表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

71/107

71,モブ敵が冒険者を育てる。

 


 その後。


 おれは、手ごろなダンジョンとして、〈トール塚〉を選んだ。


〈トール塚〉。冒険者ギルド側の推奨レベルは35。


 この推奨レベルは正しい。

 冒険者ギルドのギルマスが推奨レベルを改ざんしているのは事実だろうが、すべてのダンジョンではないようだ。


 そもそもこの〈トール塚〉の不人気なこと。

 しかし、とりあえずは不人気ダンジョンから、様子見で始めることにしたわけだ。


 勇者少女の理屈は、どうも納得のいかないところもある。

『ボスよりも強いモブ敵』が現れたからといって、ボスという概念は消えないように思える。


 そもそもボスがいなくなることが、冒険者の衰退阻止につながるのか。

 いや、ボスという概念をなくすことで、おれが魔人の王になるんだっけか。

 そんなものになりたくはないが。


 勇者少女は、まだ何か隠しているような。

 サリア様の生まれ変わりであるならば、何かおれが知らない『システムの欠陥』を知っているのか?


 とにかく〈トール塚〉のボスは、〈土くれの王〉。別名ゴーレムキング。

 基本的に、土属性攻撃しか持ってないです、みたいな偏った冒険者でなければ、攻略は難しくない。


 あと、頭の回転が遅いので、ここに置いてもらうよう説得するのにも、バカに時間がかかった。


 なにはともあれ、〈トール塚〉のモブ敵として、配置は取った。


 人間フォルムのまま、名前は狂戦士バンザイ。

 武器は、愛用の〈魔滅の大槌〉。

 ただし偽装は施してある。〈魔滅の大槌〉と【破壊卿】はセットのようなものだからな。


 まぁ大雑把な偽装なので、察しのよい冒険者には怪しまれるかもしれないが。


 それからは、〈トール塚〉の攻略に挑んできた冒険者の前に立ちふさがる日々。

 モブ敵として。


 レベル35前後の冒険者、ディレイを会得した身では──たとえ〈時間跳躍〉版を使わずとも、敵ではない。


 だからといって全員殺してしまっては、『ボスより強いモブ敵がいる』という噂を広めてくれる者がいなくなる。


 だからこそ、将来有望な冒険者は目撃者として生かし、時たま『これは堕落しているな』という冒険者は、容赦なく殺す。


 別に慈善事業ではないので、殺すときは殺す。


 で、現在。


 ダガーという冒険者が、失った右足を抱えるようにして転げまわっている。


 このダガーは、生かすつもりだ。

 レベルカンストまで鍛錬を積んできた男を、ここで殺すつもりはない。


 右足を失っても、スキルレベルの高い回復術士を見つければ、再生してもらえるしな。


 ところが──まてよ。この冒険者、かなり場数を踏んでいると思ったが、まさか止血もできないのか。

 回復魔法の類がなくとも、最低限の訓練さえ積んでいれば止血くらいはできるものだが。


 そうか。『右足を失った』という衝撃的事実に、動揺しすぎて、止血どころではないのか。

 このままだと失血死しそうなので、仕方ない。


 火炎属性攻撃は不慣れだが、まぁやるか。


 シンプルに《ファイヤ》を右手に纏い、あたかも属性攻撃のようにして、ダガーの右足の破砕面を焼いた。

 焼いての止血。乱暴だが、よし。


「さぁ、これからトドメをさすぞ。トドメを」


〈魔滅の大槌〉をゆっくりと持ち上げる。


 こっちとしては、冒険者ダガーには這って逃げてもらいたいわけだ。

 ところが、変なところで諦めが早い。


「く、くそぉぉぉ、殺すなら殺せ!!」


 と、謎の覚悟を決められた。


 困るなぁ。この男は、冒険者の将来のためにも、まだまだ生きていてもらわなきゃならないのに。


 計画変更。

 おれは〈魔滅の大槌〉をおろし、厳か──を意識して話した。


「ふん。貴様のような雑魚、殺すだけ時間の無駄だ。雑魚は雑魚らしく、惨めに生き延びるがよい」


 これで奮起しなかったら、やっぱ殺そうかな。


 だがダガーは、さすがにプライドを傷つけられたようで、怒りの声で言う。


「舐めるなよ! 次に戻ってきたとき、必ずお前を殺すぞ!」


 そうして片足歩きで去っていった。


 頑張ってくれ。


 結局のところ、冒険者を育てるのは、われわれということだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ