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60,ケイティさん。

 


 ──ケイティの視点──


 ソルトに見送られて、ソロで〈暴力墓〉に再挑戦。


 ケイティはどきどきしながら、先へと進んだ。


 ソルトのすすめで、ケイティはアサシン・ジョブになっていた。


 ソルトが言うには、魔物側としては、相手を探知できないのが一番困る。


 ゆえにアサシンの専用スキルを複数会得して、ステルス戦法を極めるのが楽。

 場合によっては、敵モブ無視の駆けぬけも可能なので、ダンジョン周回のアイテム回収も楽になると。


(さすがソルトさんです。冒険者の戦いかたに詳しい。偉大な先輩です)


 と深く信頼しているので、ケイティはなんら疑わずにそう思っていた。


 はじめて会ったとき同じレベル5だったのに、なぜこんなに魔物について詳しいのか、まるで熟練冒険者のように実際の経験を得ているのはなぜなのか、という疑問は、とくに湧かなかった。


 もともとケイティが冒険者になったのは、貧しい実家を助けるため。

 名声やスリルに興味はないし、とくに魔物への恨みもない。

 ただダンジョン攻略するならば、無視するのは失礼、とも思う。


 そこで今回も複数のステルス・スキルを使いわけて、コツコツと遭遇したモブ敵を仕留めておく。

 いまさら、このレベルの魔物を倒しても、得られる微々たる魔水晶では、とくにレベル上げ貢献はしないが。


 ただレベルは上げたが、実戦経験は少なかったので、ここでそれぞれのステルス・スキルの特性を知るのも、良いことだ。


 たとえばスキル《絶の配》で、完全に気配を消せるが、物音は出る。

 足音殺すスキルを併用すれば済むと思ったが、意外と静かだと、衣擦れの音とかも目立つし、聴覚の鋭い魔物は誤魔化せない。


 ケイティはまず、魔物側に軽く混乱のデバフをかけみた。

 軽くでも混乱していれば、衣擦れの音には気づかない。


 その隙に背後から忍び寄って、致命の一撃。


 これでも上手くいったが、自身に『静寂』のバフをかけたほうが、長いあいだにわたって、完全ステルスモードを維持できる。


 考えるまでもなかったことで、デバフはかけた魔物が死ねば終わるが、バフ効果は効力が切れるまで、連続で魔物を倒しても、持続されるのだから。


(こういう分かり切ったことも、自分で試してみることで知ることができるわけです。何事も経験ですね)


 などと思いながらサクサク進んでいると、ついに50階層に至っていた。

 〈暴力墓〉のボス【消滅卿】のもとに戻ってきたわけだ。


 さっそくソルトから教わった攻略法を試そうとしたが。

 その前に、意外なことが起きた。


【消滅卿】と思われる魔物が姿を見せたのだ。

 外見は、ぞくにいう人型モードらしく、好青年ぽい感じ。しかし、この姿に騙されてはいけないわけだ。


 ここはさっそく攻略法を──


 ケイティは双剣を構えて、

(ですが……)

 と思う。


(うーん。何か話したいのでしたら、まず話を聞くのがマナーですかね? ボスとの戦いでのマナーを、ソルトさんに聞いておくべきでした)


【消滅卿】は何やら混乱している様子。


 混乱デバフはかけた覚えはないが。

 そもそも【消滅卿】のレベルの高さを考えると、ケイティのデバフ攻撃は通用しないだろうが。


「まて、貴様。先ほど殺したはずだ。僕がこの手で殺したはずだぞ?」


(あっ、そういうことですか。これは当然でしたね。先ほど、私、死にましたし。なぜ生き返ったかは、いまだによく分からないですし……一応、説明しておきましょう)


「はい。私は、先ほどあなたに殺されました」


「なぜ生き返っている? 死者蘇生のチートスキルでも有しているのか?」


「いえいえ、私はそんなスキルとかありません。ただなぜか生き返りまして」


「……冒険者の分際で、蘇っただと?」


「その言い方は、ちょっとフェアではありませんよ。魔物や魔人が生き返るのなら、冒険者が生き返っても、いいじゃないですか。これからは、そういう時代なのかもですよ」


「……ふざけるなよ、詰らない人間の分際で。いいだろう。今度は殺さず、生かしておいてやる。手足を切り取って、地下牢に入れておけば、蘇ることはできまい?」


「……それって、有りなんですか? 冒険者と魔人のあいだの暗黙の了解的に、無しでは?」


「死ね!!」


 ここでケイティは大事なことを思い出した。


 これから無事に【消滅卿】を倒すことができたら。

 仕留める直前に、伝えてほしいメッセージがあるとか。ソルトに頼まれたのだ。


【破壊卿】がよろしく、と。


(なぜ【破壊卿】なのでしょうか。まぁ、やってみましょう)



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