73,愛弟子。
アーグには悪いが、おれの愛弟子といえるのは、このケイティだろう。
そんな愛弟子たるケイティが、力を見せたいという。
断ることはできんな。
「後悔はするな、ケイティ。おれは本気で行くぞ」
「はい、お願いします!」
ということで、バトルフォルムに戻る。
本気でいくと口ではいいつつ、まぁ手は抜いてしまうだろうが。ケイティに失礼かもしれないが、弟子をうっかり殺すと、寝覚めが悪い。
ケイティが跳躍し、双剣スキル攻撃のコンボ。
この流れるような技の数々。
こちらは受け流すのがやっとか。
「腕をあげたな」
と、一生に一度は言ってみたかった言葉。
ケイティの場合、パッシブスキル《上限突破》のバフのため、基本ステータス数値が二倍。
冒険者レベル325の二倍──とまでは、単純な計算にはならない。が、ケイティがレベル以上であることは間違いない。
〈魔滅の大槌〉と〈双蛾の斧〉を振り上げ、連続して振り落とす。通常ディレイを混ぜての連続攻撃。ケイティは防御スキルを使いつつ、パリィは発動せずに後方へ。
ここで、こちらも少しは技を見せよう。
バトルフォルム時しか使えない、というか滅多に使わない狙撃スキル。
空中に飛行魔獣を召喚。
これが反射板の役割となり、〈魔滅の大槌〉で撃つ魔弾を反射させる。複数反射は先読みできず、冒険者の背後から襲いかかるという、なかなか凝った嗜好。
なぜパワータイプのおれがこんな技を身に着けているかといえば、少し訳がある。
〈暴力墓〉は『はじめの関門』として冒険者たちに利用されていたが、順当にいけば次のダンジョン、そこのボスは魔弾を自由自在に打ち分ける、ジョブでいえばスナイパーに相当。
このボスの弾道操作に、冒険者たちが手を焼いていると聞いたので、まずはおれが練習がてら、似たような攻撃を使ってやろうと思ったわけだ。
まぁ、〈破壊卿〉のタイプとはあまりに趣向が異なるので、不興でやめたが。
「そこです!」
ケイティが背後を見ずに、魔法剣〈ゴーグの剣〉を一閃。
風属性発動。その強風が、こちらの魔弾を弾き飛ばす。
さらにケイティの身体自身が風にのり、おれの視界の外へ。
おっさんになったせいか、動体視力が……
などと嘆いている場合ではないと視線で追ったが、ケイティの姿が消えた。
「ふむ。消えた」
我ながら、分かり切ったことを呟いたものだ。
不可視系のスキルでも身につけたのだろうか。いや、そこまで便利なスキルを会得するには、相応のジョブに転職する必要があるが。
というか、なんのジョブだっけ?
いまのケイティはアサシンのなので、該当ジョブでないことは明らか。
アサシンか。
スキル《絶の配》で、完全に気配を消しているのか。しかし物音は出るはず。では音を消すバフもかけたか。
だが姿を消せるか?
そう、おれの視界の外に常にいつづけているのならば、それもできよう。第三者が見たら、ちと滑稽だな。まぁ効果的だが。
しかし可能か? こちらの動きを読み取る感知スキルと、肉体速度が追い付いているのならば。
「ならば、どこに攻撃すればいいか分かるというものだ」
振り返りざまの必殺技《魔滅弾》。
あ、しまった。ディレイをかけ忘れた。
これを待っていたケイティがパリィスキル発動に入る。
通常ディレイは間に合わないが、時間跳躍ならばいける。
いけるが、しかし。
ここは愛弟子に花を持たせるときと見た。
パリィを決められ、体勢が崩れる。
「《覇・滅の斬》!」
斬撃系の必殺技をまともに受けたおれは、真っ二つにされたのだった。
ここまで気持ちよく殺されるのも、珍しい。
死んだので、復活を。
復活……復活……復活…………。
あれ?




