65,弱体化アプデが入りましたー。
─ソルトの視点─
100階層から地上に、ショートカットで戻っておく。
今度こそ、ケイティが勝利して戻ってくることだろう。
しばし、時間を潰していると、ふいに何かを感じた。
なんだろう。このゾッとしない感覚は。
おれはどうも、この感覚を覚えていなきゃならなかったような。
なんだっけ?
それから少しして、ケイティが戻ってきた。ボス部屋からの空間転移ワープで。
「ソルトさん、やりましたよ!!」
歓びの声をあげて、ケイティが抱き着いてくる。
「おー、おめでとう」
よしよしと頭を撫でてやったところ、いきなりケイティが顔を赤くして離れた。
「ソ、ソルトさん! ちょっと、いきなりすぎますよ!」
「何が?」
冒険者との距離感って難しいな。
「ところでケイティ、【消滅卿】との戦いはどうだった?」
「え? あ、はい。ソルトさんの攻略法と、骸骨伯爵さんの隠しバフのおかげで、なんとか勝てました。それにしても、やはり強敵でしたね」
ケイティは、【消滅卿】の氷結攻撃に、骸骨伯爵の凍結攻撃耐性アップのバフが発動したのだ、と話した。
ほう、骸骨伯爵。気が利くな。
だが問題はここから。
無事に【消滅卿】を倒したが、すぐに魔水晶は吐き出されず、それどころか『黒い人型の影』が現れたのだとか。
「不気味でしたよ。【消滅卿】以上に、凄い寒気が走りました。ですが敵意はなかったようで」
地上にいたおれも、その黒い影の『寒気』を感じていたわけか。
「その黒い人型の影は、何をしたんだ?」
「【消滅卿】の死体に両手を突っ込んでいました。それを眺めていたら、私、空間転移が起こりまして」
「……何か気になるな。ちょっと、まっていてくれ」
今回は、おれが単独で〈暴力墓〉に入る。
冒険者のまま進めてもいいが、いまは急いで気になっていることを調べたいので、【破壊卿】のバトルフォルムで進むことにした。
ところが、その必要もなかった。
〈暴力墓〉の魔物たちが、どうも弱くなっている。はじめのほうはスライムばかり。やがて少しだけ魔物レベルも上がるが──中ボスに出てきたのが、ただのホブゴブリンとはな。
おいおい、待てよ。これは、何か起きたな。
こうして50階層、ボス部屋に到着。
〈滅却絡繰り〉は使われていないので、【消滅卿】もちゃんと復活していた。
ケイティに撃破されたことで、不機嫌そうだが。
または、おれの顔を見たからか。
「なんなんだ、ソルト。あんた、何しにきた?」
「【消滅卿】。『黒い人型の影』は、どこに行った? 何か、されたのか?」
「なんだって? 一体、なんの話だ、おっさん?」
知らないのか。【消滅卿】が復活する前に、『黒い人型の影』は消えていた、というわけか。
「ソルト。ちょうどいい。僕はいま、ムシャクシャしているんだ。ストレス発散に、あんたを殺させてもらうよ、おっさん」
「魔人同士の殺し合いはご法度だぞ」
とはいえ、口封じで【護魔卿】と【無庫卿】を消してしまっているので、まぁ人のことを説教できる立場ではないが。
「知ったことか。どうせ復活するんだ。できるだけ残酷な方法で殺してやるよ、ソルト!」
「お前なぁ。性格が悪すぎるぞ。友達が逃げるぞ、そんな性格じゃ」
「凍り付いてしまえ、《氷結の陣》!」
ケイティが、対凍結のバフで乗り切ったという、【消滅卿】の隠し玉か。
しかし──。
もろに食らった、のだが。
おれの場合、対凍結バフもなし。
だというのに、冷えますね、程度。
なんだろうか。レベル5の冒険者ならば、凍結状態にはなるだろうが。
レベル20程度なら、もう耐えられる程度では?
これは【消滅卿】も意外だったらしい。
「な、なんだと? まぁ、いい。なら消してくれる、僕の消滅スキルでな!」
「ふむ………………」
通常攻撃で強制キャンセルは、おれも知っているんだぞ。
というか、おれが見出したんだしなぁ。
と言ってやろうと思ったが。
それ以前の話だ。
【消滅卿】が、いっこうに消えない。
消滅スキルの手順は、『自分の存在を消す』→『冒険者などの敵の肉体を消して殺す』のはずだが。
「どうした、お前?」
【消滅卿】は真っ青になっている。
「ど、どこにいった? 僕の、消滅スキルは、僕のチートは……」
消滅スキルが、消えた?
さらに《氷結の陣》も、ケイティのときより、だいぶ弱くなっている。メチャクチャに。
まてよ。
弱くなった。
「まさか、【消滅卿】。お前……弱体化されたのか」
しかし、誰に?




