69,ボスよりも強いモブ敵が……。
──冒険者ダガーの視点──
ダガー、ジョブはソードマスター。
レベルは523。カンスト済み。
〈帝〉の一人にと推薦されたこともあったが、ダガー自身が断っている。
〈帝〉などという肩書きに興味はない。
興味があるのは、ただひとつ。
強きものとの戦い。
ダガーの冒険者人生は、まさしくこれだった。
強いものと戦い、それを乗り越えていくこと。
そして、ある時点まで、ダガーの戦いの人生は順風満帆だった。
ある時点──〈ガリア城塞〉に挑むまでは。
〈ガリア城塞〉のボス、幹部でもなんでもない、見た目は女児の魔人【虐殺娘】に撃破されるまでは。
それでもダガーはなんとか生き延びた。
そしてリベンジのため、さらなる力を求め、各地のダンジョンを巡っている。
レベル上げでは、もう強くはなれない。上限に達してしまったため。
ただしレベルカンスト後も、劇的に強くする方法はある。転職だ。
もとは魔術師〈ウィッチキング〉のジョブでカンストまでしたダガーだったが、のちに戦士系であるいまの〈ソードマスター〉へとジョブチェンジ。
ジョブが変わることで、レベルこそ上がらずとも、魔水晶を得ることで、〈ウィッチキング〉時代とは別のステータス数値を上げることができる。
簡単にいえば、魔術と脳筋の掛け算だ。
今回、辺境のダンジョン〈トール塚〉に来たのには、ちょっとした噂を聞いたためだ。
〈トール塚〉のモブ敵が、そんじょそこらのボスよりも強い、という。
もともと〈トール塚〉は、推奨レベル35程度の、いまのダガーには攻略が児戯に等しい場所でしかない。
しかし、この噂が真実だとするならば。
そんなはずはないだろうが、万が一ということもある。
そこでダガーは、試しに攻略に挑んでみた。
攻略といっても、〈トール塚〉の道中のモブ敵は、あまりに歯ごたえがない。
これは時間の無駄だったかと思ったころ。
変哲のない通路を、早歩きで向かってくる、人型の魔物がいた。
「どうも。いや、失礼。ちょっと、食事していた。ほら、このダンジョン、まったく魔物たちのやる気がないから、それにつられて」
ダガーは怪訝に思う。
「お前は、見たことのない魔物だが。このように意思疎通がはかれるということは、かなり上位種なのだろう」
「まぁ、そうかもしれないし、そうでないかもしれない。いずれにせよ、ただのモブ敵だよ」
「いや、お前が噂の『ボスよりも強いモブ敵』だろう? ならば固有名くらいはあるはず。殺す前に、名を聞いておいてやろう」
そのモブ敵は、嫌そうな顔で言った。
「名は──狂戦士バンザイ」
「なんだと? ふざけた名前だが」
「あのな。おれが名付けたわけじゃない。命名者は、おれじゃない。それだけは覚えていてくれたまえ。そして、殺しはしないが、撃破はさせてもらうぜ」
ダガーはくっくと笑った。
いくらか『ボスより強いモブ敵』と呼ばれて、図に乗っているようだ。
たかが推奨レベル35。やってくる冒険者もたいしたことのない底辺たちなのだろう。
そういった低次元の冒険者たちを撃破した程度で、勘違いしてしまったか。
「身の程というものを教えてやらねばなるまい」
火炎属性付与をかけた魔法剣を構える。
「いくぞ!!」
狂戦士バンザイは、右手に巨大な大槌を召喚する。
ダガーは、あの大槌をどこかで見た気がしたが。
「人型でこれを持つのは、大変なんだ」
狂戦士バンザイは、大槌を大きく振り上げる。
ダガーが後ろにとぶと、大槌が振り下ろされる。
かなり破壊力のありそうな一撃だ。
だが、これは。
ダガーはニヤッと笑った。
(なんとも、パリィしがいのある大振りではないか。次で決まりだな)




