8,聖女が不憫すぎる。
派遣先は、〈聖なる呪われた墓地〉というダンジョン。
聖なる、呪われた……この矛盾、誰か気づいている?
メイン攻略ルートではなく、ボスを任されているのは、【堕落した聖女】。
本名は、メアリー。
確かに堕落した聖女なら、まぁ『聖なる呪われた』かもしれん。
で、このダンジョン、冒険者たちにメチャクチャ人気なのだとか。
難易度はC⁺程度。
本来なら中級冒険者あたりが好みそうだが、もっと下級冒険者が背伸びしたり、レベル400くらいの最上位プレイヤーも何度も来たりする。
なぜか?
それはここの敵モブである、徘徊するゾンビたちが原因。元は僧侶だったものが、魂が腐敗しゾンビ化したのだが。
このゾンビが人気。
というのも、ドロップアイテムのレア度が異常に高い。
理由はよく分からないが。
この倒されたときにドロップするアイテムは、〈魂の欠片〉のようなものを覗けば、ランダム。
魔人側さえもコントロールできない。
かつてサリア様は、『アイテムドロップはわらわよりも上位の存在が操作している』と仰っていたが。
サリア様よりも上位だと……
とにかく、僧侶ゾンビどもはたいした難敵ではない。それなのに得られるドロップアイテムの割りがいい。ハクスラするには申し分ない。
そんなこんなで冒険者どもの入れ食い状態。おかげでモブ敵の僧侶ゾンビの復活が追い付かず、ダンジョンボスの〈堕落した聖女〉は半泣き状態。
本名メアリーは、修道女の衣服を着ていた。
堕落したというのでどんな性悪かと思ったが、案に反して、清純そうな見た目。
性格もとても良さそう。
人間の姿であり、とても美少女。空色の髪に、雪白の肌。
で、繰り返すが涙目。
「ソルトさんですね!」
おれがボス部屋を訪れると、さっそくそう声をかけられる。なんか、救世主でも来たような期待の眼差しで。
派遣ってもっと軽い感じだと思っていたんだが。
「……そうだけど」
「セーラから話は聞いています!」
呼び捨てするほど親しい関係なのか。まぁ魔人の年頃の女の子は、そんなにいないからな。そもそも人型自体が、半分だし。
「さっそくで申し訳ないんですが、もう助けてください! 冒険者たちにわたしの手下たちが殺されすぎて、復活は追いつかないし。わたしももう、『ついで』で殺されすぎて、ボロボロです!」
ついでって……。
僧侶ゾンビからレアアイテムを入手しまくって、最後に【堕落した聖女】を倒して帰ろう、ってことか。
確かにボスが倒されると、ダンジョン入口までの転移ゲートが開くが。ゲート目当てで殺されるボス……不憫すぎる!
「ああぁぁ、また冒険者がここまで来てしまいましたぁぁ!」
と、ボス部屋前の映像を見て、頭を抱えるメアリー。これは精神的にかなりきているようだ。
「えーと。とりあえず、ボス部屋前のモブ敵として、時間稼いでくるから」
「撃破、お願いできます?」
「撃破? あー、任せておけ」
すがるように言われては、請け合うしかない。
というわけで、ボス部屋を出る。
バトルフォルムで待ち構えると、一人の冒険者がやってきた。ソロプレイヤーか。
強いぞ、これ。
こちらはボスとして、冒険者のレベルやステータス、装備一式をざっと確認することができる。
こまかいステ振りはともかく、こいつのレベルは310。
かなりの上位冒険者。
しかも装備も、レア度が高く、攻撃力重視できている。武者スタイル。
で、おれを見るなり、そいつは大笑いしだした。
「おいおい【破壊卿】じゃないか! かつてのボスが、こんなところで雑魚枠とはな。笑え過ぎて腹が痛い!」
「……そりゃどうも」
「だがこれはラッキーだぜ。お前、モブ敵になっても、落とす魔水晶の量は変わらないんだろ?」
「あー、確かに」
倒されたときぶちまける魔水晶の量は、階級ではなく個体に紐づけられているので、モブ敵になっても変わらないはず。
武者タイプの冒険者が笑って。
「へっ。今回のドロップアイテムはたいした収穫ではなかったからな。仕方ないから、見た目は美女だが、ろくに魔水晶も寄越さない雑魚聖女を殺して帰るか、と思っていたが。その前に、元ボスのお前から、がっぽり魔水晶を得られるとはな。ツイているぜ、まったく」
『雑魚聖女』だと?
メアリーとは会ったばかりだが、この言われようは許せん。
こいつは、殺すしかない。【破壊卿】の名にかけて。
「ディレイ……ディレイするぞ……ディレイ……よし、やってみるか」