77,ササラ。
「何が嬉しくて、〈風の帝〉と同じパーティにならなきゃならねぇんだ」
とアガがぼやく。
さすがに当人はいないところで。
パーティを組まされたのち、ひとまず解散となった。
それぞれアイテムなどをそろえ、準備が整ったら再集合と。
ミシェルはアガとともに、近くの道具屋に寄った。
回復魔法を会得しない限り、どこまでレベルが上がっても、ポーションには頼るものだ。そしてミシェルやアガのジョブでは、回復魔法とは縁がない。
「〈風の帝〉か」
ミシェルは〈風の帝〉について一考する。
〈風の帝〉の甲夜は無口な、20代の男。とくにこれまで接点はなかったが、風属性魔術を絡めた斧槍術が得意だと聞く。
いずれにせよ〈帝〉の一人なのだから実力は確かだろう。
「しかし彼もアタッカーだ」
「あぁ? なんだって?」
このパーティには、アタッカーが三人もいる。〈風の帝〉とアガはアタッカー。とくに最前線で戦うので、前衛型。
ドラゴンライダーのミシェルは、後方支援も可能だし、空中からの遠距離攻撃も可能なので、後衛型。しかしアタッカーであることに変わりはない。四人パーティでアタッカーが三人とは。
「バランスに欠いてはいないか?」
「ギルド役員の割り当てなんぞ、適当なものなんだろうさ」
「そうだろうか」
確かに突破力のあるアタッカーをそろえて、パーティの火力を最大まで上げよう、という作戦なのかもしれない。
ところで、四人目の冒険者のジョブはなんだろうか。
装備からジョブの推測がつく場合も多いが、四人目は一見したところは、なんともいえなかった。
歳は18前後。ふしぎな雰囲気の女性だ。
ギルド本部で視線があったとき、同性でありながら、少しドキッとしてしまった。
「アガ、彼女のことを知っているかい?」
「ああ。ササラとかいう名だったな」
「ジョブは?」
普段パーティを組んでいない者に、いきなりどの役割か、と聞いても仕方ない。
ジョブによっては、複数の役割がいける、ということもあるし(そういえば〈グラディエーター〉のアガならば、タンクもいけるかもしれない。当人がやる気になってくれたら)。
「さぁな。ジョブは知らんが、噂だと、たった半月で冒険者レベルを駆け上がったそうだぜ」
「半月……冗談ではないのか?」
「さぁな。オレが聞いた話じゃ、あのササラが冒険者登録したのは、半月前ということだ。そして、いまこの討伐クエストの招集に呼ばれた」
「よほど効率のよいレベル上げ方法を見つけたのだろうか」
冒険者になる前から実力があれば、あとは効率よく稼げる穴場を見つけたら、誰にも知られずにレベル400まで駆け上がる、ということもありえなくなはないが。
「とにかくジョブだけでも聞くべきだろう」
冒険者ギルド本部に戻ると、すでにササラは待機していた。
天井を眺めながら、ボーっとしている。
ミシェルは試しに、気配を消して、ササラの背後から近づいてみた。
これで反応を示すかどうかで、少しは実力を推し量れるだろう。
だがササラは何ら反応せず。
ミシェルはいくらか落胆してから、咳払いした。
ササラがはっとした様子で、振り返る。
「あら、あなたは同じパーティの、」
「ミシェルだ。よろしく。ところで、あなたのジョブについて聞いても構わないか?」
「どのようなジョブがご所望です?」
「どのような? ……よく分からないが」
「そうですか。では、ヒーラーにしておきましょう。このパーティ、アタッカーは余っているようですし」
「……」
この女はふざけているのだろうか、とミシェルは疑問に思った。
このとき、ふと引っかかることを覚えた。
なんというか──ミシェルは、前にもこのササラに会ったことがあるような。
しかも、考えもしないところで。
その点を尋ねる前に、〈風の帝〉が戻ってくる。
そして、ミシェル、アガ、ササラがそろっていることを確かめると、信じられないことを話しだした。
「先に言っておく。われわれの標的は、狂戦士バンザイではない」
ミシェルは、ほかの三人を代表して尋ねた。
「どういうことだ?」
「どういうわけか、同じときに二つの『特異点魔物』が出現した。我々は、もう一体の『特異点魔物』を狩りにいくことになる。それがギルド本部からの極秘指令だ」
「極秘? なぜ極秘に──」
「準備はできたな、すぐに出発するぞ」




