64,勝つときは勝つ。
思いがけず、骸骨伯爵の特典、隠しバフ。
これが発動してくれたおかげで、凍結状態にならずに済んだ。
一方、せっかくの隠し玉が思いがけず潰され、【消滅卿】の癇癪がより破裂する。
「ふざけるな!! どいつもこいつも、僕をバカにしてくれる!」
そんな【消滅卿】を眺めながら、ケイティは言った。
「強いチートスキルを持ってはいますが、思い通りにいかないことがあると、癇癪を起す。ちょっと小物っぽいですね」
と、つい所感を口にしてしまった。
悪気はないのだが──子供のころから、思ったことを口にする悪い癖があった。
たいてい、それがトラブルのもとなのだ。
で、【消滅卿】はすっかり聞いていた。
「なんだと? おい、人間。少し優勢だからといって、調子に乗るなよ。たかが一介の冒険者ごときが。僕は、すべての冒険者を滅ぼすために、ここにいるんだ。サリアのバカげた方針は、ここで終わる。分かるか、僕たちが終わらせる!」
「はぁ」
よく分からないが、サリアというのは、確か魔人の女王だったような。
いや、随分前に封じられたのだったか。
(ですが、この人、サリアという女王さまに対して、リスペクトを感じませんね?)
とはいえ、今はそんなことを分析している場合でもないようだ。
【消滅卿】がハルバードを振り回しながら、つっこんできたので。
ケイティは落ち着いて、双剣で防御、からのカウンター攻撃。
瞬間。【消滅卿】が消える。
「あちらも通常攻撃とチート攻撃を絡めてきましたか。少し戦略的になってきたようですね」
ケイティの見たところ、【消滅卿】は自身の『消滅』から、冒険者の肉体を消滅させる攻撃までは、数秒は有する。
即攻撃とはいかないようだ。
なので、こちらも通常攻撃で強制キャンセルする時間がある。
何よりも、肉体を消滅させる攻撃──『虚数空間』とやらをぶつける攻撃──は、まず【消滅卿】自身が消えないと発動できないらしい。
おかげで、こちらは余裕をもって、強制キャンセルに移れる。
(ソルトさんの言っていたとおり、ちゃんと攻略方法というものはあるのですね)
通常攻撃、通常攻撃、通常攻撃。手ごたえ。
強制キャンセルで、【消滅卿】が転がり出る。
だが今回は、【消滅卿】も癇癪を起すかわりに、血まみれになりながらも、ケイティに通常攻撃を仕掛けてきた。
ケイティは双剣の片方で防御し、もう一方の剣で、斬撃スキル。
《首斬り》。
(あれ、これは成功してしまう──??)
試しの攻撃だったが、【消滅卿】は反応が遅れ、命中。
頸を半分ほど切断した。
「ぐぁぁぁぁ……!!」
【消滅卿】がうつ伏せに倒れる。頸からは魔人の血が噴き出す。といっても、人間と同じ赤い血だが。
「……」
【消滅卿】は忌々しそうに、ケイティを見上げる。
「いいか、僕は死のうとも、すぐに、復活する、僕は、不滅だ……ふめ、」
がくっと息絶える【消滅卿】。
「あの?」
返事がない、ただの屍のようだ。
「ふぅ。終わりましたか。なんとか倒せました。ですが、魔水晶が現れませんね。ボスって、こんな感じなのでしょうか?」
通常、魔物を倒すと、経験値扱いの魔水晶が吐き出されるものだが。
ボスである魔人の場合、パターンが違うのだろうか。
ところでこの魔水晶システムは、誰が始めたのだろう。
冒険者側ではないだろうし。
ふいにケイティは寒気がした。
はじめて【消滅卿】を前にしたときも感じなかった、この悪寒はなんだろうか。
ボス部屋の影が立ち上がり、人の形となった。
驚きつつ、ケイティは戦闘モード。
しかし影の形はケイティなど眼中にない様子で、【消滅卿】の死体のもとに歩みよる。
そして影の両手を【消滅卿】の肉体の中に突っ込んだ。
ケイティが眺めていると、忘れていたように、【消滅卿】の死体から魔水晶が吐き出される
「……あの、影さん? あなたは、敵なんですか?」
影はちらりとケイティを見てから、消えてしまった。
「さて、何か、私はいま、重要なことを目撃したような直感がしますね」




