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75/107

75,精鋭の討伐チーム。

 

 ──ミシェルの視点──


〈冒険者を憂慮する会〉の幹事。

 またはドラゴンライダーのミシェルは、その日、冒険者ギルド本部に呼び出されていた。


「セシリア。王都まで行くので、今夜は帰れないと思う」


 と、セシリア(偽名)の勇者少女に声をかける。


「そう。いってらっしゃい」


 勇者少女は庭に吊るしたハンモックで、朝からゴロゴロしていた。

 話によると、魔人の13幹部を倒し、ほぼ【破壊卿】も撃破寸前だったという(この最後の部分については、【破壊卿】は否定しているが)。


 つまり冒険者として目覚めて、わずか十日で、すべての冒険者が達成したいと願っていること、それでもまずほぼ全ての冒険者が成し遂げることのできぬまま生を終える、そんな偉業をやってしまったわけだ。

 わずか14歳で。


 となると、あとの人生は暇だろう。

 そこはつい同情してしまう。ただ当人は、とくに気にもしていないようだが。


 王都に向かいながら、【破壊卿】は上手くやっているようだ、と考える。

 モブ敵の狂戦士として──バンザイという名は言ってやるまい。気の毒だ──冒険者たちを撃破している。


 このプランの行きつくところ、ボスという概念が消滅するのかは不明だが。

 というより、いまいち論理が破綻しているとも思える。


(なぜ、『ボスより強いモブ敵』が存在感を示すことで、ボスが意味をなくすのか。結局のところ、たった一体のイレギュラーでしかないのに。

 しかしセシリアには、まだこの先の考えがあり、ただ明かしていないだけなのだろう。

 なんといっても、かの闇女神サリアの生まれ変わり、という話ではないか)


 と考えて、ミシェルは自分を納得させていた。


 王都のギルド本部は、妙に賑わっていた。


「何事だろう」


 どうやら各地から、腕利きの冒険者たちが呼ばれているらしい。

〈帝〉の一人、〈風の帝〉の甲夜の姿もある。ギルド支配領域の中でも、もっとも東方の国からの参戦とは。


「ざっと見たところ、冒険者レベル400が最低基準か」


 もちろんレベル400以上が全員呼ばれているわけではないようだが。〈帝〉も甲夜一人のようだし。


「これは何事だ」


 と、一人呟いたところ、そばにいた長身の男が反応した。スキンヘッドの。


「おお、ミシェルか。お前さんも呼ばれていたのか」


「うん? あぁ、アガか」


 近接の戦闘ジョブ──確かグラディエーターとか──の。


 アガはうなずいた。


「地の底のダンジョン以来だな。元気していたか」


 名前を間違っていなかったようで、ホッとした。

 実のところ、ミシェルは他人の名前を覚えるのは、得意ではない。冒険者の死亡率を考えると、次に会う確率のほうが低いのだし。


「ところで、あなたも冒険者レベルは──」


「415だ。冒険者の実力はレベルだけでは推し量れるものではないが」


「スキルのほうが重要だ」


 ケイティはこの場にはいないが、おそらくその実力は、すでに〈帝〉に匹敵する。

 レベルはまだ325付近だったはずだが。


 アガも同感のようでうなずいた。


「ああ。だがギルド側としては、レベルで判断するのが簡単だろう」


「ここに集めた者たちに、クエストを出すつもりだろうか。しかし、わざわざ呼び出してまですることか?」


「または、オレたちでパーティを組ませる気かもしれん」


「この人数で? 信じがたい」


 ただし何組かのパーティを作るつもりなら、ありえるかもしれないが。

 いずれにせよ、異常な事態ではある。


 やがてギルド本部の者が出てきて、みなの注意を引いた。

 本部役員らしく、単刀直入に話し出す。そちらのほうが、有難い。


「ここに集まってもらったみなには、ある『特異点魔物』の討伐にあたってもらいたい。最重要かつ、難易度SSSランクのクエストとなるだろう」


 ミシェルは小首をかしげた。


「『特異点魔物』? 聞いたことがない」


 意外と物知りだったアガが説明してくれた。


「魔物の単独名というより、常識を逸脱した魔物につける呼称らしい。オレのじいさんの代に現れたきりだったがな」


「常識を逸脱した? それは確かに、精鋭で討伐したくなる気持ちも分かる」


【破壊卿】ならば、情報を知っているかもしれない。


 などと考えていたら、本部役員がその『特異点魔物』の名を口にした。


「討伐対象の魔物の出現ダンジョンは、〈トール塚〉。名は、狂戦士バンザイという」


(考えてみれば、そうなるか)


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