67,隠しラスボス。
〈紫ガ城〉に戻って3日後。
城内を巡回している首無し騎士アーグから救援要請が来た。
ボコられているらしい。
〈紫ガ城〉内に出入りでき、かつアーグをボコるときたら、妹のセーラくらいなものか。
それで様子を見にいったら、セーラではなく、勇者少女だった。
憐れなアーグを『不可視の刃』で刻んでいる。
ふと思うに。
セーラと、勇者少女。
この二人、年代も強さも、押しの強い性格も似ている。
絶対に鉢合わせしたら殺し合いでもはじめそう。
……まぁ、そういうネガティブな想像はやめておこう。もしかしたら無二の親友になるかもしれん。それはそれで、なんか偉いことになりそうだが。
「で、勇者少女。うちのアーグを切り刻みにきたのか?」
そういえば、ケイティと別れてから、『何か忘れているような』と思っていたのは、勇者少女のことだったか。
勇者少女はきょとんとした顔で。
「え? いいえ、違うわ。わたしは、あなたに会いにきたのよ。それなのに、この首無しが攻撃を仕掛けてくるから、刻んでいたわけ」
「……アーグ。お前も、自殺願望が強い奴だ……で、勇者少女。何の用だ?」
「わたしたち、〈冒険者の未来を憂う会〉の作戦会議をするから、呼びにきたのよ」
〈冒険者の未来を憂う会〉?
そんなヘンテコな組織に属した覚えはないが。
ただ、サリア様の転生者 (らしい)勇者少女は、サリア様が冒険者の衰退を嘆いていると、言っていた。
そして、確かに冒険者は衰退しているのかもしれん。
「まてよ。〈暴力墓〉を弱体化させたのは、まさか君だったのか?」
「私が? いいえ。〈暴力墓〉が弱体化したようだ、という話なら、ミシェルから聞いたけれども。なぜ、私だと思うのよ?」
「まぁ、〈サリアの大樹〉を拡張させた君ならば、それくらいやりそうだったから」
「そういうことができるのなら、〈冒険者の未来を憂う会〉の初代会長に就任したりはしないわよ」
「あー、会長職とか、あるんだ。ところで、ほかに会員は?」
「まず、あなた」
「ふむ。だろうな」
「そして、ミシェル」
「意外ではない」
ドラゴンライダーのミシェルは、冒険者の立場から、冒険者全体の衰退を見抜いていた。
そのことを踏まえて、勇者少女をミシェルのもとへ行かせたわけだが、どうやら意気投合したようだな。
「いまのところは、これだけよ」
「面白そうな会があるのね」
と、第三者の声がする。
うーん、マジか。
視線を転ずると、こんどこそセーラが、通路を歩いてくる。そばには、困った様子のメアリーが従っている。
勇者少女は冷ややかな眼差しをセーラに向けた。
「人の会話を盗みぎきするなんて、悪趣味なものね。ところで、あなたは?」
「あたしは、セーラ。そこの兄貴の妹で、まぁ冒険者のアンタには、【虐殺娘】といったほうが分かりやすいからしね」
『そこの兄貴』なので、セーラの機嫌が最悪なことがよく分かる。
朗らかな笑みを浮かべているが、それは表面的にすぎないことを。
何がそんなに機嫌を損ねることになったのか。
おれが、勇者少女を連れ込んでいたからか。連れ込んでいたわけじゃないぞ、勝手に向こうから来たんだ。
いずれにせよ、恐れていたことが起きようとしている。
勇者少女と妹の一触即発。
よし、遠くに避難して、1週間は留守にしよう。
ところが、ここで勇者少女が、狙ったのか知らんが状況を好転させる。
「【虐殺娘】。そう。あなたが、〈ガリア城塞〉の隠しラスボス」
隠しラスボス。
というフレーズを、セーラが気に入ったのは確か。
不愉快そうな顔をしたが、実際は気に入っているのが、兄のおれにはよく分かる。
「『隠しラスボス』。そんなふうに言われているの? なんだか心外ね」
勇者少女は淡々と言った。
「そう? あなたと戦ったことはないけれど、さまざまな情報から考えるに、あなたが元ラスボスの【廃都卿】を仕留めたのは確かでしょう。
実際、冒険者の誰一人、〈ガリア城塞〉に挑んで、生きて帰った者はいない。〈ガリア城塞〉が、幹部ではないボスが管理し、かつ辺境の地にあるため、過小評価されているのも事実。
ゆえに、私はあなたを『隠しラスボス』と解釈しているわよ?」
セーラがおれを見やって、
「兄貴。この人間、悪くないわね」
勇者少女。意図してか分からないが、セーラの自尊心をくすぐったか。
ある意味、勇者少女の不戦勝ではないか、これ?




