66,別れのときもある。
弱体化された【消滅卿】は、なんとも憐れだった。
だが当人は、まだそのことを受け入れられていない様子。
「ふざけるな! この僕が弱体化だと? バカにするなよ、この雑魚が!」
【消滅卿】が、専用武器のハルバードによる攻撃。攻撃全てに氷属性付与。
しかし──
【消滅卿】。お前、そんな、何も考えずに攻撃するものだから。
つい、やっちまったよ。
パリィを。
パリィされた【消滅卿】が体勢を崩し、ダウンする。
呆然とした様子で、
「な、なにが、起きたんだ? 僕が、パリィされたというのか、こんな、おっさんに」
「なんだか、悪いな。しかし、このまま帰るのも、逆に忍びないので」
〈魔滅の大槌〉を振り下ろして、【消滅卿】の頭部を潰した。
ボスを殺したので、地上に空間転移される。
待っていたケイティと合流。
ふと、見るからに新米という様子の冒険者が、とぼとぼと歩いてくるところだった。
武器店で一番安いだろう銅の剣を装備して、まだ地上なのにびくついた様子をしている。
「この先は危険だと、教えてあげますか?」
とケイティ。
「うーん。いや、その必要はないだろう。あの新米冒険者が、無事に〈暴力墓〉を攻略できるかどうかは分からんが。少なくとも、可能性はある。なぜなら、いまや〈暴力墓〉の推奨レベルは、冒険者ギルド側が評価しているものと同じになったからな」
「えーと、つまり?」
「推奨レベル5、ということだよ」
実際、よくできた内容だった。
冒険者レベル5が上層からコツコツ進め、レベルを上げていけば──50階層のボス部屋で、だいたいレベル20前後か。
そして、超絶に弱体化された【消滅卿】を倒すのに、まぁそれくらいのレベルがあれば、いけないことはないだろう。
この弱体化を行ったのが、ケイティが見たという『黒い人型の影』だったのは間違いない。
それに、おそらく闇属性スキルの何か、だろう。
ひとつ確かなのは、【消滅卿】は弱体化されたとき、撃破されたときに冒険者に差し出す魔水晶の量も、適度なものになったということだ。
これで【消滅卿】で、効率的なレベル上げ、なんてこともなくなった。
結局のところ、【消滅卿】は、程よい『はじめに撃破するボス』に成り下がった、というわけか。
〈サリアの大樹〉に設定した、『〈暴力墓〉で死んだ冒険者は復活する』も解除しておく。
もうその必要もなさそうだしな。
「せっかく【消滅卿】の消滅スキルの攻略法を見つけたんだがなぁ」
「あの、ソルトさん。わたしは、そのおかげで【消滅卿】を倒せましたよ?」
ケイティのレベルは、237に上がっている。
少なくとも、ケイティが倒したときの【消滅卿】は、推奨レベル489だった、ということだ。
それに弱体化のキッカケを作ったのも、ケイティの勝利のような気がするし。
「ま、無駄にならなくて良かった」
「はいっ!」
というわけで、おれたちは最寄りの町に戻った。
もともと冒険者をはじめたのは、〈暴力墓〉の狂った推奨レベルを修正するためだった。
が、そちらは【消滅卿】と〈暴力墓〉自体による弱体化で、捏造推奨レベルまで、難易度が下がることで解決。
やることはなくなった。
まぁ、弱体化したのは誰かとか、そもそも推奨レベルを捏造していたのは何者かとか、謎は残ってはいるが。
そろそろ、〈紫ガ城〉に戻るときだな。
「ケイティ。おれは、帰らなきゃならない。ここからは、君だけの力で進むんだ。といっても、すでにレベル237もあれば、安心だな。おっと、だからって油断はするなよ」
この別れは、ケイティも予期していたようだ。驚いた様子はない。ただ寂しそうに、切なそうな表情をしている。
「あの。また、会えますか?」
「きっと、会える気がする。どんな形にせよ」
お別れの挨拶には握手か、ハグか。
ハグったら、セクハラ呼ばわりされるかもなので、握手で済ませようか。
と思ったら、ケイティから抱き着いてきたので、抱きしめかえす。
「じゃあな」
というわけで、〈紫ガ城〉へ転移で帰る。
何か忘れているような気もするが……




