61,攻略法って、大事。
「人間よ。まずは貴様の両足を消してやろう」
と予告してから、【消滅卿】の姿がぱっと消える。
不可視とかではなく、まさしく消滅。
それにしても、とケイティは素朴に思う。
ソルトの解説では、【消滅卿】のチートな消滅スキルの全容は、次のとおり。
その1,自身の存在を虚数空間に入れることができる。収納スキルとかでお世話になる異空間のこと。
その2,虚数空間から、『虚数空間』攻撃ができる。
この『虚数空間』攻撃とは、虚数空間そのものをぶつけてくることらしい。
ようは別次元の空間にタックルされるので、冒険者は防御力関係なく、肉体を消滅させられてしまう、と。
なんとも無敵なチート攻撃。
だから、本当に、こんな方法で撃破できるのか。
ケイティはその場を動かずに、ただ前方に向かって、双剣を振るった。
すなわち、なにもない空間に向かって、意味もなく通常攻撃。
これを続ける。
通常攻撃、通常攻撃、通常攻撃、通常攻撃、通常攻撃。
「あっ」
何度目かの通常攻撃が、手ごたえがあった。
驚きつつ確かめると、通常攻撃の当たった【消滅卿】が姿を現し、転がる。
その胸元には、ケイティの双剣の通常攻撃による傷がある。
「本当に、当たりました! それもクリティカルヒットです!」
つい歓声をあげるケイティ。
一方、驚愕の表情を浮かべる【消滅卿】。
あと、なんだか泣きそう。
ケイティははじめよく分からなかったが、どうやら双剣で斬られた傷が痛むようだ。確かに深めの裂傷ではあるし、出血も激しい。
しかし、天下の魔人幹部の一体が、この程度の傷で泣きそうになる、なんてことがあるだろうか。
「き、き、き、貴様、何をした!? 一体、僕に何をしたぁぁぁ!!」
ケイティは悪気はなく、真面目に答えた。
自身の装備している双剣を示して。
「はい、斬りました」
間違いなく斬ったのでそう答えたが、なぜか【消滅卿】は叫ぶように怒鳴った。
「そういうことじゃない! なぜ、僕の無敵の消滅スキルが、通用しないんだ! それどころか、なぜ僕が攻撃を受けているぅぅぅ!!」
「えーと。よく分からないんですが」
しかし【消滅卿】には、ケイティの声は届いていない様子。
「いまのはマグレだ! こんなことが、続けて起こってたまるか! そうだ。僕は認めないぞ。さっきは、貴様を殺してしまわないよう、手加減したからだぁぁ!!」
意地になっているらしい。
こうしてまた【消滅卿】が消える。虚数空間に入ったわけだ。
ケイティは深呼吸して、また先ほどと同じことをした。
通常攻撃の繰り返しだ。
焦らずに、同じペースで、双剣による通常攻撃、通常攻撃、通常攻撃、通常攻撃。
ソルトの解説を思い起こしながら。
ケイティが〈暴力墓〉にソロで挑戦する前に、ソルトはこのように話した。
──「敵の姿が見えないとき、意味もなく通常攻撃している者は、まずいない。だから【消滅卿】も、まさか自分の消滅スキルに、こんな弱点があるとは知らないだろう。でも、それが致命的だな」
ケイティは、
「なぜです?」と尋ねた。
──「この消滅スキルは、狙った相手が通常攻撃していると、強制的にキャンセルされる。
つまり、だ。君が通常攻撃を一定の速度で続けていれば、消滅スキルは消滅攻撃のときに強制キャンセルされるわけだ。
しかも強制キャンセルの上、通常攻撃は必中。もしかすると、確率でクリティカルヒット。それも、かなりの高い確率で──意外と100パーいけるかも」
「どうして、そんなことになるんです?」
と、ケイティは当然な疑問を口にした。
ソルトいわく、
「消滅スキルが、チートすぎるからだなあ」
と、答えのような答えでないようなことを言ったが。
思い返していたら、また通常攻撃に手ごたえがあった。
見ると、新たな傷を受けた【消滅卿】が姿をあらわし、その痛みにのたうち回っている。
「なぜだぁぁぁ!! なぜこんな、痛いぃぃぃぃぃ!!」
「そんなに大騒ぎしなくても」




