63,将来有望。
【消滅卿】の腰抜けめ。
ボス部屋にモブ敵を入れるとは。
まてよ。もしや、いまの若い世代のボスは、これが当然なのか?
まぁ、いいか。こっちは、おっさんだし。
ボス部屋の設定を変えるためには、管理者権限が必要。
〈暴力墓〉を【消滅卿】に渡すさい、管理者権限も移行している。
が、これは簡単に乗っ取ることが可能だ。
こっちは、一体何百年、〈暴力墓〉にいたと思っている。
「ケイティ。ひとまず宿に戻って休むか?」
「いえ。ボス部屋のモブ敵入りを阻止できるのでしたら、私はこのまま、【消滅卿】戦に再チャレンジしたいと思います」
「その心意気は、まさしく冒険者魂だな」
長い間、あまたの冒険者と戦ってきたから、おれはそこらの年配冒険者よりも、冒険者についてよく知っている。
身内贔屓でもなく、ケイティは将来有望な冒険者だ。
ケイティが出発するのを見届ける。
それから、おれはおれでボス部屋の設定変更を始める。
ただこの作業をするためには、〈暴力墓〉の最下層まで行く必要がある。
50階層ではなく、100階層の真の最下層だな。
まずは100階層へのショートカットを開く。
このショートカットも、〈暴力墓〉のころの『昔とった杵柄』。
ショートカットで、100階層におもむく。
いまや使用されていないので無人。それでも100階層という存在そのものは、こうして残っている。
ここから管理者権限を復活させて、ボス部屋の設定項目を乗っ取る。
『ボス部屋内に魔物の侵入を許可するか?』
『いいえ』
管理者権限はおれにしたまま、設定から出た。
これで【消滅卿】は、二度とボス部屋の設定を変更できない。
「これで、よし」
──ケイティの視点──
ケイティが舞い戻ってくると、【消滅卿】は癇癪を爆発させた。
「貴様は! 一体、貴様はなんなんだ!!」
「はい、冒険者です」
ケイティとしては悪気なく真面目に答えただけだったが、これがまた【消滅卿】の気に障ったらしい。
「ふざけるなよ、貴様! いいだろう。今度こそ、四肢切断の上、拘束して地下牢に永久監禁してくれる!! 死んで蘇ることができないようにな! さぁ、来いケルベロス!!」
ケイティはケルベロスの群れの突入に身構えたが、杞憂だった。
ソルトは、ちゃんと約束を守った。
(さすがです、ソルトさん!)
狼狽した様子で、【消滅卿】が頭をかきむしる。
「な、なんだと? 管理者権限が、僕にないだと? 一体誰が──あいつか! ソルト!! あのふざけた男が!!」
ケイティは【消滅卿】を見据えながら、ゆっくりと思考が動いていった。
そして、あるタイミングで、ぱっと閃いた。
なんとも、単純な真実に。
(ソルトさんって、こっちのソルトさんですか? ソルトさんが、【破壊卿】?? 名前が同じだけかと思っていました……あっ)
【消滅卿】が消えたので、ケイティは淡々と通常攻撃の連打。
やがて通常攻撃によって、【消滅卿】の消滅スキルが強制キャンセル。
さらに通常攻撃の斬撃が、クリティカルヒットする。
またも傷を負った【消滅卿】が、喚きながら姿をあらわした。
「うぁぁぁぁぁ!! 僕をコケにしやがってぇぇぇ!!」
その右手には、いまはハルバードが握られていた。
武器を召喚したようだ。
そのハルバードからは冷気が噴き出している。
怒号していた【消滅卿】だが、ここでくっくと笑い出す。
「おい、人間の小娘。僕が【消滅卿】の名を得るまで、なんと呼ばれていたか知っているか! 氷結の貴公子だ! わが氷結魔術で、凍結状態にしてくれよう! いや、もう遅いぞ! 《氷結の陣》は、すでに完成している!!」
ケイティの足元に、冷気を吐き出す陣が作られていた。
「いつのまに!」
「さぁ、凍りづけになるがいい!!」
ケイティは身構えたが、何も起こらない。
自身の状態を確認すると、状態異常にはなっていない。
凍結状態を跳ね返す、一種のバフがかかっているようだ。
しかし、一体いつ?
【消滅卿】がまた叫んだ。
「い、い、いったい、貴様は、なんなんだぁぁ!!」
「あっ、分かりました。骸骨伯爵さんのバフ効果ですね!」




