70,拒否権は?
ダガーは不必要に派手なことはしない性格だ。
確実に倒せる流れが見えたとき、余計な魔法の大技などは使わない。
敵が振り下ろす大槌にあわて、確実なパリィを決める。
それでダウンを取って、致命の一撃という流れ。
さらに必殺との一撃力を高めるため、一点集中スキルで攻撃力アップのバフをかけておく。
また万が一パリィが失敗した場合にそなえて、火炎系広範囲魔法 《ファイアウォール》をスタンバイしておいた。
これがダガーと狂戦士バンザイの間を走ることになる。
つまり、パリィが失敗しても、バンザイの一撃を受ける前に、《ファイアウォール》が防壁がわりとなってくれるわけだ。
うまくすれば、バンザイに被弾させ、燃焼状態に持っていくこともできる。ところで、この敵の火炎耐性は……
「いくぞ! 貴様がモブ敵でしかないことを証明してやろう!」
狂戦士バンザイが、再度、大槌を振り上げた。
ダガーはパリィに入る。
しかしバンザイが、不可解なまでのディレイをかけたため、タイミングをずらされる。
さらに《ファイアウオール》が、振り下ろされる大槌が発する狂風によって吹き飛ばされる。
なんという威力だ。
「だがこの程度で、俺は動じぬぞ!」
魔術と筋力を極めた者にこそ放てる、この必殺の大技を解き放つときだ。
「粉みじんに吹き飛ぶことだろうが──《魔壕斬》!!!」
刹那。
《魔壕斬》は放たれたが、バンザイには命中せず。
バンザイが消えて、また現れたためだ。
瞬間移動の類か? または──
「何が、起きた?」
「時間跳躍」
「な、なんだと! こんな、ことが──!」
大技を放てば硬直時間がある。
仕留めるはずだった一撃が外れたことで、ダガーは無防備となり。
そこに、バンザイの大槌が叩き込まれるのだった。
ただし命をとられる頭部ではなく、それは右足を抉り取った。
右膝から下が消え去る。血が噴き出し、ダガーはのたうち回った。
「ぐぁぁぁぁぁ!!!」
「はい、どうもー」
──ソルトの視点──
振り返ること、一か月前。
勇者少女が起ち上げた、『ボスより強いモブ敵がいると、最終的にボス制度が崩壊する』理論を証明することになった。
というか、おれがその仕事をさせられることになったわけだ。
何が嬉しくて、こんなことを……
勇者少女が進める。
「どこのダンジョンを使うかとかは、そっちに任せるわ。ただ【破壊卿】での登場はやめてよ。結局のところ、【破壊卿】は元ボス。いくらモブ敵と主張しても、厳密にはモブ敵にはならない。あと当然だけど、攻略難度最高のラスダン〈紫ガ城〉でのモブ敵は、やめてよ。意味がないわ」
「ダンジョンのほうはこっちで調整するが。【破壊卿】は誰もが知っているので、いまさら隠しようがないんじゃないか」
「バトルフォルムなら、ね。人間フォルムのままで登場すれば、誰も分からないでしょう。そうね。何か、それらしい防具でも装備すれば」
確かに、これまでボスをしていたときも、冒険者が来るときはたいていバトルフォルムからの登場だった。
時おり人間フォルムで出るときもあったが、基本的に人間フォルム時のおれは、『どこにでもいるおっさん』なので、特別に容姿を記憶されているとも思えない。
「【破壊卿】でないのなら、別の名前がいるな」
実のところ、少し乗り気になってきた。
これまで【破壊卿】としての魔人ライフしか送ってこなかったので、新たな魔物として生きてみるのも、新鮮で楽しいかもしれない。
このまえ、冒険者をしたときのように。
「狂戦士バンザイ」
と勇者少女が、唐突にほざいた。
「……なんだ、そのダサい名前は?」
「あなたの第二の名前。いま、決まったわ」
狂戦士バンザイ……え、拒否権は?




