蟻塚〉の推奨レベルは420以上。
このパーティならば、それぞれソロでも攻略できるだろう。というより、ソロのほうが手っ取り早いかもしれない。
このパーティの欠点は、まずアガが、リーダーの〈風の帝〉に対して拒絶反応を起こしている点。
甲夜がどうこうというより、アガはなぜか〈帝〉に反感を抱いているようだ。
まさか自分が〈帝〉になることができないから、ではないだろう。
〈帝〉になりたいのならば、〈水の帝〉の座を求めて、もっとやる気になっているはず。
アガにはアガの冒険者としての歴史があり、その積み重ねのどこかで、〈帝〉反感が根付いた。
仕方ない。
対して〈風の帝〉の甲夜も、リーダーとしては問題があった。
そもそもリーダータイプでないことは確か。一匹狼タイプ。ただしギルドの命令には忠実なので、パーティを率いる立場には立ったと。
とにかくリーダーをやる気がない者が率い、かつそのリーダーに反感を抱いている者がいる。
これで、うまくいったら奇跡だ。
だが、なぜか上手くいく。
さくさくと、高いレベルのモブ敵を撃破しながら、アガが上機嫌で言う。
「へっ。今日は身体が軽いな。オレ一人で充分だぜ」
アガとは離れたところで、斧槍を振るっていた甲夜が、不可解そうな顔で言う。
「この身体の軽さは、バフだろう。誰のサポートだ?」
ミシェルはササラを見やった。
ミシェル自身でないのならば、消去法でいけばササラしかいない。
そのササラは、みなの視線を集めていることに気付き、恥ずかしそうに頬を染めた。
「ええ、わたしです。皆さんの高い実力には不必要かと思いましたが、それでも、わたしも何か役に立ちたく思いまして」
説明不足と思ったようで、少したってから、ササラは遠慮深そうに続ける。
「これは《上昇志向》という、少し変わったサポートスキルです。パーティメンバーにバフ効果を付与できますが、そのバフの内容は、それぞれの上昇志向によって比例する、というものです。すなわち、より高みを目指している者は、よく強く、よく速くなることができますね」
「そうだったのか」
と甲夜。
「感謝する、ササラ」
「いえ、感謝なんてとんでもない」
ミシェルがぞっとしたのは、アガがササラを見る目。
あれは惚れた目ではないか。
確かにササラは見目麗しく、かつ遠慮深い性格で、サポーターとしても優れている。
男が惚れてもおかしくはない。
ササラという人間が実在するならば。
〈風の帝〉さえも、ササラの正体については、これっぽっちも疑っていないようだ。
完璧なる偽装。ソルトもここまではうまくできなかっただろう。
移動を再開。
いくら敵が強敵ぞろいとはいえ、モブ敵を片付けるのは、アガと甲夜の二人に任せておけそうだ。
そんな二人の高火力アタッカーを後ろから見守りつつ、小声でササラに尋ねる。
「……サポートスキルも持っているのか。【虐殺娘】というものは」
ササラ、すなわちセーラが面倒そうに言う。
「この程度のバフスキルは、ね。魔人幹部は、意外と持っているわよ。ただ仲間と戦うことはないから、使いどころが少ないだけで。そしてなぜか、冒険者へのデバフ攻撃の手は少ないときている。これも、サリアが制限をもうけていたせいね~」
「《上昇志向》というスキルは、初耳だ」
「そんなスキルはないもの。あたしがかけたのは、《生命の塵》というスキルで──」
「なんだって?」
「当人の生命力を削って、ステータス強化を行うというもので──くす。そんな怒った顔はしないことね。『生命力を削る』といっても、たいしたことはないのよ。寿命が数日減る程度で。たかが数日じゃないの」
「……」
ミシェルが何か言う前に、先を進む甲夜とアガが立ち止まる。
〈風の帝〉が警戒した様子で言う。
「気をつけろ。『特異点魔物』だ」




